<私心>

pressココロ上




 先週の最も注目を集めたニュースといいますと、やはり安倍首相の「戦後70年談話」でしょう。安倍首相が日本の過去の戦争についてどのように考えているかを示す会見でした。当然ですが、どんな考えでも世の中の全員から評価されることはあり得ません。そのような状況で「戦後70年談話」を発表するにはできるだけ摩擦を避け、そして自らの考えも訴えるには慎重な言い回しが求められます。その意味で、僕は及第点を上げてもいいような内容だったと思います。
 常々僕は書いていますが、安倍首相は世の中の評価を実に的確に捉えているように感心しています。巷間いわれていましたが、「談話」には4つのキーワードの有無が注目を集めていました。そして、結果はすべてのキーワードが含まれていました。周到な練り合わせが見て取れます。
 4つのキーワードとは「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「おわび」ですが、実にうまく挿入していたと思います。確かに、間接的な表現だったり主語が欠落していたりして曖昧な点は否めません。しかし、相反する考えを持っている人たちの全員が受け入れられるような最小公約談話という点ではこれ以上ない内容だったように思います。
 マスコミ報道によりますと、当初安倍首相はこれらのキーワードを談話に盛り込むことに消極的だったそうです。報道からだけでなく、安倍首相のこれまでの言動からしますと容易に想像できる姿勢です。なにしろ憲法解釈を変えてまで集団的自衛権を実現しようという考えの持ち主ですから、加害者責任を強調することになるキーワードを盛り込むことに積極的なわけはありません。
 その安倍首相が盛り込んだのですから、いかに現状に危機感を持っているかが伝わってきます。僕が感心するのはその危機感を持つ感性に対してです。その敏感さです。これも常々書いていますが、この安倍首相の決断にはブレーンの存在が欠かせないはずで、そのブレーンの感性も賞賛せずにはいられません。
 現在政府は沖縄米軍基地移設に関して辺野古の海底ボーリング作業を中止していますが、こうした対応も危機感が影響しているのは間違いのないところです。
 全体的な雰囲気としては新聞テレビなどマスコミは安保関連法案に対して反対論調ですが、中には安倍首相に理解を示すマスコミもないわけではありません。筆頭に上げられるのが産経新聞ですが、個人でも堂々と安倍首相を支持している人もいます。
 例えば、ジャーナリストの桜井よしこさんは週刊誌で堂々と「成立させるべき」と公言しています。この主張は今の社会雰囲気に反対するものですので勇気のいることです。僕は桜井氏の主張に賛成できかねますが、その姿勢には尊敬の念を持っています。社会の風潮に流されることなく、自分の意見を堂々と主張する姿からはすがすがしいものを感じます。
 このように少数派でありながら、堂々と主張できるのは私心がないからです。もしそこに少しでも私心があったなら後ろめたさがありますので堂々と主張などできません。こうした姿勢と正反対にあったのが新国立競技場建設だったのではないでしょうか。
 先ごろ検証委員会の1回目の会合が開かれましたが、そこから見えてくるのは私心のある人が多くいることです。そうでなければ1,300億円の予算が3,000億円にまで膨れ上がるわけがありません。しかも根拠があやふやなまま膨れ上がっていました。あるニュース番組を見ていましたら、予算内に納まるように修正しても、いつの間にかまた膨れ上がっていた経緯が報じられていました。私心のある誰かが見えないところで手を加えていたとしか思えない経緯でした。
 今の社会状況で僕がうれしく感じているのは、衆議院を通過した今現在でも安保関連法案に対する関心が薄れていないことです。専門家や知識人だけでなく一般の人や若い人たちが反対の声を上げ続けていることはとても頼もしいことです。民主主義の一端を感じることができます。
 そんな中、少し気になるのは労働組合の動きです。安保関連法案に反対の声明などは出していますが、実行力に欠けているように思います。反対の勢力がもっと大きくなるには大きな組織の行動力が欠かせません。労働組合の今後の活動に期待をしたいと思っています。
 いつの間にか論点から消えてしまった感がありますが、安倍首相の一番の問題点は集団的自衛権の活動を憲法改正ではなく解釈だけで行おうとしていることです。もし、安倍首相が私心からではなく本当に国家や将来の子供たちのことを思って集団的自衛権を行使したいのなら解釈などという姑息なやり方ではなく、正々堂々と憲法改正を計るべきです。そのときに初めて国民は憲法9条について真剣に考えるのではないでしょうか。そして、たぶんそのときは改正は否決されると思います。
 いくら戦争を直接知らない国民が多数を占めるとはいえ、戦争の悲惨さを感じない人はいないはずです。漠然とではありますが、「戦争はしてはいけない」と誰もが思っているものです。
 僕が最も嫌う世の中は「反対できない雰囲気になること」です。山本七平氏には「空気の研究」という本がありますが、「反対できない空気」になったときはもう手遅れです。そして、そのような空気を作ろうとする輩は必ず私心を持っている人たちです。
 最後に、池内紀という大学教授の言葉を紹介します。
「人を動かすのは、事実そのものではない。事実についての情報、情報をめぐるオピニオンこそ人を動かす。そして、情報はいつだって『正しく』なく、オピニオンは永遠に『正しく』ない」
「権力者が発する情報は語られていること以上に語り方が真意をあらわしている」
 じゃ、また。
追伸:なんか最近は硬派な内容が多い気がするけど、まぁいいか。




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