<修行>

pressココロ上




 これまでにも書いていますが、僕のサイトを訪問してくださる方はほぼ100%に近い割合で検索結果に導かれてやってくる方々です。その検索ワードは「ラーメン」とか「脱サラ」などですが、そのほかに上位に入るワードに「修行」があります。やはり、未経験の人たちはラーメンを作るにはそれなりの技術とコツが必要と思っているようです。
 それとあとひとつ、日本人のいい意味での性向として生真面目さもあるように思っています。「熟練した技術を身につけるにはそれなりの練習期間が必要」という思いです。こうした発想は武道からきているように思っていますが、柔道や剣道などは素人と玄人では力の差は歴然としています。
 武道を修める際の心構えを説いたものが武士道ですが、その武士道も日本独自の考え方です。こうしたことが日本人の土台になっていて、それが日本人が修行という概念を好む、または認める性向につながっていると思います。
 しかし、この修行という概念は使い方次第で上に立つものが下のものを管理するときにとても便利な代物になる危険性をはらんでいます。です。なにしろ一定期間の修行をしていなければ上の者と同等と扱ってもらえないことが理念だからです。しかし、僕は現代っ子の57才ですので、その理念に疑問を抱いています。
 確かに、初心者と経験者はどの世界でも実力に差があります。ですが、その差を埋めるのに必ず修行というものを経験しなければいけないというのには賛成できかねます。修行という言葉の響きから考えますと、その期間は最低でも3年間くらいでしょうか。ですから、3年は下積み時代を経験しなくては一人前にはなれないということになります。
 繰り返しますが、経験がなければできない仕事や作業があることは認めます。ですが、そうした仕事や作業は余程の専門的な仕事に限られているはずです。それにも関わらず、なんでもかんでも修行という名の下に新人に下働きを押し付けている職場が少なくありません。
 僕は今、3年という数字を使いましたが、この「3」に深い意味はありません。ただ昔から「石の上にも3年」といっていますので使っただけです。実際に、スポーツの世界を見渡しますと、才能があるアスリートは修行期間など経ずにいきなり優勝をしたり上位に入っています。ゴルフの松山選手は新人で賞金王に輝きましたし、体操では高校生の白井選手がメダルを獲得しています。こうしたことを見ていますと、修行というものは曖昧で根拠がないものに思えてきます。
 さて、先週の夜、トイレが詰まってしまいました。最初はすぐに直せると思っていました。なにしろ、僕はラーメン店時代に厨房の配管詰まりを自分で直していたのですから、そのくらいはお手の物です。しかし、トイレ詰まりは配管を修理するよりも先にやることがあります。それは棒の先に丸いゴムがついた吸引カップで便器をボコボコやることです。大概はこれで詰まりは解消されるはずですが、今回はだめでした。
 そこで、次に昔取った杵柄というわけで、お店で配管修理に使っていた道具を使いました。先っぽに円錐状の針金がついたワイヤーで便器の奥まで掃除をする方法です。これは結構大変な作業で、業務用を購入していましたのでワイヤーが強力過ぎてふたりがかりでやらないとうまく使いこなせない道具です。
 最初は中々便器の奥まで入り込まず難渋をしましたが、なんとか奥まで入れることができました。ですから、突き当たるところでワイヤーの先をグルグル回してどんどんと先に進めて行きました。ですから、詰まっているものがなにかはわかりませんが、とにかく押し出すことに成功しました。
 ところが、トイレの水を流しますとまだ詰まりは解消していませんでした。さすがにここまできますと、素人である僕にはお手上げです。翌日水道業者に依頼することにしました。
 翌日、水道業者に依頼する段になって、僕はあることを思い出しました。それは、火災保険についているサービスです。僕が加入している火災保険には「水周りの困りごとを解決してくれるサービス」がついているのです。サービスですから無料です。
 今の時代は、ほとんどの保険会社にそうしたサービスがついていますから、皆さんもなにか困りごとがあったときはそうしたサービスを確認しましょう。
 さて、早速、朝一番に電話をしますと、提携している水道業者がやってきました。業者の人は僕の話を聞いて、最初は僕と同じように便器の中に吸引カップを突っ込み詰まっている異物を取り出す作業をしました。もちろん、吸引カップは僕が使ったのとは違い、専門業者が使うような強力な道具でした。しかし、結果は僕と同じでした。
 すると「外の下水管の出口を見せてほしい」と言ってきました。僕がその場所を案内し、マンホールの蓋を開けますと、中を見てすぐに言いました。
「ああ、ここが詰まっています」
 なんと、下水の配管が詰まっていることが原因でした。配管の中が詰まっていたのですから、トイレの水が流れるわけもありません。そこで、その詰まっている汚物を取り除く必要がありますが、問題がひとつあります。それは費用の問題です。
 保険会社が提供しているサービスは作業時間が30分以内のものに限定され、それ以上時間がかかる作業は契約者が負担することになっていました。僕が見積もりをお願いしますと、なんと45,000円でした。すぐに返事をするには躊躇する金額です。「高いのかどうか、ボっているのかどうか」そのあたりが全くわからないからです。僕は調べる時間がほしかったので、その場では一応断ることにしました。
 業者が帰ったあと、すぐにネットで調べました。先の業者が見積もりを告げるとき「高圧洗浄機を使いますので」と言っていましたので、それを調べることにしました。いろいろなサイトでいろいろな業者を見ますと、やはりそのくらいの金額はするようでした。僕は調べているときに見つけた近くの水道業者に依頼をすることにしました。
 やってきた業者も僕の話を聞いて、下水の配管の詰まりを直す提案をし、やはり高圧洗浄機を使うことを条件で同じ金額を提示してきました。その方は人柄もよさそうな人でしたので、僕はすぐにお願いをしました。
 僕は高圧洗浄機というものをどのように使うのかに興味がありましたので、近くで見させてもらうことにしました。そして、高圧洗浄機というものの威力に驚かされました。
 最近はテレビのCMなどでも見かけますが、棒状の先から強力な水が勢いよく出てきて自動車や家の壁などをきれいにする道具です。その棒状の部分がホースになっているのが今回使う道具です。そして、先の部分から水が飛び出る構造になっていました。
 さて、配管の中に直径1~2センチのホースを差し込みスイッチを入れますと、すぐに汚物が流れ出しました。しかし、その量が半端ではありません。業者の方はホースをなんども出し入れを繰り返しどんどん中に進んで行きました。すると…、
 出るわ!出るわ!我が家の汚物の塊!
 結局、トイレの配管を洗浄するのに40分くらいかかりました。。業者の方の話では配管が約10メートルくらいあり、そこがすべて詰まっていたようです。いったいいつから詰まり始めたかは僕にもわかりません。その量の多さにただただ驚くばかりです。
 ついでにお風呂や台所の配管も洗浄してもらい合計1時間30分で終了しました。これで我が家の配管はほとんどがきれいになったことになり、大満足です。ですが、45,000円の出費です。
 この作業、高圧洗浄機という道具さえあれば自分でもできそうした。しかし、業者の人に言わせますと、コツを掴むのにある程度の修行期間が必要とのことでした。そうでないと1時間30分で45,000円はとれないです。
 でも、僕はできそうに思えたんですよねぇ。この作業は修行が必要な種類には入らないように思います。体験記に書いていますが、ラーメン店時代に配管が詰まったとき業者にかなりの金額を請求されましたが、1万円の道具を自分で買ってきてからはいつも自分で直していました。そのときも業者の人は「素人には簡単にはできない作業」と言っていました。
 
 僕の経験からしますと、多くの職場で新人でも数日でこなせる作業を先輩が教えない状況があります。その理由は、表向きは「新人にはまだ無理だから」というものです。しかし、僕には、先輩たちや社員が「自分がやっている作業や仕事を新人に取られたくない」からのように見えます。そのときの建前に使われるのが修行です。新人は修行という名の下に先輩たちがやっている仕事を教えてもらえないのです。職場としてはこれほどもったいないことはありません。
 修行という言葉の響きに魅せられて、簡単なことをわざわざ複雑にしている人がいます。そして、職場があります。既得権益者が権益を手放すことに抵抗するのはどこの世界でも同じです。
 じゃ、また。




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