<第三者委員会 パート2 >

pressココロ上




 昨年末に年金記録確認第三者委員会について書きましたが、その続きです。前回、書いてからもう1ヶ月以上が過ぎましたので少しおさらいをしてからはじめたいと思います。
 僕たち夫婦は年金記録に間違いがありそれを訂正してもらおうと社会保険庁に行きました。しかし、思うように話が進展しませんでしたので年金記録について異議申し立てをする機関として設立された年金記録確認第三者委員会に連絡をしました。そこで調査員という方と幾度かやり取りをしいろいろと調べてもらいましたが、やはりここでも芳しい成果は得られない状況に陥りました。
 そんな状況の中、調査員から連絡があり「いまの状況で委員会を進めてしまうとあまりいい結論にならない可能性が高いので、委員会に出席して自分の主張を話してみませんか」となりました。それで僕たちは委員会に出席することにしたのでした。
 では、続きです。
 指定されたビルに行きますと、そこは悪くいうと「古めかしい」、よくいうと「厳かな」雰囲気のする7階建てビルでした。公共機関ですからお役所と同じ臭いが漂ってきます。指定された時間が午後2時でしたので僕たちはお昼ごろに到着し、近くのお店で食事をとるつもりでいました。しかし、ビルはビジネス街にあり食事ができそうな感じのお店が全く見当たりませんでした。僕は予想しました。
 こういう場所でしかも公共機関ということは「ビル内に食堂があるはず」。ビルに入り案内図を見ますと予想通り「食堂」と書かれた場所がありました。地下1階でした。
 食堂らしき場所に行きますと、入り口ドアの脇に券売機が設置されその隣には種類があまりないメニュー表とラップがかけられたランチ料理が置いてありました。「食堂らしき」と書いたのは訳があります。その場所が人影まばらで暗い雰囲気が漂い食事を提供する場所と感じられなかったからです。実際、券売機で購入できる種類はほんの4~5種類しかありませんでした。僕たちはその中からランチを選び中に入りました。
 時間が午後1時を過ぎていたことも関係あるのでしょう。食堂内には帰り支度をしていた中年男性がひとりだけいました。調理場にはいかにもパートさんといった感じの中高年女性が4人働いていました。この食堂はセルフサービスでしたので自分たちで料理を運び、二人で食事をするには広すぎる食堂で夫婦ふたりで食事をしました。シーンと静まり返った食堂内でうしろのほうからテレビの音声だけが聞こえてきたのが古い公務員ビルを感じさせました。
 約束の時間が近くなりエレベーターで4階まで行きますと、第三者委員会の表示が目に入りました。中に入りインタフォン代わりの電話から呼び出しますと若い男性が出てきました。僕がこれまでに電話でやりとりをしていた担当者は声から察するところ僕より5~6才くらい年長で、話し方から想像するところ穏やかで優しく、そしてメガネをかけている中年小太りの体型のイメージでした。出てきた男性は一目でいつもの男性ではないことがわかりました。
 結局、約束の時間がくるまで待合室で待たされることになったのですが、狭い仕切り板で区切られた空間の冷たい雰囲気がこれからはじまる第三者委員会を暗示していました。
 第三者委員会というものがどのような形式でどのように進められるのか事前に知らされていませんでした。一応、前の晩にネットで第三者委員会について調べておきました。第三者委員会のHPには次のように書いてありました。
年金記録の確認について、国(厚生労働省)側に記録がなく、御本人も領収書等の物的な証拠を持っていないといった事例について、国民の立場に立って、申立てを十分に汲み取り、様々な関連資料を検討し、記録訂正に関し公正な判断を示すことを任務とする
 一応このように「いかにも国民の味方」のように書いてありますが、前回のコラムで書きましたように、担当者からの委員会への出席を促す話しぶりからは正反対の印象を受けていました。果たして実際の委員会は…。
 約束の時間の2分ほど前になりますと出入り口のドアが開き60才過ぎくらいの男性が入ってきました。簡単なあいさつをしたあと、男性に促されて室外に出ました。この男性も声の感じからしていつもの担当者とは違うようでした。男性に先導されて廊下をしばらく歩いていきますと、男性はある部屋の前で立ち止まり僕たちほうを振り返り「こちらですのでどうぞお入りください」とドアを開けました。
 室内に入り見渡しますと、そこはだだっぴろく部屋の中央に、如何にも地元の名士として名を馳せていそうで、そして紳士然とした男性5人がスーツ姿で机を前にして正面を向いて座っていました。そしてその左側には5人の並びと直角に曲がった向きで正面の5人と同年代の男性が7名座っていました。やはり全員スーツ姿でした。
 つまりこの委員会は第三者委員会関係者12人に対して申立人2人という構成で行なわれることになります。たぶんほとんどの申立人がこのスーツを着た男性12人が並んでいる光景を見て気後れすると思います。そんな気持ちにさせるように作られた空間でした。人数構成を見ただけでも申立人が気分的に圧倒されるのは間違いありません。
 僕は中に入った瞬間に、その室内にヒンヤリとして張り詰めた緊張感が作られているのを感じました。僕が室内に入ってきたのを誰もがわかっていながら誰ひとりとして会釈をするでもなく表情を崩すでもなくただ僕たちを眺めているだけでした。僕には全員が能面を被っているようにしか思えませでした。
 この室内の雰囲気は「国民の味方」をかもし出す空間を作り出してはいません。本来の目的である「国民の立場に立って」とは正反対に国民を威嚇する雰囲気しか出していませんでした。僕の受けた印象では、この場所は年金記録確認第三者委員会ではなく、年金記録査問委員会でした。12人の視線が物語っていました。「おまえら、嘘ついてないだろな!」
 このような雰囲気を意図的に作り出しているのは委員の方々の態度と表情が物語っていました。僕は、その意図的な感じに不快感を覚えていました。
 僕たちの席は正面の偉そうな5人が座っている真向かいの席です。僕は言われるままに自分たちの席まで行くと、その意図的な威嚇する雰囲気に反発するように全員の顔を順番に見渡し大きな声で名前を名乗り「よろしくお願いします」と席に着きました。しかし、入室したときと変わらず誰一人として反応をする人はおらずただ僕たちが席に座るようすを見ているだけでした。
 僕たちが着席すると、委員長のプレートが掲げてあるちょうど真ん中の委員が妻に質問を始めました。僕からしますと“ 実に馬鹿げた”としか思えない質問です。
「早速ですが、奥さんは保険料を納めるときにどのようにして納付していましたか?」
 この質問はこれまでなんども調査員の方と繰り返してきた問答です。同じようなやり取りを散々やってきていました。それでも解明できないからこそわざわざ時間を割いて委員会に出席をしたのです。そもそも普通の人が「今から30年も前のことを正確に詳細に覚えている」わけがありません。いったいどこに30年以上前の自分の日常生活の細部を覚えている人がいるでしょう。
 このような気持ちでいましたから委員長と妻のやり取りの途中で僕は挙手をしてから口を挟みました。
「すみません。ちょっといいですか…」
 僕が主張したのは、「最初から、支払っていることを疑うような感じで質問をすることに対する異議」でした。僕がそのような内容の話を怒気を含んだ口調でしたとき、その場が一瞬白けたのがわかりました。僕たち夫婦以外の全員が不思議そうな表情をしました。
 そして少し間があってから委員長が口を開きました。口調は穏やかでしたが、決して好意的ではないトーンで僕に話しかけてきました。
「決して疑っているからということではなく、支払っていることの証明になることを見つけるのが目的ですから…。それとご主人の話はあとから聞きますので…」。
 僕の横槍発言を遮るとまた妻に向かって話し始めました。
 委員長は、妻とのやり取りが終わると「やっとご主人の順番ですよ…」とでも言いたげな表情で僕に向かって質問をしてきました。僕の場合は直接自分で保険料を納めているわけではありません。そうしたことは全て妻任せだったからです。僕には「国民年金への加入手続きに妻と一緒に市役所まで行ったときの具体的なようす」を尋ねてきました。この質問も僕にしてみますと“ 実に馬鹿げた”の部類です。いったい誰が30年以上も前に市役所に行ったときの行動を覚えているでしょう。
 僕はその質問には直接答えずに、この委員会の進め方に異議を唱えました。僕が委員会で主張したいことは自分が最初にもらった年金番号がなくなった事実の確認と、年金番号の管理をきちんとしてこかなった社会保険庁および日本年金機構にきちんと探してもらうことです。それなくして年金納付を証明することは不可能です。くり返しになりますが、30年以上も前のことを思い出させようとするのには無理があります。
 僕たちは白けた表情をする委員がいる中で、それでも必死に自分たちの主張を展開しました。すると徐々にですが、僕たちの話に真剣に耳を傾けるようになった委員の姿がありました。全員とはいいませんが、幾人かが僕の話に頷く素振りを見せてくれるようになっていました。しかし、よい結果が得られるとは限りません。最後は、時間の関係で委員長が話を締めくくる感じで委員会は終了しました。
 こうして僕たちの第三者委員会での経験は終わったのですが、結論をいいますと、第三者委員会で年金記録を訂正するのはかなり難しいということです。結局は、納付をしていたことを証明する「なにか」がなければ訂正することはあり得ないからです。いくら状況証拠だけを主張してもそれは認められないようでした。
 最後に、僕が主張したいことは年金記録確認第三者委員会のあり方であり進め方です。現在のような委員会の形式では普通の人は緊張してしまって自分の意見を思い存分に述べることは無理です。本文でも書きましたが、まるで査問委員会のような今のやり方では間違っても「国民の立場に立って」とはなりません。今後是非とも、本当の意味で「国民の立場に立った」年金記録確認第三者委員会になることを願っています。
 
 これにて今週のコラムは終わりです。あまり多くないと思いますが、年金記録に不備がある方の参考になれば幸いです。
 じゃ、また




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