<キープ力と出口戦略>

pressココロ上




 サッカーのコンフェデレーション杯イタリア戦を半分くらいリアルタイムで観ました。普段はスポーツ番組をリアルタイムで観ることはほとんどないので珍しいことです。たまたま観れたという感じです。
 ですが、スポーツニュースでは必ずチェックしています。基本的にはスポーツ大好き人間ですのでチェックをせずにはいられません。
 ブラジル戦を夜のニュースや新聞などで確認したところでは、かなり批判的な記事が多くあるように感じました。それに比べ、イタリア戦は負けたとはいえ好意的に報じるマスコミが多かったように思います。
 見出しを比べるだけでそれはわかります。ブラジル戦が「惨敗」で、イタリア戦は「惜敗」でした。点差だけを比べてもこの評価は妥当なところでしょうが、yafooのトピックスに載っていた観戦記事はかなり辛らつな批判記事が書いてありました。
 さて、僕がリアルタイムで観た感想をいいますと、岡崎選手の活躍が目に止まりました。岡崎選手は元日本代表の「ゴンさん」こと中山選手に風貌が似ていますが、サッカーのスタイルも似ているように思っていました。
 それは、テクニックはヘタクソだけど人の何倍も走るというスタイルです。それでも、中山選手は得点王に輝いたことが2度もありますし、Jリーグの年間最多得点の記録保持者でもあります。ですから、中山選手は技術がヘタクソでもとにかく動き回ることでゴールを量産できることを証明した選手です。まさしく岡崎選手も以前はそのスタイルでした。
 その岡崎選手が、僕が観たイタリア戦では日本人選手のほかの誰よりもキープ力があるように見えました。ボールを持ったときに焦るふうが少しもなく堂々としていたのです。
 キープ力に自信がない選手は、相手選手が少しでも近づいてくると不安感がもたげてきます。そして、すぐに誰かにパスを渡そうとします。
 欧州など外国の有名な選手たちは、ボールを持ったときに常に攻撃的な心境になっています。つまり、ディフェンスの選手がボールを取りにきたら、いつでも「抜ける」自信を持ってボールを扱っています。ですから、ディフェンスの選手は不用意にボールを持っている選手に近づきすぎません。下手に近づいて抜かれたなら命取りになるからです。
 サッカーに限らず、どんなスポーツも基本的には攻撃する側が有利になります。かつてNBAのスターだったマイケル・ジョーダンは「1対1なら絶対に誰にも負けない」と語っていました。同じ実力者同士の対決のとき、必ず攻撃する側が有利です。
 野球で考えてみましょう。野球では、普通は打つほうが攻撃で守るほうが守備です。しかし、ピッチャーとバッターの場面だけでみますと、実は反対です。ピッチャーが投げるボールを打つしかないのがバッターだからです。バッターから仕掛けることはできません。バッターはあくまでピッチャーの投げるボールを受ける立場でしかありません。ですから、ピッチャーが攻撃する側ということになります。
 このように考えますと、全てのことに辻褄が合います。バッターが3割を越えたら優秀といわれるゆえんもここにあります。基本的に攻撃する側であるピッチャーが有利な立場ですから、3割という数字だけをみると低いものでも優秀な部類に入ることになります。
 さて、キープ力は攻撃するときに有利な状況を作り出せます。相手は近づいてこられないのですから、自分たちの有利な展開を作り出すことができます。最近の日本はワンタッチパスを効果的にしていますが、それもキープ力があってこその効果です。もし、キープ力がない選手が無理にワンタッチパスをするなら、ミスをすることは間違いありません。そのときのワンタッチパスは焦って出すパスと同じになるからです。
 本当に実力のある選手たちは常にボールをキープする自信がありますから、ワンタッチパスをしながらも、頭の中では最後のゴールを決める展開を描いています。そして、攻撃する全員の描く展開が一致したときに相手ディフェンスは翻弄され、対応することができずゴールを許すことになります。
 このときディフェンスの選手たちは攻撃する側の展開が読めないから翻弄されるわけです。攻撃側で大切なのはディフェンスに予想させない、もしくは予想できないような展開をすることです。もし、ディフェンスが予想できる展開であったなら余裕で攻撃を阻むことができます。少し前に流行った言葉でいうなら「想定内」のことは対応するのが容易です。
 このようにサッカーの世界では、攻撃する側にとって最も重要なことはゴールという最終目標に向かってディフェンスに悟られない展開をすることです。それなくしてゴールは生まれません。
 最近は出口戦略という言葉を経済関連メディアで目にすることが多くなっています。先週も、米国のバーナンキ議長が「来年半ば頃には、金融緩和を終了する」という発言が出口戦略を語ったとして、株価や為替に変化がありました。
 出口戦略を辞書で調べますと、元々は軍事用語で、「軍隊の損害を最小限にとどめて戦線から撤退するための作戦」と説明されていました。それが経済用語に転じて
「景気後退時に政府や中央銀行が行った大幅な財政支出を伴う景気刺激策やゼロ金利、量的緩和などの金融緩和政策に対して、経済成長へと転じる際、それらを解除しつつ、持続的な経済成長を軌道に乗せるための経済政策の事」(FXCMジャパン証券サイトより)
 と解説されています。
 かつてバーナンキ議長の前任者であったグリーンスパーン氏は自らの発言が与える影響さえも考慮に入れて経済政策をしていたと評されていました。僕などは、そこまでいってしまうと、哲学の世界に入ってしまうと感じたものですが、現代は、経済が言葉で左右されることは間違いありません。
 出口戦略をサッカーに当てはめると、勝利を獲得するまでの展開を考えることです。もう少し短いスパンで考えるならゴールを決めることです。ゴールなくして勝利はあり得ません。
 サッカーではディフェンス側に悟られないような展開をすることがゴールへの道と指摘しました。その考えでいうなら、経済政策で大切なことは出口戦略を悟られないことです。金融の世界で飯を食っている人たちは出口戦略を予想しながらお金を動かしています。その出口戦略を惜しげもなく公開して正しい経済政策ができるはずがありません。
 出口戦略を公にすることの是非が、もう少し問題になってもいいのではないでしょうか。
 ところで…。
 メキシコ戦も負けてしまい、結局3戦全敗でしたが、メキシコ戦は精神的な要因も大きかったように思いますから、仕方のない面もあったように思っています。
 それでも、ザッケニーロ監督への批判も公然とされていますし、選手たちの技量についても同様です。
 しかし、よく考えてみますと、ザックジャパンになって以来、批判らしい批判がなされたことがありません。その意味でいいますと、ワールドカップを1年後に迎えたこの時期に批判が強まるのは悪いことではないように思ています。
 本田選手がメキシコ戦を終えたあとに取材に応じています。
「個の力で及ばなかった」ことを敗因にあげていますが、いくら展開に素晴らしいものがあろうとも、展開を実行する個の力が弱ければ素晴らしい展開も絵に描いた餅になることを指摘しているのでしょう。
 個の成長があって初めて、日本チームの夜明けがあります。
 個ケ個ッ個~~!
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする