<なにを今さら>

pressココロ上




 30年以上前の話で恐縮ですが、私が小学校を卒業するとき、本当はローマ字を習っていなければなりませんでした。しかし先生の進め方が悪かったのか、授業時間が足りなかったのかはわかりませんがローマ字を習わずに卒業しました。中学に進学しますと英語が始まりましたが、小学校時代にローマ字を習っていない生徒はほかにもいてそのことが英語の理解に差がついたような気がします。やはりローマ字を習っていないと発音を覚えるのに時間がかかりました。This is pen.
 中学を卒業するときも社会科の授業で教科書の終わりのページはめくるだけでほとんど授業をしなかった記憶がります。この理由もさきほどと同じです。
 高校を卒業するときも同様です。高校の場合は「大学受験に対応するため」といった理由が本当のようです。
 ずっと以前から「近代史をほとんど習っていない」社会人が多いことは言われていました。先週に入り、突然、公立高校で「必要な必修科目が教えられていない」ことがマスコミをにぎわせていますが、私に言わせれば「なにを今さら」でしかありません。文部科学省が調査をしているようですが、間違いなくすべての公立高校で行われているはずです。なぜなら教室という現場では指導要領が実態にあっていないからです。
 福島県では談合に関連して知事が逮捕されました。この談合についても「なにを今さら」です。談合も昔から行われていたことです。さらに、飲酒運転も「なにを今さら」です。これらは昔から違法と知りながら社会全体が必要悪と考えていたり、もしくは「そこまで厳格にしなくても…」という思いの延長線にあった行為です。社会全体が「なぁなぁ」であった時代です。
 牛乳配達という仕事があります。昔は朝早くに配達するのが一般的でしたが、現在は昼間に配達する会社もあるようです。同じ会社であっても営業所によって配達時間がまちまちのようですので昔のように朝早く配達している営業所は半分くらいでしょうか。
 朝早く配達している営業所は午前3時~午前7時の間に配達するように決められているところがほとんどです。午前7時までという制限は仕事に出かける前に飲みたいお客様のためです。午前3時からという制限は周りの住民への配慮からです。あまり早く配達を始めると「エンジン音がうるさい」「荷物を運ぶ音が気になる」などと住民からクレームを受けることになってしまいます。住民に嫌われて牛乳が売れるわけはありません。午前3時~午前7時の間に配達するという決まりは最も守らなければならない規則です。
 ところが…。
 実際に配達をしている配達員にとっては現実的ではありません。例えば、新規のお客様が加入したときはその住所を探すのに手間取ることもままありますし、キャンペーンなどで乳製品にチラシをつけるときは作業が増えるため配達時間内に終えることは難しくなってしまいます。配達時間内に終えようと思うなら自ずと午前3時以前から配達を始めることになってしまいます。
 本当は規則違反ですが、規則を破らなければ仕事を終えることができません。会社側の現場の管理者はそうした事情を知っていますので午前3時以前に配り始めることを黙認しています。しかしあくまで黙認であって「認めている」わけではないのです。もし会社の上層部から問い合わせがあったならやはり「午前3時から配達している」と答えなければなりません。
 今紹介しました牛乳配達の事例は、会社の方針が実態に即していないことが原因です。会社の規則に無理があることを示しています。それでも仕事は続いているのですからそこには「なぁなぁ」という雰囲気があります。あまり厳格に対処すると仕事が回らなくなるからです。もしそこに監査などが入り厳しく対処するなら「なにを今さら」です。
 法律や会社の規則が現実にそぐわないとき、最も損をするのは現場で働いている人たちです。現場の人たちは「机上の論」と「実態」の矛盾を抱え込まされることになります。こうした状態がよくないことは明らかです。
 教科書の必修単位や談合、飲酒運転、または牛乳配達の配達時間などの問題はすべて法律や会社の規則が実態を無視したものになっていることが原因です。また、数年前から言われている医療の崩壊も同じです。厚生労働省の指針が実態に合っていないのです。「なぁなぁ」が時代に通じなくなってきています。これらを解決するには法律や会社の規則を厳格に徹底させるか、反対に法律や会社の規則を現場の実態に合った内容に変えることが必要です。それが現場の人たちの負担を軽くすることにつながります。
 さきほど「机上の論」と「現実」の間の矛盾を指摘しましたが、ステロタイプ的に考えるなら「机上の論」は「机上の空論」として捉えがちです。しかしすべての「机上の論」が「空論」であるわけでもないはずです。現実を見据え全体のことを考えた「机上の論」もあるはずです。ただ、その数は少ないでしょうが…。
 現実を無視し、実態にそぐわない「机上の論」が実行に移されるなら、その「机上の論」は必ず破綻します。
 もし「机上の論」が破綻したなら僕は言ってやるんだ!
「そら、見たことか!」
 じゃ、また。

紙.gifジャーック!




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