< △(なぜならば)>

pressココロ上




 数学の証明問題で、証明をする前につける記号は「△」です。自信はありませんが、たしかそうだったように思います。高校のときの数学担当の五十嵐先生は親しみがありユーモアがあり生徒から人気のあった知的な先生でした。この記号「△」は、一般的には「なぜならば」と言うらしいのですが、五十嵐先生はなぜか「なぜかならば」と「なぜ」と「ならば」の間に「か」を入れて言っていました。
 今週の出だしの文章を読んで、なにかを感じた人は僕のコラムの通の人です。なぜかならば、このネタは数年前に書いたことがあるからです。
 と言いながら本題。
 皆さんは「ねんきん特別便」と「ねんきん定期便」の違いをご存知でしょうか。簡単に言いますと、「特別便」は社会保険庁で年金情報を正確に把握できていない人に送付する通知で、「定期便」は情報に問題があるかないかに関係なく定期的に送付する通知です。ですから「定期便」は全員に送付されますが、「特別便」は問題がありそうな人だけが受け取る性質のものです。
 その特別便が今年のはじめ頃、僕に届きました。先ほど、特別便と定期便の違いを説明しましたが、実は、僕は特別便が届いた時点ではその違いをよくは理解していませんでした。違いをきちんと理解したのはずっと後のことです。
 その程度の知識でしたから、特別便が届いたとき記載されている内容にもそれほど注意を払いませんでした。当時、マスコミでは「宙に浮いた年金5,000万件」などと騒がれていましたが、自分の職歴を振り返ってみてもそれほど複雑な経歴はなく、自分とは無関係な騒動だと思っていました。基本的に、その頃の僕は「宙に浮いた年金騒動」は僕より高齢の方の問題と認識していました。
 その程度の僕の認識でしたので、「ねんきん特別便」の記載内容も詳細に確認することなく「問題なし」として返送するつもりでいました。ところが、妻があることに気がつきました。「特別便」は妻にも届いていたのです。
 妻は結婚して姓が変わっていますし、転居もしていますので僕より丁寧に記載内容を確認していたようです。妻は自分の納付済み回数が少ないことに気がついたのです。つまり本来あるはずのない「未納期間」があったのです。そこで僕の内容も確認してみますと妻と同じ期間が「未納扱い」となっていることがわかりました。危うく見逃すところでした。
 当然、妻と僕は「未納期間」が誤りであることを記入して返送しました。しかし、その後なんの音沙汰もなく日々が過ぎ、「どうなったのかなぁ」と思っていた10月頃に「定期便」が届いた次第です。そして内容は「特別便」と全く同じだったわけで、つまり訂正はされていませんでした。
 定期便に訂正が施されていないうえに、「特別便」での問い合わせに対して回答した返事も届いていませんでした。その返事が届いたのが先週でした。すぐに封を切りますと、そこには僕を落胆させる内容が書かれていました。
「調査した結果、残念ながら未納期間が誤りであることを確認する資料が見つかりませんでした」
 つまり僕が「納付した」年金保険料が「納付してない」ことになっているのです。「調査した」とは具体的にどのようなことを行ったのか? 普通、「調査をする」場合は当人である僕に問い合わせの連絡があってしかるべきです。しかし、そうした連絡は全くありませんでした。早速、「ねんきんダイヤル」に電話をしました。
 僕はこれまでこのコラムで「モンスター」と名のつく「カスタマー」や「ペアレンツ」、はたまた「ペイシェント」などについてその行き過ぎを指摘したことがあります。僕自身も接客業をしていますのでモンスターの理不尽さには嫌な気分を味わされています。ですから「ねんきんダイヤル」に問い合わせる際はモンスターにならないように自分に言い含めながら電話をしました。
 「ねんきんダイヤル」は年金について問い合わせる専用の電話回線ですが、結局オペレーターの方とのやりとりではなにも進展することはありませんでした。たぶん、「ねんきんダイヤル」は民間のコールセンターが請け負っただけの組織に過ぎないのでしょう。オペレーターの方は年金についての深い知識があるわけでもなく、その上僕の疑問を解消するだけの資料も材料も持ち合わせていませんでした。最終的には「直接、社会保険庁に問い合わせてください」と言うしかないようでした。
 全く意味をなさない「ねんきんダイヤル」ですが、唯一の救いは「受け答え」が「丁寧で感じがよい」ことでした。この対応のよさは、そのあとに電話した社会保険庁とは雲泥の差でした。
 社会保険庁とのやりとりについて書く前に、僕の未納期間が発生した経緯を僕なりに調べた結果をお伝えしたいと思います。
 僕は20年ほど前に転居をしています。仮にA市からB市に引っ越したとしますと、A市からB市への転居手続きの際、市役所で年金番号を変えられてしまったのです。ですからA市での年金番号が消滅してしまい、A市での納付履歴が抹消されてしまったのでした。
 さて、社会保険庁に電話をしますと男性の方が出ました。声の感じがあまりよくなく僕は少しばかりの不安を感じました。そして話を進めるうちに僕の不安が的中していたことを知るのに時間は要しませんでした。男性は、僕の話を聞くよりも自分の考えを主張するばかりで、いくら僕が説明をしてもただ「未納なのは確か」としか言いません。しかも、あたかも僕が「未納をごまかそうとしている」という雰囲気まで漂わせるニュアンスでした。僕は段々と怒りがこみ上げてきてしまい、ついきつい口調で文句を言っていました。
 電話を切ったあと、…自己嫌悪。ああ、僕もモンスターになってしまった…。
 20年以上前のことゆえ領収書などありません。しかし、なんとかして納付したことを証明しなければなりません。なにか証明できるものがあれば、簡単に「△」と言えるのですが…。
 それにしても、いくら説明しても話を聞こうともせず理解してもらえない悔しさほど辛いことはありません。このような些細な出来事と比べるのは失礼ですが、足利事件の菅家さんはもっと苦しく残酷な気持ちにさせられたのでしょう。それを思うと胸が痛みます。
 先週、布川事件の再審開始が決定されたという報道がありました。僕は、取調べ可視化が実現されることを望みます。△、現在の捜査・起訴過程では警察・検察をチェックするシステムがないからです。
 ところで…。
 企業の存続が注目を集めている日本航空も年金問題で揺れています。日航が受ける支援の条件としてOBへ給付する年金を減額することが求められているかです。
 僕としては、減額は受け入れざるを得ないと考えます。年金でなく給与でさえ、会社が倒産し支払うべく原資となる資産がない場合はあきらめざるを得ません。そいうした例と照らし合わせますと、税金が投入されなければ倒産するのですから減額も致し方ないように思えます。
 しかし、そうは言いましても、OBの方々が容易に納得できない気持ちも理解できます。中には、退職金の一部を年金で受け取る手続きをした方もいらっしゃるでしょう。退職時にまとめて受け取っていたなら今回のような仕打ちをうけることもなかったはずです。
 ここまでくると、運が悪かったと思うしかないように思います。誰しも将来のことは予測できません。今までにも、生命保険会社が倒産して保険金が大幅に減額された人もいました。こうした方々同様、日航OBの方々も減額を受け入れるしか道はないように思います。
 そうした状況の中、先週、日航OBの方々の年金減額同意書の回答が発表されました。なんと65%の方が減額に同意するという結果でした。世間の注目を集めたことも理由の1つでしょうが、やはりOBの方々の気概を感じます。僕は尊敬の念を持ちました。あとわずかの同意があれば、減額が法律的に可能になるそうです。もし、減額が実現されたなら日航問題もスムーズに進展するのではないでしょうか。
 それにしても、僕の「消えた保険料」は難問です。高校時代、五十嵐先生に言われたことがあります。
「きみは、証明問題が苦手なようだねぇ」
 じゃ、また。




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