<毒まんじゅう>

pressココロ上




 1ヶ月ほど前になりますが、「ガイアの夜明け」というテレビ番組でコスト削減をテーマにした特集を放映していました。番組の中でクボタという会社を例に上げ具体的な取り組みを紹介していました。コスト削減にはいろいろな方法がありますが、クボタは取引先に作業場改善を求め、納品価格の低下を目指していました。クボタが改善チームを派遣し取引先(つまり下請け会社です)会社の工場現場の非効率な点を指摘し生産性を上げ納品価格を下げさせようという算段です。
 下請け会社としては、親会社の意向に逆らえるはずはありません。もし意向を拒否するなら取引きを中止されてしまいます。当然、下請け会社の社長はクボタの改善計画を受け入れます。これは単に親会社に対するご機嫌取りという意味だけでなく、下請け会社自身のためでもあります。効率が上がり生産性が上がることは即ち会社の利益が増えることになるからです。しかし、この場合は親会社の提示する納品価格に応えるためですから、会社の利益に直接貢献するわけではないかもしれません。それでも親会社の提示する単価に応えられるということは取引きを継続してもらえることですから意味がないことでもありません。
 下請け会社の社長は、親会社の意向に理解を示しますので一も二もなく受け入れますが、工場の現場で働いている従業員は素直に受け入れられないようでした。親会社からの派遣チームに対して反発心を抱いていました。その証拠に派遣チームの指摘に反論をし容易に従おうとしませんでした。
 人間は基本的に保守的に考えるのが常ですので今までのやり方を変更することに抵抗します。しかも改善が労働強化につながるケースは尚更です。最終的には、この改善計画は紆余曲折しながらも成功したのですが、もしこの下請け会社に強力な労働組合があったなら成功の可能性は低かったでしょう。
 受取者が判明しない年金、いわゆる「宙に浮いた」年金が問題になっていますが、これほど杜撰な管理が長期間まかり通っていたのは、まさしく社会保険庁の組合が大きな原因です。経済誌によりますと、IT導入に伴う際、パソコンに向かっている時間の制限や一日に打つ文字数までも協定が結ばれていたそうですから仕事の効率や生産性向上など望むべくもありません。先ほどの下請け会社が改善を成し遂げられたのも強い労働組合が存在しなかったことが大きな要因です。
 クボタからの派遣チームは最後まで粘り強く、ときには強い口調で、ときにはお願い口調で接し続けることで改善を成し遂げました。しかし、その過程ではやはり憤る感情も沸いたようでした。改善すれば効率が上がることがわかっていながらも素直に受け入れない従業員に対してです。親会社から派遣されたチームですので当然ですが、下請け従業員に対する意識が完全に「上から目線」になっていました。
 僕は基本的に「上から目線」で接する人を好みません。派遣チームの人たちも単に親会社に属していたからこそできる「上から目線」であり、もし親会社という看板を背負っていなかった「上から目線」などできなかったでしょう。ましてや、工場の従業員の人などは耳も貸さなかったに違いありません。派遣チームの人たちが本来持つべき目線は「謙虚な目線」であり従業員と「対等な目線」です。それなくして真に生産性の高い職場などできるはずがありません。そもそも派遣チームの改善計画は親会社の利益のためのものであり、その改善策が下請け会社にとってベストである保証はどこにもないはずです。いざとなれば親会社から取引きを切られる可能性もあります。そこまで考えるなら派遣チームは「謙虚な目線」で接する義務があるというものです。
 最近、ますますPB商品の開発が盛んですが、PBに関して考えさせられる報道が先日ありました。それはPB商品の生産を請け負っている企業の倒産です。
 PB商品は大手小売業が企画するわけですが、生産はメーカーに委託するのが一般的です。普通は、PB商品の委託を受けるのはナショナルブランド(NB)を生産していない、もしくはNB商品が主力となっていないメーカーが請け負います。メーカーにしてみますと、少しでも工場の稼働率を上げたい気持ちがありますので止むに止まれず請け負ってしまうのが実状でしょう。
 今回、倒産したのは豆腐業界3位の企業でした。下位の企業ならともかく上位の企業でさえPB生産を請け負っていたことには驚かさせられます。それほどメーカーが苦境に追い込まれている証でしょう。メーカー業界では、PB商品を請け負うことを「毒まんじゅうを食べる」と表現するそうです。倒産した企業はまさに毒に侵された結果でした。
 PB商品の生産を請け負うということは下請け企業になることを意味します。自社ブランドですと価格や品質の決定権がありますが、PB商品ではそれらの決定権は委託元にあるからです。自ずと利幅は少なくなりますし生産に対する裁量に制限があります。この状態は経営の幅が狭まることであり、それだけリスクを抱えることでもあります。倒産した豆腐企業は委託元に助けられることはありませんでした。
 下請け企業でいることは楽なことでもあります。ただ親会社から言われることに従っていればいいだけだからです。しかし、それは「毒まんじゅう」を食べることです。もし倒産するにしても「自分に全決定権がある」場合と「限られた裁量しかない」場合では、その結果を受け入れる気持ちに差があるはずです。もちろん「限られた裁量」では後悔の気持ちが強いのではないでしょうか。「毒まんじゅう」も「まんじゅう」ですのでおいしいかもしれませんが、所詮は「毒」です。「毒」が身体によくないのは倒産した豆腐会社が証明しています。
 「毒まんじゅう」が企業によくないことを書いてきましたが、実は個人にも言えることです。中高年になると「まんじゅう」を選んでいる余裕はありませんが、若い人は意地でも「毒まんじゅう」など食べずに「自分ブランド」を築いてほしいものです。その道はとても辛く苦しいことですが、意義のある体験ができるでしょう。
 ところで…。
 日航が迷走しています。タスクフォースなるチームも解散することになってしまいました。今後は国交省が前面に出てくる気配ですが、官僚は胸のすく思いをしているのではないでしょうか。
 ここにきて各閣僚の発言を聞いていますと、少しずつ変化しているのを感じます。僕から見ますと、少しずつ「官僚に取り込まれている」印象を受けますが、皆さんはどうでしょう。
 今回の日航問題を見てもわかるように、官僚の力を全く用いず政策を遂行することには無理があるようです。大切なのは、官僚の力を「用いない」ことではなくどれだけ政治家がリーダーシップをとれるかです。
 民主党政権は「官僚政治の打破」を掲げていますが、田中元首相のように官僚に対して巧みな手綱捌きをするなら大きな力になるはずです。政権の中にも官僚出身の政治家がいますからその人たちに力を発揮してもらえばよいのです。昔から言うではありませんか。
「毒には毒を持って制す」
 じゃ、また。




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