<無責任な医師>

pressココロ上




 先々週、僕が体調を崩したお話を書きましたが、現在はどうやらなんとか快方に向かっています。まだ、完璧とはいえませんが、最悪のときに比べますと、7~8割方まで回復したといってもいいでしょう。しかし、現在の体調に戻るまではいろいろな紆余曲折がありました。今週は、その顛末をご紹介したいと思います。
 結局、あまりの苦しさに病院へ行くことにしました。毎日、示し合わせたように帰宅する時刻になりますと体温が39度.5分に上がる病状では身体がもちません。毎晩、体温を下げるために「大汗をかく」苦行にも疲れを感じるようになっていました。結局、そのような状態が2週間以上続いていたことになりますので、自分で治すのに限界を感じてもいました。ただの風邪と思っていた症状は風邪とは違う病気のように思い始めていました。素人的に考えても、風邪にしてはあまりに長すぎます。
 病院は駅と自宅の中間にある初めて行く病院でした。診察してくださった先生は60才過ぎと思える小柄で優しそうな黒縁のメガネをかけた男性の医師でした。
 僕は体調を崩し始めた日から当日に至るまでの経緯・病状を伝えました。僕の話を聞きながら先生はときに目を瞑りときに僕の表情を伺いながら考えをめぐらせているようでした。僕が話し終えると、僕に向かってゆっくりと言いました。
「う~ん。1年に一人か二人くらいそのような患者さんがいるんですねぇ」
 カルテになにかを書き込みながら、また言いました。
「一応、抗生物質と解熱薬を出しておきますけど、原因が不明ですので血液検査をしましょう。早ければ、夕方5時頃には結果がわかりますので、異常があった場合だけご連絡をするようにします」
 僕は処方箋をもらい、薬局に行きました。薬剤師の方は薬を渡すときに次のように説明しました。
「抗生物質は帰ってからすぐに飲んでください。解熱剤のほうはお昼ご飯のあとから飲み始めてください」
 僕は帰宅してから薬剤師の方の説明どおりに抗生物質をすぐに飲み、解熱剤はお昼ご飯のあとから併せて飲むようにしました。
 さて、その日は仕事も休みでしたので、先生の指示どおりに横になり安静にしていたのですが、喉が乾いたので水を飲みに台所に行きました。冷蔵庫からスポーツドリンクをコップに入れ飲み干し、部屋に戻ろうとしたときです。身体に異変を感じました。時計を見ますと、午後の2時を回ったところでした。
 急に胸が締め付けられるような感じになり、息苦しさを感じたのです。僕はそのまま居間に倒れこみました。僕はとっさに思いました。
「解熱剤が合わなかったんだ…」
 僕は、自分が苦しいときにできるだけ苦しさを和らげる姿勢というのがあります。今から3ヶ月ほど前、このコラムで喘息で夜中に目が覚めるお話を書きましたが、覚えている読者もいらっしゃるでしょう。あのときも同じような姿勢をして苦しさを和らげましたが、正座をして上半身を前かがみにして、両手を床に着き頭を下げる姿勢です。
 僕は倒れこんですぐにこの姿勢になりました。それから数分も経たないうちに脂汗と冷や汗が滝のように吹き出てきました。その量の多さに驚き、僕はたまたま近くに置いてあったタオルを数枚、顔から流れ出る汗が落ちる場所に敷きました。
 それからが大変でした。多量の汗は出るわ、息苦しさで呼吸困難になるわ、意識がなくなりそうになるわ…。僕はとにかく「妻が帰って来るまでの我慢」と自分に言い聞かせました。ですが、あまりの苦しさに「救急車を呼ぼうか…」、なんどそう思ったかしれません。
 僕は苦しみながら、「強く意識を持つこと」を自分自身に言い聞かせていました。そのことに意識を集中していましたので、どれくらい時間が過ぎたかさえわかりませんでした。ただ、ひたすら「意識を強く持つ」ことに集中していました。
 僕は、苦悶しながら、自分自身に「あと少し、あと少しの我慢…」と言い聞かせていました。すると、玄関から音がするのが聞こえました。聴覚に全身系を集中させますと、その音が鍵を開ける音であることがわかりました。そのときのうれしかったこと…。
 僕は思わず時計を見ました。時計の針は午後4時40分頃を指していました。僕は早く妻が居間に入ってくることを願いました。そろそろ忍耐の限界を感じていたからです。
 居間に入ってきた妻は、僕の様子を見て驚いていました。しかし、思うように話せない僕は、ただ「苦しい」というしかできませんでした。
 そうこうしているうちに僕の携帯電話がなりました。妻に出てもらうと、病院の医師からでした。突然の出来事に要領を得ない妻でしたが、医師から「血液検査の結果が異常でしたので、メモしてください」と告げられたようです。妻は医師が伝える数字をメモしました。あとになり妻から聞いたところでは、医師は検査結果の数字を伝えたあとに、その数字の持つ意味を簡単に説明したそうです。
 僕は、メモを書きとめている妻に「先生に、今の僕の状況を話して」と絞り出すような声で必死に伝えました。僕の意思を理解した妻は先生に言いました。
「すみません。今、主人が目の前で倒れて動けないんですけど、どうすればいいですか?」
 妻の質問に対して医師は言ったそうです。
「あまり無理をしないで、早めに救急車を呼んだほうがいいですよ」
 電話を切ったあと、妻から聞いたこの台詞は僕を落胆させるに充分な内容でした。もっと正直に言うなら「憤りを覚え」ました。僕は「二度とあの病院には行かない」と心に決めました。
 なんという無責任な対応でしょう。自分が診察した患者が「苦しい」と訴えているにも関わらず、「無理をしないで、早めに救急車…」とはあまりに無責任です。普通に考えて、このようなときに発するべき医師の言葉としては「すぐに来てください」ではないでしょうか。今、「普通に考えて」と書きましたが、ここにはいろいろな言葉が使えます。
「常識的に考えて」「一般人の感覚では」「患者の身になって考えるなら」「誠意のある医師なら」…etc、まだほかに幾らでも思い浮かびます。
 僕はこのあと考えました。解毒剤が身体に合わないのだから、解毒剤の効用が切れるのを待つのが、そのときの最適の対応だ、と。解毒剤は1日3回の服用でした。ということは、薬の効用期間は「長くても6時間」と推測できます。僕は、ひたすら時間が過ぎるのを待ちました。そのときは、僕ひとりではありません。妻もいましたから、心に余裕が持てたことも救いでした。
 結局、その約1時間後、僕の苦悶の症状は徐々に治まり、体調は少しずつ戻っていきました。それ後は、抗生物質だけを服用することにして、ようやっと快方に向かうようになった次第です。そして、現在に至っています。
 皆さん、病院、そして医師を選択するときは評判などを確認して慎重に決めましょう。
 ところで…。
 先週は九州電力の原発説明会での「やらせ質問」が明らかになりました。僕は、このニュースを見て、「やらせ質問」をした社員の人生について思いを馳せました。
 「やらせをすること」の不公平さに罪悪感を感じなかったのでしょうか。なにも疑問を感じなかったのでしょうか…。
 僕は、「やらせ質問」をした社員の方々に尋ねてみたいです。
「あなたは自分の人生までもが『やらせ』になっていることに気がついていますか?」
 じゃ、また。




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