<名曲>

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 僕が今、ハマっている歌は「駅」です。この題名だけを聞いて僕がハマっている歌を思い浮かべられる人はどれだけいるでしょう。70年代後半に青春時代を過ごしたおじさんが口ずさんでいる「駅」です。今の若い人にはかなり難問となります。
 答えは、竹内まりやさんの「」です。この歌が発売されたのは1987年ですから、この歌を僕と同じように口ずさめる人となりますと、現在40才以上の人ということになります。それにしても、発売されてから20年以上が過ぎても色褪せていないのは素晴らしいことです。
 昔、吉田拓郎さんが、「本当にいい歌は売れた枚数ではなく、どれだけあとまで残るかだ」と語っていましたが、20年以上経っても僕のようにハマる人がいるのですから、名曲です。
 竹内さんの旦那さんは言わずと知れた山下達郎さんですが、山下さんにも名曲があります。クリスマスの時期になると、必ず耳にする「クリスマス・イブ」です。この歌に関しては、なんと27年連続でシングルTOP100入りだそうですから、名曲ぶりがわかろうというものです。なんとも豪華なご夫婦です。
 さて、「駅」は竹内さん自身の作詞作曲によるものですが、この歌が名曲たる所以となっているのは歌詞にあるように思います。もちろん、メロディも素晴らしいですが、長期間支持されるのはこの歌詞があってこそです。たぶん、世の多くの女性たちが青春時代の自分自身と重ね合わせながら聴いているはずです。
 ああ、あのときのわたし…。
 ご存知ない方のために歌詞の内容をかいつまんで紹介しますと、駅のホームで2年前まで付き合っていた彼氏を見かけたときの心情を綴ったものです。その心情とは、懐かしさであったり恋心であったり、はたまた未練であったり…、人の気持ちとは簡単に割り切れない複雑怪奇な感情が入り混じったものですが、竹内さんはそれを歌っています。
 人間とは不思議なもので、自分では経験できなかったことに憧れるところがあります。この歌詞に共感する女性たちは、現在の自分が選択しなかった、もしくは選択できなかった道に対しての憧れを抱いていることになります。憧れといいまますと羨望のイメージを含んでいますが、ここではそうではありません。未知に対する憧れです。俗な言い方をしますと、「たら…」「れば…」の世界です。
 もし、あのとき違う選択をしていたなら…。
 誰しも、ひとつやふたつはそのような思いに駆られる分岐点を持っています。哀しいかな、人は一度しか人生を歩めません。選択はひとつしかできません。人間の限界がそこにあります。
 昔、新幹線の駅で元極楽トンボの山本圭一さんを見かけたことがあります。当時、すでに人気がありましたから追っかけの女の子たちがたくさんいて、駅でも相当目立っていました。
 その山本さんが僕の乗っている新幹線に乗ってきたのですが、着席するやすごい鼾をかき始めました。あまりのその激しさに近くに乗っていた中年男性がマネージャーらしき人に文句を言いにいっていました。その後、事件を起こして芸能界から消えるのですが、取り巻きを引き連れて傍若無人に振舞う姿にその端緒があったのかもしれません。
 その山本さんの元相方の加藤浩次さんを、最近僕は見る機会が増えています。理由は、僕が面白そうと思う番組のMCを務めていることが多いからです。僕が面白そうと思うのですから、どちらかといいますと堅い番組です。
 例えば、日曜の早朝にやっている番組は企業を紹介する番組です。珍しい企業や業績が素晴らしい企業の社長さんを招いてお話を聞く番組構成ですが、お笑い芸人である加藤さんがこのような堅い番組の進行を務めています。
 しかし、このような仕事をすることは加藤さん自身にとってプラスになります。テレビで活躍する人間としての幅が広がります。そして、そのことが出演する番組の幅を広くすることにつながり、さらに違う趣の番組に出演する機会を増やすことになり、まさにプラスのスパイラルです。
 先日は、作家の角田光代さんと桜庭一樹さんが出演する番組を見ようとチャンネルを回しますと、加藤さんがMCを務めていました。そういう姿を見ていますと、今の加藤さんが上昇気流に乗っているのがわかります。
 芸能人を見ていて、羨ましく感じることがあります。それは仕事が勉強というか自己啓発を兼ねていることがあるからです。加藤さんにしてみても、あのような経済番組、または経営番組といってもいいですが、そのような番組のMCを務めることで経済や経営について知識を深めるになります。普通の人が有名企業の社長さんの話を聞ける機会はほとんどありません。それを可能にしている番組ですから、これ以上の社会勉強はありません。
 また、少し違った見方をするなら人脈が広がるというメリットもあります。芸能界とは違う世界で活躍する人たちと知り合いになることほど人生に役に立つ仕事はありません。
 そういえば、SMAPのいい人・草彅 剛さんはテレビ番組で韓国語を身につけています。普通は外国語を覚えるにはわざわざ会話学校に通ったり、少なくとも教材を購入するなどお金がかかります。それを、反対にお金をもらって勉強できるのですから羨ましい限りです。
 今の加藤さんを見ていますと、僕は2年前に芸能界を引退した島田伸助さんを思い出します。島田さんは漫才ブームで有名になったあと、今ひとつ活躍できなかった頃に、お笑いとは関係のないニュース番組で司会を務めています。その時期に経済や経営や時事について必死に勉強していたようです。
 それまでは、お笑いの世界で成功することだけを夢見て生きたきたわけですから、ほかのことはなにも知らなくて当然です。ですから、そのときに社会勉強したことがどれだけあとから役に立ったことか想像に難くありません。しかし、そうした時期があったからこそ、その後のゴールデンに幾つも番組を持つという大活躍ができたのでしょう。
 最後は意に沿わぬ形で引退することになりましたが、それまでの大活躍した実績が消えることはありません。人を観察し、才能や長所を見抜くという洞察力は簡単に養われるものではありません。その洞察力はどこの世界に行っても役に立ちます。
 先日観たテレビでは、今の若者の働き方を特集していました。現在、若い人の3人に1人が非正規社員だそうです。確かに、僕の周りを見回しても30才前後で非正規社員の人が数多くいます。そうした人たちを見ていますと、決して「能力がない」とか「気力がない」ということはなく、仕事も早いですし、周りに対する気配りもできる人たちです。
 なのに非正規社員の待遇であることにそれほど落胆していないように映ります。僕はそれが不思議です。責任の重さは違いますが、仕事内容はほぼ同じです。それなのに報酬だけが低く抑えられていることに不満は感じないのでしょうか。責任の重さにしても、なにかあったときは非正規社員に責任を押し付けて保身に走る正規社員もいます。
 相変わらず株価の乱高下が続いていますが、まだまだ波乱は続きそうな雰囲気です。アベノミクスの最後の矢が発表されましたが、僕が考える一番の政策は正規社員と非正規社員の報酬や待遇の差をなくすことです。これを実現しなくては、市場競争に明け暮れる企業が人件費における公平性に挑戦するはずがありません。一般に、正規社員と非正規社員に差をつけなくすると全体の賃金が下がるといわれています。しかし、全体的にみますと、労働者の公平性が保たれ、それが全体の賃金の向上にも寄与するように思えてなりません。
 今の状況が続きますと、一部の労働者だけが優遇され、それ以外の多くの労働者が使い捨てにされる状況になりそうで心配です。
 肩書きだけで仕事をしている人をたまに見かけますが、能力だけで仕事の評価をする社会にするには正規社員と非正規社員の差別をなくすことが最初の一歩です。
 政策にも名曲があって然るべきです。
 じゃ、また。




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