<君子>

pressココロ上




 「キミコ」と読んだ人はいないでしょうね。「クンシ」です。
 さて、マスコミの取り上げ方も少し下火になってきましたが、国から補助金をもらっている企業から政治家が献金を受けている実態が報じられました。国民はもっと怒るべきです。この行為はつまるところ、政治家が企業を通じて国からお金を受け取っていることと同じです。そもそも補助金をもらう企業は献金などする余裕はないはずです。そのような企業から献金を受け取る政治家は倫理観という観点から非常識という誹りは免れません。
 最終的には、与野党ともにそうした政治家がいることから追求は尻つぼみになっていますが、法的には罰せられないことが根本的問題です。このような法律の抜け道は早く修正すべきものです。かつての「記憶にありません」ではありませんが、「知らなかった」で済むのでは国民のひとりとして容易に納得できるものではありません。
 政治家の皆さんは「李下に冠を正さず」という諺を肝に銘じてほしいものです。
 この諺は君子の心構えを説いたものですが、疑われる行為は慎むのが君子たるものです。それだけ人の上に立つ人は高貴な精神が求められます。その君子の部類に属すると思われる大塚家具の社長が揺れ動いています。正確には社長という地位が揺れています。
 ご存知の方も多いでしょうが、父親と娘という親子の間で社長の地位をめぐって争っているさまはとても不思議に映ります。第三者からしますと、どちらも君子にふさわしい人格者とは思えません。
 報道によりますと、どちらも自分の考えが正しいと思っているようです。これは至極当然で、創業者である父親にしてみますと自分のやり方で成長してきたのですから娘のやり方が納得できないのは当然です。なにしろ娘のやり方は父親のやり方を否定するものにほかならないからです。
 娘にしてみますと、「古いやり方に固執していることが低迷の原因」と映っているのですから、それまでの父親のやり方を否定して新しいやり方を展開するのが正しいということになります。ここでややこしくなるのですが、不思議なことにどちらも近年の低迷の原因を「相手のやり方」と主張しています。いったい真実はどちらにあるのでしょう。
 傍目から見ていますと、対立の根本にはお互いのプライドがあるように思います。父は一代で上場企業にまで成長させたプライドがあるでしょうし、娘は近代経営を最新の最高学府で学んだプライドがあります。お互いが意地を張っているのはこのプライドがさせる業です。
 どちらにしても、このような状態の企業がこのまま存続できるとは思えません。新しい社長が就任する以外に大塚家具が生き残る道はないでしょう。たぶんビジネスマンの多くの人が僕と同じ考えだと思いますが、当人たちはそのように思わないのでしょうか。それが不思議です。
 このような親子喧嘩または内紛を見させられてしまいますと、余計にトヨタという企業の素晴らしさが際立って見えます。大分前にトヨタに関する本を読みましたが、戦後米国に輸出すべく米国のだだっ広い大地を走らせるとエンジンが故障していたそうです。つまりそれだけ性能が低かったことを示しているのですが、それから80年代の日米摩擦を起こすほど成長し、それを乗り越えて昨年は米国の企業を押しのけて世界で一番の売上げになっています。
 さらにそのうえに、なにがすごいかといいますと社長が世襲となっていることです。正確には途中で幾人か外部の人が社長に就いていますが、現在は戻っています。これほどすごいことはありません。普通は「三代目で倒産する」といわれていますが、成長し続けているのですからこれほどすごいことはありません。
 トヨタと比べられることが多い現Panasonicの松下電器は大分前に社長は創業家から輩出されていません。それを思うとき、トヨタの凄さがわかるというものです。
 僕が二十代の頃に現在の社長のお父様である章一郎氏の本を読んだことがありますが、その中で一番印象に残っているのは「残業をしたことがない」という文章でした。この意味は「効率的に仕事をすること」の大切さを説いていたのですが、当時の僕は「創業家の人だから残業などさせないように周りが気を使っていた」という感想を持っていました。まだトヨタが経団連にデビューする前のことです。
 それはともかく外部の人間が社長に就いたあとに、いわゆる大政奉還で現在の章男氏にバトンタッチされているのですから世襲の意識が企業にあったことになります。このときに忘れてならないのはトヨタ家を支える番頭役の幹部がいたことです。石田退三氏や大野耐一氏、近年では奥田碩氏など名前を挙げたらキリがありませんが、そうした人たちの存在なしには大政奉還はあり得なかったはずです。
 そうしたことも含めて創業家を支える番頭さんたちの良識がトヨタの現在を作っていると思います。それを思うとき、現在の大塚家具の状況はあまりに寂しい気持ちになります。君子はひとりもいないのでしょうか。
 最後に、あとひとり君子について考えさせられる人がいます。それはコンビニ・ローソンの玉塚元一社長です。玉塚氏についてはコラムでしばしば取り上げていますが、僕が気になる経営者のひとりです。
 その僕が玉塚氏について考えさせられたのは「玉塚氏がローソン社員の講演にかつての上司である柳井氏を招いたこと」です。一言でいうなら「がっかり」でした。玉塚氏の生まれついてのボンボンの性格が最も表れた場面ではないでしょうか。
 柳井氏は玉塚氏をユニクロの社長から解任した張本人です。その張本人を自社の講演に呼ぶとはなんたる男気のなさでしょう。記事によりますと、玉塚氏は柳井氏に頭を下げて招いたそうです。この講演は柳井氏の経営方法を自社の幹部たちに語ってもらう場です。これはつまり柳井氏の経営手法を社員や幹部たちに奨励することを意図していますが、それはつまるところ自分を解任した経営手法が正しかったことを認めることでもあります。
 意地でもそんなことは認めて欲しくありませんでした。もしかしたなら、現在の自分の立場を柳井氏に見せ付けたかったのかもしれません。もし、そうであるなら今度は自社の社員たちに対して失礼です。自らの見返しに社員を利用したことになるからです。
 どちらにしても君子には似つかわしくない行為のように感じました。簡単に言ってしまうなら、ナンバーワンの器ではなくナンバーツーの器ということになります。実は、僕はそれ以前に新波氏が玉塚氏を社長に据えたことに批判的です。親会社からでもなく生え抜きでもない人が社長の知り合いという関係で幹部になり、そしてトップに就任するのは社員の意気が消沈するように思えてなりません。
 君子はだれが見ても納得する人がなるべきです。
 じゃまた。




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