<センター>

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 なんと言っても先週の一番のニュースは「総選挙」でしょう。早いもので、前田アッちゃんが
「私を嫌いになっても、AKBのことは嫌いにならないでください」
 と涙ながらに訴えてから1年が過ぎたことになります。フジテレビがゴールデンタイムに生放送までするのですから、その注目度がわかろうというものです。しかも、天下のNHKまでが夜のニュース番組で取り上げていました。さすがにNHKでは選挙結果を報ずるのではなく、「イベント」としての取り上げ方でしたが、芸能界の一グループに過ぎないアイドルのイベントを紹介したのですから、AKBの影響力は侮れません。
 現在、AKB48は芸能界で一番注目されていると思いますが、その根本的理由は「売れていること」に尽きます。昨年のCD売上げのベスト5が全て同グループだそうですが、こうした実績がなければここまで注目されることはなかったはずです。どんな業界でも基本は「売上げ」です。
 前にも少し触れたことがありますが、このグループは秋葉原で活躍していた頃と全国区になった現在では取り巻くスタッフが大幅に変更している、と僕は想像しています。もちろん、僕は芸能界に詳しいわけではありませんから、この想像は僕の独断と偏見に基づいたものですが、「成功の道のり」をたどっていきますと、そのように想像が膨らんできます。
 スタッフ変更の理由を問うなら、アマチュアとプロの違いに行き着きます。たぶん、芸能界というところは、ターゲットとする対象が「一定の範囲」の場合と「全国区」の場合では、その販売方法に違いがあるように思います。もちろん、「一定の範囲」を対象にした販売方法では「全国区」では通用しません。秋葉原時代のAKB48を生み育てていたスタッフたちはその葛藤に悩んでいたはずです。
 僕がこのような想像をするのは、僕が販売業に携わっていたことが影響していますが、同時に、このグループの成長を見ていたとき、僕は「青が散る」というドラマを思い出していました。
 このドラマには、大塚ガリバーという青年が小さなクラブハウスで歌っていた状況から少しずつ売れはじめる場面があります。「一定の範囲」から「全国区」に向かう境目の状況です。それまでガリバー青年のマネージャー役を務めていたのはちょっと芸能界に精通した友人だったのですが、その境目のときに不手際を起こしてしまいます。そのときに友人は自分の能力のなさを実感し、自らマネージャー役を降りるのですが、僕はAKBが全国区になりはじめた頃、ちょうどこの場面を思い起こしていました。
 「全国区」に舵を切ったときから、総監督は秋元康氏ですが、秋元氏といえば、過去に「おニャン子クラブ」で成功しています。秋元氏は少女グループを売り出すメソッドを幾つか持っているように想像します。ちょうど、作曲家の筒美京平氏がヒット曲を生み出すメソッドを持っているのと同じです。
 同じ少女グループで成功した例といえば、つんく♂氏がプロデュースした「モーニング娘。」がいます。僕は知らなかったのですが、「モーニング娘。」さんは今も解散せずにがんばっているそうです。さらにもう少し時代を遡れば、ピンクレディがいました。ピンクレディの全盛期もレコードの売上げはダントツでしたが、そのプロデュースは阿久 悠氏と都倉俊一氏でした。
 こうした過去の成功したグループに比較しても、AKBはダントツで成功しているといっていいでしょう。一番の違いは売れている期間が短くないことです。「長い」ではなく「短くない」がミソですが、普通アイドルは「短期間」で消耗するのが常でした。それがデビューしてから7年も経っているのはやはりダントツといえます。
 その成功した理由について識者がいろいろと論評しているようですが、僕は一にも二にも競争原理の導入にあると思っています。僕は、いろいろなテキストで「競争は必要」と書いていますが、やはり競争があるからこそそこに感動があると思っています。
 冒頭に紹介しました前田アッちゃんの感動的なスピーチも競争があったればこそのコメントでした。売れれば売れるほど風当たりが強くなるのが常ですから、バッシングたるや凄かったのでしょう。きっと、センターの位置に立つことは並大抵の根性ではなしえないのでしょうし、ましてや、それを続けることは神がかりとまで僕などは思ってしまいます。
 グループでのセンターも大変ですが、芸能界でのセンターはもっと大変なはずです。
 僕は今、NHKの「梅ちゃん先生」が気に入っていますが、その中でも主人公の姉役のミムラさんが好きです。
 ミムラさんといえば、デビューしてまだ日が浅かった頃だと思いますが、僕は「さんまのまんま」に出演したときが印象に残っています。
 さんまさんは女性が出るときは、どちらかというと意地悪な対応をとることが多いのですが、ミムラさんに対してもそうでした。普通、そのような対応には戸惑う女性が多いのですが、ミムラさんは違っていました。見事に笑顔で受けていました。その受け方も「無理に我慢して」という表情ではなく、自然に受けていたことに感激しました。まだ、年齢もそれほどいっていなかったと思いますが、その雰囲気からは女優としての胆力が感じられました。
 僕の記憶では、確か、鳴り物入りでデビューしたように思います。ですから、最初からセンターの位置にいました。つまり主役を張っていたわけです。さんまさんの番組にはその宣伝で出演していたと思います。
 やはり、若くしてドラマや映画などでセンターを務める方は器が違います。ミムラさんはこのような恵まれたがデビューでしたが、その後は意外な展開をしています。なんと結婚したのです。しかも、かなり年齢が離れた方でした。僕は伴侶の選び方を見てもまたまた感激しました。外見だけで決めていないように感じたからです。その後、ミムラさんはセンターから降りたように僕には見えました。
 青春ドラマで主役を務めていた中村雅俊さんは現在でもいろいろなドラマで主役を務めています。その中村さんは昔、トーク番組で自分の思いを話していました。
「オレ、貯金してるんですよね。オレ、いつまでも絶対主役をやりたいから、主役以外の仕事を断れるように貯金してるんですよね」
 中村さんの率直な言葉から、僕は「主役を務めていた俳優さんの矜持」を感じました。やはり、主役を務めていた俳優さんが脇役に転ずることには落胆感があるようです。センターにはセンターのプライドがあって当然です。
 しかし、センター以外の人生があっても不思議ではありません。というよりは、全員が全員センターでいられることは不可能です。センターに立つには努力はもちろん必要ですが、運も相当な割合を占めているはずです。そんな芸能界ですから、人によってはセンターにこだわらない人がいても不思議ではありません。僕は、ミムラさんはそのような人と感じていました。
 僕は「競争は必要」と考えている人間ですが、だからと言って、強引に、無理やり、なんとしても、…とセンターにこだわる考え方には賛成しかねます。あまりにセンターにこだわりすぎると、いつしか強欲な人間に成り下がりそうな気がしてしまいます。競争に臨むときは、「自然に」臨むのがベストです。
 先週はW杯サッカーの予選がありました。結果は日本の大勝でしたが、その理由に約9ヶ月ぶりに復帰した本田圭佑選手の活躍がありました。今でこそ、本田選手はチーム内からも信頼されていますが、代表に選ばれた当初は「センターに立ちたがり」として煙たがれていたように映りました。しかし、よくよく見ていますと、マスコミの評判とは裏腹に「周囲に対する気配りができる」選手でした。本田選手が現在、代表チームのセンターに立っているのは自分が望んだだけの結果ではなく、周りからの厚い信頼感があったればこその結果です。
 センターに立つには自分の強い意志も大切ですが、それ以上に、周りから「センターの立ち位置に相応しい」と認められることが大切です。これこそがセンターとして長い期間活躍できるコツに違いありません。
 メジャーリーグで活躍しているイチロー選手。イチロー選手がメジャーでも成功している一番の理由はセンターでなかったことかもしれません。
 じゃ、また。
 ところで…。
 「じゃ、また」と書いておきながら、続けるのもなんですが、あとちょっと書きたいことがありましたので、続けます。
 先週は男子バレーの大会もありましたが、少しだけ見ました。そこで感じたのはベテランのふがいなさです。ベテランがベテランに相応しい戦い方をしていなかったなら、勝てるはずがありません。ベテランはセンターに立つことはできません。しかし、だからこそやるべきことがあるはずです。
 少しだけ具体的に…。
 どうして声を出さないのか! どうして動き回らないのか! どうしてほかの選手を鼓舞するような振る舞いをしないのか! どうして、どうして…。
 僕は試合を見ていて、とても不愉快な気持ちになりました。男子バレーはミュンヘン五輪を頂点にし、その後は低迷が続いています。僕はその原因がそのときどきのベテランにあると考えています。僕には、ベテランの人たちがいつまでも「センターの快感を追い求めている」ように感じられて仕方ありません。僕はそれが悲しくてなりません。
 僕はミュンヘンオリンピックでの「南選手の絶対に届くはずもないスライディング」と「中村主将の背中で若い選手を引っ張る姿勢」を一生忘れないでしょう。
 じゃ、本当に、また。




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