<前刀さんと堀江さん>

pressココロ上




 人物対比第3弾です。この二人を対比しようと思ったきっかけは、今週の本コーナーで紹介しています「僕は、だれの真似もしない」(著・前刀禎明)を本屋さんで見つけたことでした。すでに多くの方が知っているとは思いますが、前刀と書いて「サキトウ」と読みます。僕が前刀氏の存在を知るようになったのは朝の情報バラエティ番組「めざましテレビ」に出演するようになってからでした。
 ちょっとイケメンでおしゃれな外見と「元アップル日本法人代表」の肩書きを見て、漠然と「ああ…、あの…」といった感想を持っていただけでした。近年、マスコミにもてはやされている「IT界の有名人」といった、正直に言いますと、マスコミ出たがりIT長者の類のひとりと思っていました。
 ところが、「僕は、だれの真似をしない」を読み、「おお!!」と驚いたのでした。なんと2000年頃に無料プロバイダーとしてIT業界で注目を集めていた企業ライブドアの創業者だったからです。これも、すでにほとんどの人に知られていることとは思いますが念のために書きますと、ホリエモン氏が社長を務めていたことで有名なライブドアはホリエモン氏が創業した、というか、命名した企業ではありません。最初にライブドアという名前で創業したのは前刀氏です。ホリエモン氏は前刀氏からライブドアを譲渡され、それまでのオン・ザ・エッヂという名前からライブドアに変えたのでした。
 それはともかく、僕は本で前刀氏の経歴を見て記憶が蘇ってきました。当時、無料プロバイダーの創業者として一躍超有名人になった前刀氏が雑誌のインタビューに答えるようすが映し出された写真が鮮明に思い出されました。写真は両足を軽く広げて立った姿で全身が映っていました。スラックスにノーネクタイにジャケット。笑顔で気取らずに立っている様を記憶していますが、そのとき僕は悪い印象を持たなかったことが思い出されます。
 普通ですと、雑誌のインタビューの記事などに載せるための、しかも時代の寵児という位置づけでインタビューを受けるのですから、どこかしら傲慢で自己中で高姿勢な雰囲気が漂っていてもおかしくないものです。しかし、前刀氏の写真からはそんな雰囲気が少しも漂っていなかったのです。インタビューの内容は忘れてしまいましたが、写真の笑顔はとても純真な印象を僕に与えました。
 その後、前刀氏の姿をマスコミ関連で見かけることはなくなりましたが、月日が流れたある日、偶然雑誌で前刀氏の動向を知ることとなりました。その雑誌は「消えた、かつてのIT革命児たち」という内容の特集を組んでいました。僕はそのとき初めて前刀氏が創業したライブドアが倒産したことを知りました。
 その記事中で、企業名は忘れてしまいましたが、白黒写真で写っていた前刀氏は中間管理職になっていました。しかし、やはりそのときも前刀氏は落ち込んでいるようすもなく、楽しそうに仕事に取り組んだいるようすでインタビューに答えていました。
 僕は、最終的には失敗してしまった創業者や起業家の本をたくさん読んでいますが、失敗したあとに企業の中間管理職になっている姿をマスコミなどで堂々と笑顔で見せた人は前刀氏しか記憶にありません。普通、起業家の方は失敗したあとの詳細は語らないものです。ですから、中間管理職として勤めている前刀氏の姿は僕に新鮮に映りました。
 そして、そのあとに僕の前に現れたのが今回の「元アップル日本法人代表」としてのテレビでのコメンテーターでした。冒頭で書きましたように、当初僕は前刀氏について忘れていましたが…。
 お恥ずかしいことに、僕はアップル日本法人代表時代の前刀氏を知りませんでした。先に紹介した本によりますと、中間管理職として勤務していたときにアップルからスカウトされたようですが、それもライブドア時代の功績が認められたからに違いありません。その意味でいいますと、成功しなかったとはいえ、ライブドアを創業したことは無駄ではなかったことになります。前刀氏の人生の軌跡を見ていますと、「人間到る処青山有り」という格言を思い起こします。
 前刀氏からライブドアを譲り受けたあとのホリエモン氏の人生はまさに天国と地獄といってもいいくらいの起伏の激しい軌跡を辿っています。現在は塀の中にいますが、先日、塀の中からのホリエモン氏の心境を綴った文章を読みました。感想を述べるなら、「出所後は宇宙関係の仕事に就きたい」という希望はなんとなく違和感を持ちました。
 前刀氏とホリエモン氏の違いを考えるとき、最も大きな要因は仕事に対する「大志の有無」だったように思います。単に、お金儲けだけを考えて仕事に取り組んだ姿勢と、前刀氏の言葉を借りるなら「イノベーション」を求めて仕事に取り組んだ姿勢、この違いが明暗を分けたような気がします。
 だからと言って、ホリエモン氏を「批判だけする」のは過酷のような気がしないでもありません。ホリエモン氏が塀の中に落ちたのは、やはり目立ちすぎたこともひとつの理由のような気がするからです。いわゆる国策捜査の側面も完全に否定されることはありません。
 僕は、国策捜査の臭いがする事件で塀の中に落ちた人の本も好んで読んでいますが、そうした方々の主張を読みますと、個人的には同情の気持ちが湧いていました。僕は先週、元東京相和銀行会長・長田庄一氏の「バブル獄中記」という本を読みました。感想をいうなら、事件の真偽は定かではありませんし、長田氏側だけの主張が書いてある本ですので、偏った主張がなされているのは想像に難くありません。ですが、それを割り引いても長田氏が起訴された理由が今ひとつ納得できない気持ちが起きました。
 長田氏に限らず、バブルに関連して事件とされた事象はどれもどこか「国策」の臭いがつきまとってしまいます。被告となった方々の言い訳にも一分の理があるように感じるのは、「半官びいき」が過ぎるでしょうか。でも、それが僕の正直な気持ちです。
 ホリエモン氏と同じように感じるのは元経済産業省の村上氏です。村上氏の事件もやはり国策捜査の臭いがしますが、ホリエモン氏と同様に「大志がなかった」感は免れません。そうでなければ、「お金儲けは、そんなに悪いことですか!」などという質問をマスコミに向かって問いかけることなどしないでしょう。
 IT業界で明暗を分けた前刀氏とホリエモン氏。どちらの人生がよいのかを決めるにはまだ時期尚早ですが、少なくとも後悔していないように見えるのは前刀氏のように思います。
 ところで…。
 日本の外交が大きく揺れています。前々から問題になっている北方領土の問題、同じようにここに来て急に対立が鮮明になってきた青島や尖閣列島問題です。これらの問題に対処する政府の対応を見ていますと、官僚の力が大きく働いているように見えるのは僕だけではないでしょう。
 野田政権は「財務省の言いなり」と陰口をたたかれていますが、民主党政権は全体的にその感があります。政権を奪取した当初こそ、政治主導などと叫んでいましたが、月日が経つにつれ、結局官僚を頼りにしている印象が強くなってきました。
 それにしても、各方面での領土問題が沸き起こっている現在、野党がそれにつけこんで民主党を追いつめる姿は情けなさしか感じません。なんだかんだ言っても、自民党政権で誰も手をつけることができなかった消費税増税をやってのけたのですから、シンプルに考えるなら、自民党は感謝すべきことです。僕はこんな自民党は名前を変えたほうがいいと思っています。
 ズルイ党と。
 じゃ、また。




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