<板倉さんと夏野さん>

pressココロ上




 最近の民主党を見ていますと、ちょっとばかり危惧を感じます。それは小沢さんの力が強くなりすぎる感があるからです。例えば、行政刷新会議の事業仕分け人の人選に対して小沢氏がクレームをつけ人事が撤回されたひとコマに表れています。クレームの理由は議員としての「教育が終わっていない新人議員が選ばれているから」というものですが、僕が気になるのは小沢氏に対して仙石氏や平野氏があっさりと謝罪していることと、さらに気になるのは「謝罪した事実」を平野氏が会見で公表したことです。これでは、まるで小沢氏が主で仙石氏や平野氏が従の位置関係にあるように世間にアピールしているようなものです。僕にはあまりよい印象は感じられませんでした。
 また、地方や団体からの陳情の受付を幹事長室一つに限定したことも不安感を助長させます。確かに、自民党時代の弊害であった族議員をなくすには有効かもしれませんが、あまりに小沢氏に権力が集中しすぎているように感じます。
 幹事長というポストはただでさえ党の全てを取り仕切る強力な立場であるのに、さらに強固なものにしていくようで心配です。ひとりの独裁者が支配する組織が健全な活動をできなくなるのは歴史が証明しています。「民主党」という名前が泣いてしまいます。
 本来ですと、小沢氏の力に対抗するべく人材が党内に必要ですが、そうした人材が政権に移ってしまっています。現在、小沢氏に対抗できるだけの力を持っている議員が党にいないことが小沢氏に権力が集中してしまう原因です。早く小沢氏に対抗できる人材が出てくることを願っています。
 現在の民主党は新人議員が多いので小沢氏がリーダーシップをとるのは仕方のない面があるのも事実です。しかし、新人とはいえ議員は被選挙権を持っているのですから立派な大人です。その大人が上司の指図にただ従うだけであるのはいただけません。しかも議員はひとりひとりが独立した存在です。個人事業主と同じです。会社員であるなら上司の命令に従う義務があるとは思いますが、独立している個人が所属する組織に全てにおいて従う必要はないはずです。議員ひとりひとりが自分の意見を持ち自分の意志で行動することが望まれます。
 先週、「自分ブランドを持ちましょう」と書きましたが、会社員であっても上司の命令や会社の方針にただ従うのではなく自分の価値観で行動することは可能です。それができなければ社会人として失格でさえあるように思います。もし会社が犯罪を犯していたなら共犯者となってしまいますし、犯罪とまではいかなくとも会社の方針に問題があり自分の考えとかけ離れているなら会社を飛び出すのも選択の一つです。
 会社を飛び出したあとの進む道としては、脱サラのような「独立」という道と「転職」という道があります。一見すると、転職よりは独立のほうが華やかで世間受けしますし自分の価値観や能力を100%生かせそうに見えます。中には、独立のほうがビジネスマンとして能力が高いといった印象さえ持つ人もいます。確かに、独立するには勇気が要りますし多くの困難や障害に立ち向かう気概が求められます。しかし、ビジネスマンとしての能力には無関係のように思います。
 僕は以前、本コーナーで「ベンチャーわれ倒産す」という本を紹介しました。この本は板倉雄一郎さんという起業家がハイパーネットという会社を興した創業記ですが、「昔、大臣賞。今、自己破産」という副題にもありますように一時は時代の寵児と持て囃されながら最後は自己破産に至った話です。板倉氏の考えた事業は、現在のgoogleと同じようなネット広告のシステムだったのですが、「ちょっと時代を先取りしすぎた」のがうまくいかなかった理由だと僕は思っています。板倉氏は破綻後、しばらくしてその体験を基に経営コンサルタントとして活動しはじめました。しかし、一時期の勢いはなく第一線で活躍しているとはいいがたいものがあります。
 このハイパーネットで板倉氏の右腕として副社長の役職にいた人が夏野剛さんです。夏野氏の本も以前紹介していますが、夏野氏はハイパーネットが倒産する数ヶ月前に会社の先行きや社長である板倉氏の方針に合わず退社しています。その後、夏野氏はNTTに入社し「iモード」の開発に関わり、業界では「iモードの父」と呼ばれていたそうです。
 僕の記憶では、NTT入社当初の役職は「部長」だったように思いますが、その後は執行役員に上りつめ現在はNTTを退社しています。退社の理由をある雑誌で「役職上の限界」というような意味を語っています。やはり執行役員とはいえ最終権限はトップにあり、全てを自分の思い通りにできないことに限界を感じたようです。それでも現在も数多くの有名IT関連企業の役員を務めていますし業界内ではカリスマ的存在になっており、現在でも間違いなく第一線で活躍していると言えます。
 なぜ僕がこの二人を紹介したかと言いますと、脱サラ独立するだけが「成功の道ではない」と知ってほしかったからです。夏野氏のように、独立しなくとも立派に社会的に成功することも可能です。このことはとても重要なことで、お金に関してリスクを負わずに成功できることの証明になります。自分の能力さえ磨けば会社員としても立派に成功できます。もしかしたら板倉氏もトップという立場でなくナンバーツーの立場を選択していたならお金のリスクを背負う必要がありませんから、今でも第一線で活躍していられたかもしれません。若い読者の皆さん、マスコミなどが煽り立てる華やかな独立だけを目指すのではなく、自分の能力を高めリスクの少ないビジネスマン人生も悪くはありません。是非、頑張ってください。
 ただし、会社員であろうとも常に自分の考えや価値観だけはしっかりと築いてください。そうでないと、金子光晴氏に怒られますよ。
 ところで…。
 大阪府は橋本知事の下、教育に力を入れています。全国テストでの下位の結果を受けての対応ですが、百マス計算で有名な陰山氏や元和田中で「よのなか科」の授業で注目を集めた藤原氏などが顧問となって教育改革に取り組んでいます。
 この改革が功を奏したようで、その後の全国テストでは成績が上がったそうです。この結果を持って、百マス計算が学力向上に効果があるかのように報じられています。しかし、僕は異論があります。
 実は、僕は百マス計算の勉強法に批判的です。確かに百マス計算を実践したことによって全国テストの成績が向上しましたが、僕には当然のように思います。百マス計算は全国テストでよい成績を上げるための勉強法だからです。あくまで全国テストのための勉強法でしかなく学力とは無関係です。
 例えて言うなら、百マス計算の勉強とは、将棋盤に駒を放り出し、それぞれの駒を規定のマスに並べていく練習です。マスに並べる練習を毎日繰り返すのですから上手になって当然です。そしてテストとはその並べる「正確さ」や「早さ」を競うことです。この「正確さ」や「早さ」が向上したとしても将棋の強さとは関係ありません。将棋の強さは、定跡を覚えたり十手先二十手先を読む想像力であり知力です。いくら駒を「正確に」「早く」並べても将棋が強くなることはありません。本当の学力とは将棋の強さです。
 百マス計算の勉強ばかりをしていると、本当の学力が高くなるのではなく、他人からあまり好かれない人間になるんじゃないかなぁ…。えっ、どんな人かって?
 計算高い人。
 じゃ、また。




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