<ホッとする>

pressココロ上




 中国製ギョーザに薬物が混入していた事件以降、売上げが落ちています。新聞報道ではスーパー各社でも冷凍加工品の売上げが2~3割落ちているということですから仕方ないことかもしれません。しかし売上げが即収入に直結している個人商店としては心穏やかではありません。早く事件が収拾し騒動が終わってくれるのを願っています。
 ニュースで赤福の販売再開が報道されていました。映像では販売再開を心待ちにしていたお客さんが行列を作っていました。北海道の「白い恋人」も販売再開直後は売上げが好調だったようですが、どちらの関係者もまずは一安心「ホッとしている」のではないでしょうか…。
 しかし赤福の販売再開を報じていたニュースの最後に語ったナレーションがこの事件の核心をついています。
「今後の売上げでお客様の信頼を取り戻したかどうかが問われます」
 大切なのは「今後」です。販売再開直後は一定の割合で必ずいる固定客が一時期に集中しますので行列をなすほどに売れます。ですが、その固定客が終わったあとにこそ真価が表れます。本当の真価は「今後」です。
 「赤福」にしろ「白い恋人」にしろ問題になったのは食品衛生についてでした。しかし、僕はこれらの商品は食品ではない、と考えています。ではなにか?
 それは「お土産品」です。ですのでこれらの商品の売上げに本当に影響を与えるのは「お土産品」としての存在価値に影響を与える出来事があったときです。例えば、伊勢神宮に参拝するお客さんが減ったりとか、北海道への旅行客が減ったりなどお土産を購入するお客さんそのものが減ったときです。今回の食品衛生に関する事件は時間の経過とともに風化していくのではないでしょうか…。
 ある日の夕方、自転車に乗った中年男性が来店しました。串カツとコロッケを買ったあと店頭で食べながら店先の貼り紙を読んでいました。その貼り紙には「チェーン本部が倒産したので春頃に閉店します」といった内容が書いてあります。この貼り紙は本部倒産直後に張り出したのですが、買いにくるお客様または通行人の方々は興味深そうに読んでいきます。
 貼り紙を読んでいる人の表情も様々です。「へぇ~…」といった感じの人や「文字を一文字一文字確かめる」ように読み入る人などその表情を見ているのも一興です。中には同情して優しい言葉を投げかけてくれる人や「移転先が決まったら教えてください」などと僕を励ましてくれる人もいます。しかし、反対に「ざまぁみろ」と思っている人もいるのでしょうが、さすがに言葉にして言われたことはありません。ですが、やはりそういう人は「ざまぁみろオーラ」が出ています。
 人間の心理とは複雑なものでいろいろな気持ちが錯綜しているものです。性格の悪い奴は「他人の失敗」を喜びます。「他人の不幸は蜜の味」を心底味わいます。では性格のよい人は「全くそういう気持ちはないのか」というと難しいところです。特に同年代であるならなおさらです。元々「性格のよい人」ですから「ざまぁみろ」などとは決して思いませんが…なんと言ったらいいのか…、…「ホッとする」。そうです。「ホッとする」という表現が最も近いような気がします。この複雑な気持ち、あなたはわかるでしょうか? 僕がラーメン店廃業後に知った「僕の周りの人たち」の気持ちです。
 もし、あなたが脱サラして大成功したときはあなたの周りのお友だちや知人はこの複雑な気持ちでいることを留意していましょう。
 さて、串カツとコロッケを食べながら貼り紙を読んでいた中年男性は読み終えると話しかけてきました。
「親会社、潰れたんだ…。残念だね。俺さ、最近のテレビでは高いものばかりを紹介してるから頭にきてたんだよね。こういう庶民的な店のほうが好きだよ」
 この言葉は僕を喜ばしてくれました。この商売を選んだのも単価の高い商品ではなく単価の安い商品を扱う仕事をしたかったからです。
 さらに男性は続けました。
「でも親会社の社長はテレビによく出てたよね。結構売れてたと思うけどなぁ…」
 確かに社長は頻繁にマスコミに登場していました。倒産する2ヶ月前にも「儲かる商売」として登場していました。しかし、その実態は「社長の言葉」とはかけ離れたものでした。そうしたことも確認せず放映したマスコミにも問題があります。
 「チェーン本部」は僕が始めるときすでに業績は落ちていました。その時点で閉店に追い込まれていた既存店は多数出現していました。本部の命綱は「新たに加盟するオーナー」から得る加盟金と「その開店にまつわる工事などからピンハネする手数料」になっていたはずです。つまり自転車操業に陥っていました。
 既存店が閉店に追い込まれる理由は簡単です。出店環境を考えずに闇雲に出店していたからです。しかも運営に関するノウハウは全くありませんでした。「開業」ではなく「運営」に関するノウハウが全くなかったのです。これでは飲食業が初めての人がうまくいくはずもありません。僕の店に商品を納めにきていた問屋さんの話では多くの店が開店後5ヶ月くらいで廃業していたそうです。…「なにをか言わんや」です。
 先週もお話しましたように僕は現在店舗の引っ越し先を探している最中です。契約満期が刻々と近づいている中、少し焦りも出てきました。しかしなかなか希望に適う物件が見つかりません。開業をサポートする業者などにも連絡はしているのですがあてにはできません。やはり僕が探している物件が小さな店舗ですので業者にしてみれば「利益が少ない」のが動きが鈍い原因でしょう。…早く希望に適う物件が決まって「ホッとしたい」です。
 ところで…。
 どんな人でも社会で生きていると緊張を強いられます。職場や学校で他人と過ごすのですから仕方がありません。そんな中、恋人や妻にするならやはり一緒にいて「ホッとする人」が理想です。普段の緊張を解きほぐしてくれるのですから心が穏やかになりそして落ち着き明日への活力が湧いてくるというものです。
 先日、新聞を読んでいましたら妻がすごい剣幕で怒鳴ってきました。理由を聞きますと「息子のコップを僕が使った」ことに怒っているのでした。僕は意識をしたこともないのですが、我が家には「息子および娘専用のコップ」があるのでした。僕はそうとは知らず目の前にあったコップを使ってしまったのでした。僕は心中では「コップくらい誰のでもいいじゃん」とは思っていましたが、妻の剣幕に圧倒され素直に謝ることにしました。でもコップくらいであそこまで怒らなくても…。
「僕の妻は、すぐに『ホット』する」
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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