<重大な過失>

pressココロ上




 先週の新聞に、小さいながらも僕には興味深い記事がありました。それは小学生が自転車に乗っていたときに中年女性にぶつかりケガを負わせた事件の裁判についてでした。
 神戸での事件ですが、判決は「小学生の親の監督責任を認め、被害者と保険会社に賠償金の支払いを命じた」ものでした。僕がこの記事で目を引いたのは「保険会社への賠償金の支払い」の部分です。
 僕は、元保険代理店の経験を活かして、保険についても自サイトで解説しています。また、このコラムで「自転車保険は加入していたほうがよい保険」として紹介したこともあります。そして、具体的に個人賠償責任保険という保険を勧めていました。以前は自転車のみに絞った保険というのがなく、この個人賠償責任保険がその代わりの役目を果たせる保険だったからです。
 因みに、個人賠償責任保険は被保険者が同居の家族全員となっており、自転車事故以外にも子どもが近くの家のガラスを割ったりとか、駐車場にあった車を傷つけたりとか、デパートに行って高価なガラス製品を壊した場合などに保険金が支払われる保険です。
 この事件を記事で読む限りでは、保険会社が被害者に賠償金を支払っていることがわかります。それ自体は、保険の役目を果たしているに過ぎませんから、不思議でもなんでもありません。問題は、
「なぜ契約者が保険会社に賠償金を支払わねばならないか」です。
 ここで考えられるのは「重大な過失」です。保険は内容がとても細かく決められており、余程の専門家でもない限り、全てを理解している人はいません。保険会社の社員でさえ約款をある程度でも詳しく理解している人は少数です。というよりは専門の部署の社員だけです。一般の社員はなにかしら問題が生じたときにだけ約款を読んだり、または専門の部署の人に問い合わせたりします。
 その約款の中には「保険金が支払われない場合」という項目があり、そのひとつに「重大な過失」という文字が含まれている文章があります。つまり、契約者に重大な過失があったときは保険金は支払われない、ということが説明されています。
 「重大な過失」とは、「軽微な過失」の対極にあるものです。そして、過失とは「うっかりしたミス」のことです。ですから、重大な過失とは「ほとんど故意に近い、または意識的にというような行為」でしでかしたミスのことです。
 もう少し具体的に…。保険代理店講習会の教科書に書いてあるような例を紹介します。
・寝床の近くで電気コンロをつけたまま寝て、その上に毛布が落ちて火事になった
・布団の中でガスコンロをつけて鍋を食べようとした
 今から10年以上前に代理店になる講習会で聞いたお話ですが、重大な過失とは「普通の感覚で考えて非常識な行為」と断定して差支えがない印象を持った記憶があります。
 このように、普通の人が普通に生活している中ではあり得ないことですので、それを逸脱したときには「保険は支払いません」ということになります。そして、僕はこの「重大な過失は免責」というのは当然と考えます。そうでなければ、保険というシステムは悪用される可能性がありますし、システム自体が成り立たなくなります。
 重大な過失に理解を示している僕ですが、先の自転車事故での保険会社の対応には疑問を感じます。保険会社への賠償を命じた根拠に「子どもに対する親の監督義務」を上げています。しかし、小学生がある程度乱暴な乗り方をするのは普通のことです。そこまでを、親の監督義務として押し付けるのは納得できない気分になります。これでは保険に加入する意味がなくなりますし、誰も加入しなくなってしまいます。
 冒頭で、個人賠償責任保険について説明しました。その中で「子どもがモノを壊した場面の例」を挙げました。これらは当時のパンフレットに記載されていた事例です。いったいこれらの事例と自転車事故とどこが違うのでしょう。
 僕には、保険会社が「重大な過失」を隠れ蓑にして保険金支払いから逃れようとしているように映ります。
 新聞記事にはこの保険会社がどこの会社か書いてありませんでしたが、このような保険会社には加入しないほうが賢明です。実は、重大な過失の事例は裁判で幾度か争われています。このことは、重大な過失が正確には決められていないことを示していることになります。そして見方によっては、保険会社の姿勢を知る決め手になります。契約者の立場に立って判断する会社かどうかの姿勢です。
 先週、平日の午後2時ころにたまたま家にいますと、30才前後と40代後半の女性がインタフォンを押しました。息子が加入している生保会社のレディ2人でした。訪問理由は加入している保険の確認と見直しのためです。
 僕は、このような営業の方がみえますと、最初に正直にお話します。「僕は元同業者ですので…」。僕が最初から正直にそのように話すのは相手の方に無駄な時間をとらせたくないのと、嫌な気分にさせるのが申し訳ないからです。やはり、相手の方も生活がかかっていますのでセールストークもします。なので、あとから同業者と聞くと嫌な気持ちになるものです。
 セールスの人は誰でも男性が出てきますと身構えるものです。やはり男性よりは女性のほうが組みやすいと感じるのが普通です。
 僕がドアを開けますと、若い女性が満面の笑顔で来訪した理由を告げました。息子が在宅している曜日や時間などを尋ねてきましたが、「保険についてお父様がなにか意見をいうことはあるんですか」と質問してきましたので、「僕が全てを決めていることと元同業者であること」を伝えました。
 すると、うしろで控えていた先輩らしき女性が前に出てきました。
「どこの保険会社にいらしたんですか?」
 ここまで話が進みますと、あとは契約内容のことよりも保険業界についての話のほうが多くなります。
 僕はここ最近伸びている「複数の保険会社を扱っている代理店」の話をふってみました。以前、このコラムで紹介しましたが、最近はこうした代理店が経済誌で批判されています。そうしたことを知っているかどうかで生保レディとしての実力がある程度わかります。
 僕が代理店をしていたときは、普通の生保レディは保険会社から言われるままに営業をしている人のほうが多かったのが実状でした。ですから、実際のところ保険業界の動向や問題点について考えることもなく、ましてや勧める契約に自分の考えはほとんど入っていませんでした。最近は生保レディと話す機会もありませんので確信はありませんが、現在もさほど変化していないように推測しています。
 実は、損害保険についても同様で、保険会社から更新時期に送られてくる「更新手続きのお知らせ」と「お勧めする契約」はお客様と直接接している代理店が作成しているのではありません。保険会社の本社の事務方が会社の方針に従って作成しているものです。ですから、お客様に最適な契約内容になっている確率はほんのわずかです。
 損害保険に関しては、現在加入している保険は全て知り合いの代理店と契約しています。ですから、最近の損保業界の現状を聞いていますが、昔と変わっていないそうです。
 このように、僕は普通の人よりは保険業界の内側についても少しばかり知っています。そうであるだけに今回の自転車保険の記事はとても気になりました。保険に加入するときは、「免責の内容」について正確に理解することはとても大切です。そのときは、もちろん口で返答を聞くのではなく、パンフレットや各社が作成している約款を簡易にしている説明書など文章に記載されているもので確認することが大切です。いざとなると、「言った」「言わない」の争いになることもあるからです。
 本当は、「いざ」となったら保険を使うものですが、保険会社と揉めての「いざ」では保険を使うわけにもいきません。
 繰り返しになってしまいますが、「契約者に対する保険会社への賠償命令」という判決はどう考えても理不尽です。どなたか心優しき弁護士が助けてくれることを願わずにはいられません。
 保険は「いざ」というときのために加入するシステムです。今回の自転車事故はまさにその「いざ」のときのはずです。それを重大な過失という名目の基に保険金が支払われないなら保険の意味がありません。保険会社は「保険金を支払わない」ことを目標にして経営をするのではなく、契約者に対する公平性という視点で経営することを期待します。
 自転車保険に加入していて事故を起こしてしまったとき、いつ保険を利用するかといえば、それは「今でしょ!」しかありません。
 じゃ、また。




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