<モンスターカスタマー>

pressココロ上




 保健所に営業許可書を受け取りに行ったときのことです。受付で案内されたブースに行きますと担当職員の方が来ました。僕が訪問理由を告げますと「少々お待ちください」と言いその場を離れました。一人残された僕はなにもすることがありませんのでなにげなく隣のブースを見ました。そこには60才後半と思われる女性と保健所の方2名が向かい合って座っていました。女性は白髪混じりで髪をきちんと整えめがねをかけていました。服装もきちんとしており全体的に「品がある」雰囲気です。
 もちろん話の内容までは聞こえませんが、話し合っている様子からテーブルに置いてある食品について意見交換をしているようでした。保健所の方2名は上司と思われる50才過ぎの男性とその部下といった感じの若い女性です。食品はビニール袋に入れられ漬物のように見えました。保健所の方の対応は重々しい感じではなくときたま笑顔さえ見せ決して問い詰めているふうもありませんでした。
 まず、男性が袋の中から1つを取り出し臭いを嗅ぎそして口に入れ幾度も頷きながら食べていました。それに続いて向かいに座っている女性も食べました。そして最後に部下の女性も食べました。それぞれに「味や食感を確かめている」ようになんども口の中で噛みそして舌で確認しているようでした。
 一通り味の確認が済むと男性が首を少し傾け微笑みながら女性になにか話しかけました。それに対して女性も少しの笑顔で答えていました。そうしたやりとりが2~3度繰り返されていましたが、そのときたまたまほかの職員の中年女性が男性のうしろを通りがかりました。すると男性はその中年女性に向き直り声をかけました。中年女性は一言二言話すとテーブルの上に置いてある食品をひと口食べました。やはり「味を確かめる」ように口の中で食品を転がしていました。そして微笑みながら男性に感想を言っているようでした。
 ここまで見たところで僕の担当者が営業許可書を持って来ましたので僕は受け取りその場を離れるしかありませんでした。本当はもっと続きを見たかったのですが…。
 その帰りの道すがら僕の想像力が全開です。
 訪れていた女性は飲食店を営んでいる店主です。そしてテーブルに置いてあった食品はお客様に販売している商品です。たぶんその商品に対するクレームが保健所に届いたのではないでしょうか。クレームの内容は「味がおかしい」…。
 飲食店に限らず消費者に直接接している販売業を営んでいますとクレーム対応の「良し悪し」は店の命運を左右すると言っても過言ではありません。特に近年は消費者の力が増していますのでその傾向はさらに強まっています。「モンスターペアレンツ」ならぬ「モンスターカスタマー」が数多くなっています。
 話は逸れますが…。
 僕のコラムは毎週題名を変えて書いていますが、以前「モンスターペアレンツ」と題して書いたことがあります。そして僕のコラムを検索から訪れてくれた方のキーワードとして「モンスターペアレンツ」が上位に入っています。「モンスターペアレンツ」に関心を持っている人が多いことに驚いています。
 話を戻しまして…。
 「モンスターカスタマー」は自分の都合だけを店側に押し付けるのが特徴ですが、それら全てを受け入れていては店側は潰れてしまいます。拒否することも必要ですが、そうしますと冒頭の保健所の例のように行政にクレームとして訴える手段に出ることもあります。しかし飲食店の場合、きちんと対応さえしていれば保健所はむやみに「処分」などという対応はしません。
 保健所はクレームについて熟知しています。
 例えば、ある店の接客態度に不快感を持ったために「味がおかしい」などとクレームをつけることがある、こともわかっています。ひどい例になりますと新規開業した店への嫌がらせのために既存同業者がクレームを通報することがある、こともわかっています。保健所は「モンスターカスタマー」が存在することをわかっていますので安易に店側を問い詰めたりはしません。冒頭の例のように店側の話も聞き今後の対応について一緒に考えてくれます。
 それにしても、店側にしてみますと「モンスターカスタマー」の存在は悩みの尽きない問題です。対応を1つ間違えるなら廃業に追い込まれることもあります。飲食業に限らず不特定多数の消費者を相手に仕事をする業種に従事している方は今後はさらに「モンスター」に対応する術を身につけている必要があります。
 
 報道によりますと、福田首相は新たに「消費者庁」を創設するようですが、これは「消費者の立場が弱い」ことを示しているように思います。「モンスターカスタマー」が存在するのも事実ですが、それとは正反対の「子羊消費者」がいることも事実です。
 例えば、悪質な企業から法外な価格で売りつけられた健康食品や学習材、またはリフォーム工事など「子羊消費者」が餌食になっている例は枚挙に暇がありません。これらの共通点は、相手の無知につけ込んだり押し売り同様の方法で販売していることです。こうした悪質な企業は「子羊消費者」に狙いを絞っているのが特徴です。
 僕が最近気になっているのはクレジット業界です。悪質な業者が高額な商品を販売するとき、そのほとんどはクレジット契約を利用しています。消費者は解約・返品をしたとしてもクレジット契約だけが残ることになりこれでは消費者の損害が免れたことにはなりません。やはりこうしたケースではクレジット契約も無効となる法律が望まれます。こうしたケースは特に高齢者や女性といった弱い立場の人たちがほとんどですのでできるだけ早く法律改正をしてほしいものです。
 一時期「消費者生活センター」を縮小する報道がなされており僕は心配していたのですが、福田首相が「消費者庁の創設」を指示しているように消費者保護の流れに戻ってきているようです。僕は大賛成です。
 ここまでお読みになっておわかりだと思いますが、「モンスター」は「カスタマー」に限りません。「カンパニー」も存在します。そして、以前書きましたように「ペアレンツ」もいます。このように考えますと「モンスター」は様々な場面で存在していることになります。政界、産業界、法曹界、市民社会などどの世界でも存在します。そうです。「モンスター」は隙あらば生れ出ようと虎視眈々とチャンスを窺っているのです。「モンスター」が生まれてよいことはなに一つありません。「モンスター」は「怪物」ですから多くの人に被害を与えるだけです。我々は「モンスター」が生まれないようにしなければなりません。
 僕は最近思っています。
「モンスターを生んでいる」のは我々自身ではないか、と。
 自分以外のことに対する無関心、他人への思いやりの欠如など「自分さえよければよい」という風潮が「モンスター」を生んでいうように思えてなりません。「モンスター」が生まれて損をするのは我々自身です。「モンスター」が生まれないように日々注意を払いながら生きましょう。
 と、言いつつ僕だけに限ったことで言いますと困った問題があります。実は、…僕、「モンスター」と結婚しちゃったんですよねぇ…。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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