<浮動票>

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先日、大野更紗さんという方の本を購入したコラムを書きました。実は、そのときに一緒に購入した本があります。僕は定期的にブックオフに行って棚を見るのが好きなのですが、大野さんの本を購入した際に、買わずにいられない衝動に駆られた本が2冊もありました。

その本は池田晶子さんの「14歳の君へ」と「41歳からの哲学」という本ですが、池田さんはこれまでにも幾度かこのコラムで紹介しています。女性の哲学者なのですが、初めて存在を知ったのは読売新聞の「時の余白に」というコラムを読んでいるときでした。このコラムは美術担当の編集委員を務めていらっしゃる芥川喜好さんという方が書いています。

「時の余白に」というコラムは、美術担当の芥川さん書いていますので、当然美術関連の内容が多くなります。ですがときたま美術以外のことも書いており、池田さんについては、まさにその「美術以外」のときに紹介していました。その中で、僕の心を鷲掴みにしたのは「学校でもっとお金儲けについて教えてほしい」という親御さんの要望に対して、「学校は、『人生はお金儲けだけではない』ことを教えるところ」と回答していたからです。

現在、学術会議委員の任命に関して議論されていますが、池田さんはある著作で「本物の学者に対しては、国がお金を払ってでも守るべき」と話しています。世の中にはいろいろな意見があり、それらを元に様々な提言がなされますが、その提言を生かすためにも「学者の方々は国が守るべき」と書いていました。

基本的には、この考えに賛成ですが、その際に押さえておきたいことは「本物の学者」です。今の時代は「本物もどき」の学者さんもいそうですので、しっかりと峻別することが大切です。ちなみに、池田さんは2007年に46才の若さでお亡くなりになっています。池田さんには名言が多いのですが、数多ある名言の中からひとつ紹介します。

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〈知る〉とは、ゼロから自分で考えて
理解し納得することのみをいうのであって、
思考して〈知った〉事柄のことを〈知識〉と呼ぶ。

それに対して、外から与えられなければ
知ることの出来ない、あるいは与えられたことで
知ったような気になっている事柄のことを
〈情報〉と呼ぶ。

したがって〈情報〉と〈知識〉とは
思考によって対極的なあり方をしているわけで、
情報は思考を経ていない。
あれらは全く考えられていない。

∞∞∞∞∞∞∞∞

大切なことは「考えること」のようですが、「考える」には頭の中が凝り固まっておらず、柔軟で自由な状態でいることが必要です。そうでなければ、一つの情報や考え方に縛られてしまい、そこから離れることができなくなってしまいます。

こんなことを思ったのは米国の大統領選挙のようすをテレビで見ていたからです。僕からしますと、どう考えても嘘の情報を発信し、社会の分断を煽り、国際協調を壊している、としか思えないトランプ大統領ですが、現況では負けているとはいえ支持率が40%以上もあります。

昨日たまたまNHKでニクソン大統領が退陣するときの一連の流れを放映していましたが、あの当時はたとえ国家の最高権力者であろうとも「過ち犯した」なら、社会全体が糾弾していました。だからこそニクソン大統領は退陣に追い込まれたのです。おそらく与野党問わず糾弾していたのでしょう。

それが今はどうでしょう。共和党の一部の議員は「トランプ不支持」を表明していますが、「一部」にとどまっています。例えば、ブッシュ元大統領やマケイン上院議員、パウエル元国務長官といった共和党の重鎮と言われる人たちが「トランプ不支持」を表明しています。それにもかかわらずその他の多くの共和党の議員はトランプ大統領を支持しています。そこがニクソン時代とは違うのではないか、と想像しています。

僕は政治や政界に精通しているわけではありませんし、米国の政治などはとくに詳しくはわかりせん。ですが外から見ていますと、熱狂的な支持者がいることがそもそもの原因のように思います。熱狂的な支持者は考えを改めることを「よし」としません。なにがあろうとも、なにが起きようとも、ただただひたすら「支持」します。これが根本的な問題です。

これでは、候補者を中立的な視点で評価、さらに言うなら精査することなど無理でしょう。そこにあるのは妄信だけです。妄信で正しい判断ができないのは言うまでもありません。

そこで、僕は思います。

世の中の人の多くの人がどこの政党にも属さず、いわゆる浮動票の立場になったなら正しい投票につながるように思います。どこかの政党に属したり熱狂的な支持者になってしまいますと、その発想から抜けきれなくなってしまいます。例え黒いのものでも演説者が青と言いますと、青と信じてしまうのです。

そのような間違った判断をしないためには、浮動票の立場になるのが一番の対処法です。浮動票の反対は固定票ですが、固定票の人はその考えに固執していますので、意見の異なる人と対立してしまいます。なにしろ固定票ですから、それ以外の意見を受け入れることができないからです。

また、浮動票の立場ですと、臨機応変に投票を変えることができます。例えば、政策には賛成だけど人間性もしくは人格的に問題がある場合など、固定しているわけではありませんので人柄が素晴らしい人に投票することもできます。このように考えますと、浮動票の立場ほど政治に中立で、正しい対応をできることがわかります。

しかし、浮動票にも問題がないこともありません。

それは、浮動票は投票に行って、初めて浮動票になることです。

じゃ、また。




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