<勝負と覚悟>

pressココロ上




 唐突ですが、僕には「勝負靴下」というものがあります。どういうものかといいますと、他人に靴下を見せなければいけない状況になりそうなときのための靴下です。女性の間で「勝負パンツ」という言葉がありますが、それの靴下版と思っていただければよいかと思います。
 要はきれいで人に見られても恥ずかしくない靴下という意味ですが、僕が勝負靴下を履くのは最近では一か所だけと決まっております。それは歯医者さんです。僕が行く歯医者さんは靴を脱ぎ、スリッパに履き替えるスタイルなのですが、治療の際はさらにそのスリッパまでも脱いで治療イスに座るシステムになっています。そのときに否が応でも靴下が見えてしまいます。
 人間の足の形にはいろいろありますが、大きくわけますと親指が一番長いタイプと人差し指が一番長いタイプに分かれます。僕のこれまで生きてきた中の統計によりますと、圧倒的に人差し指が長い足の形の人のほうが多いように思います。
 そして僕の足の形はマイノリティのほうに属します。そうです。親指が一番長いのです。親指が一番長いタイプの足で最も損なことは靴下に穴が開きやすいことです。そうです。親指の先が靴下に当たって穴が開くのです。親指の爪が少しでも伸びていようものなら靴下に穴がすぐに開いてしまいます。とても非経済的な足の形です。
 このような特徴がある僕の足の形ですので靴下に穴が開きやすく、ですから勝負靴下は丁寧に履く必要があります。
 僕の勝負靴下の形状は中高年の男性にふさわしいおじさんらしい形をしています。今の若い人が履いている靴下は一見すると履いているかいないかわからない形をしているものがほとんどです。つまりくるぶしから上に口ゴムがでいることはほとんどありません。
 しかし、おじさんの靴下はちゃんと口ゴムの部分がくるぶりしよりも数センチ上の位置にあります。昔ながらのコロッケではなく昔ながらの靴下の形状です。僕はこの形が最も履きやすいのですが、そのほかには足裏の部分がパイル状になっていることが重要です。その理由は、足裏にクッション性があることで足が疲れないのです。足裏は人間が歩く際に地面と接する最も重要な箇所ですので機能性はとても重要です。
 しかし、「勝負」とつくくらいですから「足が疲れない」といったような機能性と同じくらい重要視していることがあります。それは「見てくれ」です。つまり「見た目」ということですが、色が派手でなく、かといってダサクもなくおしゃれなファッション性も兼ね備えている必要があります。それでこそ「勝負」するにふさわしい靴下です。
 それほど素敵な勝負靴下ですが、実は僕は勝負靴下をたったの一足しか持っていません。たまたま妻が安くて品質のよい衣料品を売っているチェーン店で、いつもよりさらに安くなっていた靴下を買ってきました。妻がそのときに買ってきたのは2足だったのですが、僕が勝負靴下に任命したのはそのうちの1足だけでした。あとの1足はおしゃれの面で勝負靴下にふさわしくなかったからです。
 妻の話では、その後何回がそのお店には行っているのですが、僕が考える勝負靴下に適った靴下に出会っていないそうです。ですので、勝負靴下は今もって1足ということになります。
 勝負靴下が1足しかありませんので、やはり着回しはとても重要です。ですから、歯医者さんに行く予定があるときはその一週間くらい前から勝負靴下のスケジュールに気を使います。きちんと計画性を持って靴下を選びませんと、歯医者さんに行く日にうまい具合に勝負靴下を履くことができなくなってしまいます。計画性を持って行動することはとても大切です。
 そのような勝負靴下ですが、ある日僕はつい名前を間違えてしまいました。自分でも理由がわからないのですが、たぶん「勝負」という言葉が思い浮かばなかったのでとっさに言ったのだと思います。そのとき僕は妻にこう言ってしまいました。
「覚悟靴下は洗ってある?」
 そうです。「勝負」ではなく「覚悟」に変わってしまったのです。しかし、よく考えてみますと、勝負するには覚悟が必要ですからあながち間違いともいえないような気がします。僕が「覚悟靴下」と言いましたところ、妻が「どうして覚悟なん?」と聞いてきました。僕はついこう答えていました。
「発展形だよ」
 そうです。勝負が発展すると覚悟になるのです。かくして我が家には覚悟靴下が1足あります。
 参院選も後半に入りました。与党と野党の勝負が行われているのですが、選ぶ側はしっかりと覚悟を決めて投票しなければいけません。覚悟を決めないで投票をしていまいますと英国のようになってしまいます。
 報道では「離脱に投じた人が後悔している」と伝えていますが、それが本当なら覚悟もなく投票したことになります。しかも投票したあとになって離脱派の主張に嘘があったことが明らかになっています。嘘の主張を見抜けなかったのも真剣に考えなかったからです。覚悟を持って投票しなかったからです。
 日本でも与党野党がそれぞれ公約を訴えていますが、真実を見抜きそして実現性を考えることが大切です。でも、その前に先週からなんども書いていますが、投票に行きましょう。投票率が50%代はあまりに情けない数字です。棄権をすることは日本をおかしな国にすることに一票を投じていることになります。
 時間がない人は期日前投票に行きましょう。…覚悟を持って。
 じゃ、また。




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