<こころ優しき人々>

pressココロ上




 ラジオで「食品購入時の行動」についてアンケート結果を報告していました。スーパーなどで肉やパンなど賞味期限がある商品を買うときに「手前からとるか奥からとるか」の統計をとっていました。結果は、「奥からとる」が大半を占めていました。理由はもちろん「より新鮮」な商品を買いたいからです。通常は奥のほうに新しい商品が陳列されているのをほとんどの人が知っています。
 しかし、「手前の商品のほうが新鮮さで劣っている」とわかっていながら手前の商品を買うお客様もいます。こういう人々は自分の利益より他人へのこころ配りができる人たちです。そうです、こころ優しき人々です。そのような人たちを僕は尊敬します。
 僕の店にもこころ優しき人々はやってきます。では、どのような人々かと言いますと…。
 精算のとき「手提げ袋」を辞退する人です。「ゴミになるから」という理由の人もいますが、中にはお店の経費削減のために辞退してくださる方もいます。僕にとってはうれしいお客様です。
 手提げ袋を辞退するお客様は一日に数人いらっしゃいますが、さらにこころ優しき人は「商品を入れる紙袋」さえも辞退する方がたまにいらっしゃいます。「そのまま渡してくれたらいいから」と手で受け取ってくれます。紙袋代はわずかですが、それでも僕にとっては経費削減効果があります。
 手提げ袋の購入価格は小さいもので2円50銭、大きいものだと3円70銭します。紙袋は3種類ありそれぞれ価格が違いますが平均しますと2円80銭くらいです。少額とバカにするなかれ! 一日100人来店しますと少なくとも手提げ袋紙袋合わせて500円の経費がかかります。それが1カ月ですと13,000円です。決して少額とは言えません。ですので紙袋、手提げ袋を辞退してくださるお客様はとてもうれしいのです。こころ優しき人々です。
 次にこころ優しき人の例としては「お釣りを辞退」する人です。1~2日に一人くらいの割合でいらっしゃいます。当店は一円単位の売価ですので一円単位の端数がお釣りとして出ることがあります。そういうときに「お釣りはいいよ」とか「お釣りはあげる」と言ってお釣りを受け取らずに帰って行きます。
 「お釣りを辞退」するだけでもこころ優しき人ですが、先日はさらに輪をかけてこころ優しき人が来店しました。
 70才くらいの男性です。総額189円の商品を購入し代金を支払う段になりますとポケットから硬貨の塊を手のひらに取り出しました。そしてその中から100円玉一枚、50円玉一枚、10円玉3枚、5円玉一枚、1円玉四枚を料金トレイに置きました。男性の手のひらを見ますとまだ1円玉が数枚残っていました。すると男性は手のひらに残った1円玉を全部選び出し「これもやるよ」とくれたのです。僕は驚き「えっ、いいですよ。お金足りてますから」と言うと、「いいよ、いいよ。ウチに行けば1円玉がたくさんあるんだ」とそのまま帰って行ってしまいました。あとで妻に話しますと「ああ、あのおじいさんたまにそうやってくれるの」と言っていました。
 また、ある日。
 僕が閉店間際に大声で声出しをしていますと眼鏡をかけた壮年過ぎの男性がニコニコしながら店先に立ちました。その日は雨が降り人通りも少なくまして閉店間際ですので全く人が歩いていませんでした。男性は「なんか適当に4つ包んでよ」と言いました。僕は価格の安い順に4種類の商品を袋に入れました。代金は284円です。男性はポケットから千円札を出すと「お釣りはいいから」と言うのです。僕は申し訳なく思い言いました。
「代金よりお釣りのほうが多いですけど」
 僕の言葉に対して男性は
「いいですよ」と言い、さらに続けました。
「一生懸命やってると必ずいいことがあるから」
 新聞報道では収賄容疑で逮捕される偉い人たちがいます。賄賂を贈る人はそれよりも大きい見返りを期待しているからです。しかし、今紹介した男性の方々は僕にお金をあげてもなんの見返りもありません。ただ自分のお金を損するだけです。それなのに僕にお金をくれたのです。この男性の方々がこころ優しき人でなくてなんでしょう。
 次に紹介するこころ優しき人は気配りのある方でした。僕は閉店後に全ての商品を売り切るために半額セールをやっています。大声で「半額ー!」と叫んでいますと中年の女性が店先に来ました。すると女性のうしろに人が並びました。それに気づいた女性は「先にどうぞ」とうしろの方に順番を譲ったのです。その方が買い終わりますとまたほかの人がやってきました。すると女性はまた「先にどうぞ」と順番を譲りました。結局、お客様が続きその女性は3人の人に順番を譲ったことになります。そして誰も来ないのを確認すると女性はレジの前に立ち「じゃぁ、残りを全部」と言ったのです。買占めにならないように順番を譲ったのでした。こころ優しき人です。
 この女性の気配りもすごいですが、さらにこころ優しき人がいました。
 やはり閉店後に半額セールを叫んでいますと、車から降りてきた30才くらいの男性が3点ほど買いました。男性は「ここのおいしいよね」と言って車に戻りました。その後、一生懸命叫んでいたのですが、その日は通行人も少なく男性のあとは一人しか買ってくれる人はいませんでした。商品はまだ残っていたのですが時間も遅くなりましたので仕方なく閉店することにしました。僕が閉店の準備のため外に出てメニューを片付けはじめますと先ほどの男性が車から降りて来て「もうお終い?」と言いながら「全部、ください」と言ったのです。
 男性は言いました。
「さっき全部買うとほかの人が買うことができないから」
 僕、感動…。
 新聞では世の中の上層部で生きている人たちの犯罪が報道されています。その人たちは自分が得することだけを考えて行動しているように思います。しかし僕が生きている生活の現場ではほかの人への思いやりを持っている人がたくさんいます。僕が体験したこころ優しき人たちはごく普通に生活している人たちです。僕はこの現場の世界が好きでたまりません。今週紹介した人々は特別な人かもしれませんが、確かに現実にいるこころ優しき人々です。
 しかし、よくよく考えてみますと、そもそも僕の店で商品を買ってくださる方々は皆さんこころ優しき人々です。当店の価格より安い価格で売っているお店が近くにたくさんあります。それにも関わらずわざわざ自転車に乗って買いに来てくださるのですからこころ優しくないわけがありません。皆さんに感謝…。
 仕事帰り、妻とスーパーに寄りました。妻が「明日食べるパンを買いたい」と言ったからです。僕はトイレに行きたかったので妻に「先に行ってて」言いトイレに向かいました。用を足しパン売り場に行きますと妻の背中が見えました。妻に近づくと妻の行動が目に入ってきました。妻は棚の奥に手を伸ばしてパンを選んでいました。
 僕はすぐさま神さまに伝えました。
「おお神様、妻はこころ優しいときもあるんですよ」
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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