<トラブル対処法>

pressココロ上




 先週は菅総理が正式に引退を表明しました。そして、島田伸助さんも引退会見を開きました。菅総理の引退は3ヶ月も前から言われていましたが、伸助さんの場合は突然でしたので衝撃的でした。
 伸助さんの引退理由として暴力団との親密さが指摘されています。詳しいことはわかりませんが、所属事務所が「重大」と判断したのですから、親密さは「度を越していた」のでしょう。そのきっかけについて、伸助さんは「トラブルを解決してもらった」ことを挙げていますが、僕からするとそのことが一番問題があるように思います。
 生きていますと、なにかしらのトラブルに見舞われることはあります。普通はそのようなときに頼りにするのは警察です。しかし、警察が全て解決してくれるかというと決してそうではないことは誰でも知っています。これまでのニュースを少し思い出すだけで、ストーカーに纏わりつかれて警察に相談に行っても、結局はなにもしてもらえず命を奪われた事件が幾つもあります。
 日本の警察は世界的にみると優秀だそうですが、個人が日常生活において遭遇するトラブルに関しては動きが鈍いのが現実です。その理由としては、法律的な問題もあるでしょうし、警察官の個人的怠慢もあるでしょう。また、人員不足といった面があってもおかしくはありません。それらが絡み合って、個人のトラブルに警察は鈍感です。
 このような社会状況でトラブルが起きたときに、相談する相手として暴力団が登場してもおかしくはありません。理想としては弁護士に頼るのが本来の姿かもしれませんが、敷居が高いのが難点で、それが一般人の足を遠ざけいます。
 報道によりますと、伸助さんの場合も知人を介して暴力団幹部の力を借りてトラブルを解決してもらったようです。たぶん、これに似た噂話を聞いたり、またあるいは実際に経験した方もいるのではないでしょうか。もしかしたなら、警察などに頼るよりそのほうが簡単にトラブルが解決するかもしれません。ですが、やはりやってはいけないことです。
 昔から、と言っても僕が社会人として世の中について関心を持つようになってから以降のことですが、暴力団が絡む事件が発生しますと、必ず暴力団撲滅を訴える報道などがなされていました。そして、暴力団を撲滅させるためにいろいろな運動が展開されました。テレビニュースなどでは、「暴力団撲滅」などののぼりを掲げたデモ行進の映像が流れていましたし、また、警察が暴力団事務所を摘発し構成員と怒鳴りあう模様なども放映されていました。ですが、警察はどこか及び腰な雰囲気が感じられたのも事実です。最近でこそ、そのような雰囲気はありませんが、ほんの十年前までは確かに暴力団撲滅に臨む姿勢にキレがなかったように思います。その理由について評論家が語っていました。それは
「戦後の無秩序な社会を取り仕切るのに暴力団や右翼の力を借りた」からです。
 戦後の混乱期は警察も社会を取り締まるだけの力がありませんでした。ですからやむなく任侠の世界の力を借りたそうです。また、社会を揺るがすほどの闘争となった60年安保の際は全国から右翼が集められたそうです。実際、警察だけでは反対勢力を抑えることはできなかったでしょう。
 このような負い目がありましたので、警察は建前的には暴力団撲滅と叫びながら、心の奥底では目こぼしも必要と感じていたように思います。そんな風潮もここ10年ほどはなくなりつつあり、警察は本気で暴力団壊滅を目指しているようです。そんな時代ですから、伸助さんの事件はきっちりとしたけじめが必要と所属事務所は判断したのでしょう。ですが、トラブル発生時に暴力団や右翼に依存する風潮は一般社会ではまだ残っているように思います。
 たぶん、「不良への憧れ」といった感情は誰しも青春時代には持つ感覚です。僕はダサイ真面目な高校生でしたが、幾分悪ぶった不良っぽい同窓生が女の子の人気を集めていました。こうした感情は若い世代に多いものですが、中高年になった大人でも持っている人が少なからずいます。もしかすると、年齢に関係なく、人間は「悪に対する憧れ」が遺伝子の中に組み込まれているのかもしれません。
 有名人と知り合いであることを自慢する人はいつの時代もいますが、その有名人と同じ感覚で暴力団員と知り合いであることをそれとなく自慢する中高年がいます。あなたの周りにもいませんか。
「俺は○○組の△△と知り合いなんだ」って少し自慢げに話す人。
 飲食店を構えていますとトラブルと無縁ではいられません。接客業や営業などでトラブルを経験し、自分で対応処理した経験がある人なら大丈夫ですが、そういう経験がない人が飲食業を始めるととても苦痛になります。
 トラブルは普通の飲食業よりもお酒を提供する業種のほうが起きる確率は高くなります。以前、本コーナーで紹介しました「やくざが店にやってきた」はその意味でとても参考になる本です。この本を読みますとよくわかりますが、暴力団が店にかかわってくる方法にはひとつの傾向があります。それは、「最初に強面に出て、それから親密さを装い、徐々に店の内実に食い込む」ことです。
 僕の知り合いで、若い女の子がお酒を提供する店を営んでいるSという奴がいます。Sが店を開業した当時のエピソードを話してくれました。
 ヤクザまがいの男が3人で来店し、「女の子の態度がなってない」と大きな声で怒鳴ったそうです。Sも元々不良でしたから、そのような強面の態度にビビッタリはしません。ですが、一応、謝罪したそうです。すると、翌日も来店し、その日は前日とうって変わって「昨日は悪かった」と親しげに話しかけてきたそうです。その出来事を捉えてSは言いました。
「怖そうな奴でも、きちんと対応すればいいお客になってくれるよ」
 Sは表面的なことでそのように判断したのですが、実際は、ヤクザまがいの男たちの連日の対応は「最初からのシナリオどおり」のはずです。先に紹介しました「やくざが店に…」にはそのような事例が紹介されています。
 暴力団員がシナリオを作ってまで「内実に食い込もう」とするのは甘い蜜を吸うためにほかなりません。一般人のトラブルを解決するのも暴力団員にとっては同じ構造に見えているはずです。読者の皆さん、トラブル解消に反社会勢力の力を借りるのはやめましょうね。
 ところで…。
 伸助さんが「暴力団員にトラブル解決を依頼した」と聞いて、僕が思い浮かべたのは竹下登元首相のことでした。覚えている方も多いでしょうが、竹下氏は田中派を飛び出し自らの派閥を作ったあと総理を目指す段階において右翼の街宣車による「褒め殺し」を受けました。そのときに、「街宣を止めさせるよう」に助けを求めた相手が関東系の暴力団と言われています。結局、のちに一国の首相になる政治家のトラブルを解決したのが暴力団というのはあまりに恥ずかしい民主国家です。
 政治家は一般人にとって頼りになる存在です。本来は、社会全体をよくするために活動するのが政治家ですが、中には個人的な要望をお願いする人もいます。よく聞く話として、就職の世話や公的住宅への優先入居など枚挙に例がありません。しかし、本来は不埒な請願であることは間違いはありません。ですが、政治家にしてみますと、一般人のトラブルや悩みを解決することが「一票」という自らの利益につながることになります。
 こうしてみますと、「正式な手続きを経ずにトラブルを解決する」という点において、暴力団と政治家が似ているように感じられなくもありません。
 明日、新しい親分が決まります。あっ、違った。新しい首相が決まります。
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする