<経営者>

pressココロ上




 北海道の食品加工卸会社が牛肉コロッケに豚肉を混入させていた事件がありました。事件について会社が記者会見を開きその模様がテレビで放映されていましたが、そのやりとりにはビジネス社会の縮図が凝縮されていたように思います。
 会見には社長、工場長、社長の息子さんらが並んでいました。記者の追及が「誰の指示か?」に及んだとき工場長ははっきりとは答えられず、そして社長は「あいまいな表現」でやり過ごそうとしていました。
 たぶんこの映像を見たとき、ほとんどのビジネス人は企業の上下関係を想像した、と思います。そして悲しくなったのではないでしょうか。
「人間は遠くにいるほど正義を叫ぶ」と喝破した文化人がいましたが、工場長は正義を語れないほど近くにいました。
 社長の言葉を聞いてやりきれなかったのでしょう。途中で息子さんが言葉を挟みました。
「社長、本当のことを言ってください。曖昧な表現を止めて、やったのなら認めてください」
 息子の言葉に社長がうろたえていたのは映像にはっきりと表れていました。結局、息子さんの発言に促され社長は自らの指示であることを認め、そして工場長も婉曲的に「社長の指示である」ことを認めていました。
 工場長が真実を答えられなかったことを「情けない」と感じた人もいるでしょうが、ビジネス社会では上司を責めるのは容易ではありません。もし私が工場長の立場にいても簡単には真実を答えられないでしょう。やはり問題は上司である経営者です。
 本来経営者であるなら過ちも素直に認め謝罪すべきものです。しかし地方の一中小企業にすぎない会社の社長が多くの記者に囲まれ追求されて臆した気持ちもわからないではありません。ですが、経営者は逃げてはいけなかったのです。しかし救われたのは息子さん発言でした。父親である社長は息子さんの発言がどれだけ自身を助けたのかわかっているのでしょうか…。
 と先週は感動した場面がありましたが、今週の<私のココロ>は僕が好きになった経営者窪山哲雄氏について書きたいと思います。
 テレビニュースで、来年日本で開かれるG8サミットの会場がザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパに決定したと報道されていました。
僕、「ふ~ん」。
 新聞を読んでいましたら、そのザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパの総支配人が紹介されていました。なんと39才でしかも女性でした。
僕、「へぇ、すごいなぁ…」
 図書館で「面白そうな本はないかなぁ」と本棚の前をウロウロしていました。僕がチェックをする棚は大体決まっています。その日は商業の棚を見ていました。すると目に留まったのが「窪山 哲雄(著)」という本でした。題名は「プロジェクトホテル」。たぶん題名だけでは目に留まることはなかったと思います。著者名に惹かれたのです。棚から取り出しページをめくってみますと瞬間記憶が蘇りました。
「あっ、もしかしたら…」
 僕の頭の中で3つの見聞が1つになって結びついたのでした。
 記憶は定かではないのですが、今から7~8年前の深夜、NHKでドキュメンタリー番組を放映していました。内容は北海道のホテルを再建すべく獅子奮闘している経営者のお話です。それが窪山氏でした。
 20世紀も終わろうとしていた頃、長崎ハウステンポスでホテルの社長をしていた窪山氏を当時北海道拓殖銀行の幹部が訪れます。バブルの頃に建設された「ホテルエイペックス洞爺を再建してほしい」という要請でした。紆余曲折の末、窪山氏はホテルエイペックス洞爺に赴くのですが、最終的には北海道拓殖銀行に梯子をはずされた形で窮地に陥ってしまいます。三顧の礼で迎えられたにも関わらず梯子をはずされたのですから、本来なら怒りを覚えすぐにでも立ち去っても不思議ではありません。しかし、窪山氏は新しいオーナーを探すべく走り回るのでした。そこには経営者としての執念が感じられました。
 言葉は悪いですが、窪山氏の立場は「雇われ社長」にすぎません。にも関わらずなんとしてもホテルを再建させるという執念は経営者の本来の姿を映し出しているように感じました。
 本来、企業は「資本」と「経営」は分離しているはずです。窪山氏の本によりますとホテル業はさらに「運営」と分かれているそうですが、「資本」がお金の動きであるのに対して「経営」は企業をどのように動かすかを考えることです。そして「資本」「経営」ともにそれぞれ責任を負っているのは当然です。「資本」は失敗するならお金を全て失いますし、「経営」はやり方を間違えるなら刑事罰を負うことさえあります。
 以前から僕は、マスコミやメディアに頻繁に登場する経営者の方々は「本当に経営者といえるのか?」と疑問に感じていました。ほとんどの経営者は投資家かもしくはCFO(最高財務責任者)にすぎないのではないかと思っていました。そんな中での窪山氏です。
 企業は存続するためにいろいろな対策を行います。例えば売上げを上げるためには、それこそ飛込み営業もあるでしょうし、なにかのツテを頼ってアポイントをとることもあるでしょう。それ以外に経理の事務が滞ったときに人員に問題があるのか、または人間関係に問題があるのかなど具体的な対策が山ほどあるはずです。そうしたときにそれらに対処する具体的な方法を示すことができるのが経営者だと思います。単に、「どこそこと合併する」とか「どこそこの部門の利益率を上げる」などと方針だけを掲げるだけでは経営者とは言えません。具体的な対処法を持っている考えることができる人が経営者です。
 窪山氏は一度はホテル再建から遠のきますが、それでもあきらめてはいませんでした。そして2002年に「ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ」 として再開していました。7~8年前にテレビで見て、「この人すごいなぁ、好きだなぁ」と思っていましたが、その後は名前も忘れていました。ただ、なんとなく頭の隅に残っていたのですが、今回このようにして詳しく知ることができて幸せです。
 でも、もしかすると長い間思い続けていたから好きなのかもしれません。そう、初恋のように…。
 僕の初恋は高校1年の春、学校の中央広場で発生しました。僕の学年は9クラスまであり僕は9組でした。そして9組だけは本校舎から渡り廊下でつながっている別校舎にありました。
 当時の僕はアイドル似の笑顔に身長178cmで下駄箱にはラブレターが入っていることがたびたびありましたが……。
 あっ、僕の良心が僕に語りかけてきました。
「お願いです。本当のことを書いてください」
 す、すみません。当時の僕は身長も158センチしかなく高校生に見えないくらい子ども子どもしておりごくごく平凡な高校生でした。ついつい見栄を張って書いてしまいました。申し訳ありません。
 あ~、よかった、良心があって。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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