<軌道>

pressココロ上




 僕は日経ビジネスの「敗軍の将」が好きですが、現在は不定期の掲載となっています。今週は久しぶりに記事が掲載されていましたが、今回の敗軍の将は僕にとって懐かしいテレビ番組に出演していた方でした。
 懐かしいテレビ番組とは「マネーの虎」ですが、この番組が終わってからまだ7~8年しか経っていないのが不思議でした。僕の感覚ではもっと昔のような気がしていましたので驚きでもありました。
 さて、今回は安田久氏という飲食チェーンの社長ですが、倒産したのは6月の終わりですのでそのときにご存知の方もいるかもしれません。また、番組に出演していた当時、内装が「監獄を模したレストラン」として注目を集めバラエティ番組などでなんども取り上げられていましたので、思い出す方も多いかもしれません。安田氏の発想は奇抜で「注目を集める店舗作り」は得意だったようですが、それを軌道に乗せるのは不得手だったようです。そのことについては、記事中で本人も認めており、
「ヒット店舗を作ることには自信がありましたが、管理や経営については経験不足でした」
と反省の弁を述べています。
 僕のサイトは脱サラをテーマにしたサイトですので、訪問する方は脱サラに興味のある方ばかりです。そのような方々にとって、この記事は役に立つ内容が書いてありますので、機会がありましたら是非、一読をお勧めします。
 脱サラは誰でもできます。重要なのは、「脱サラとは独立すること」を肝に銘ずることであり、そして「独立を続けること」です。「続ける」ことができて、これを違う言葉に言い換えるなら「軌道に乗せる」ですが、それができて初めて「独立した」と言えます。
 それにしても、この記事を読んでいてとても気になることがありました。
 安田氏がマスコミに取り上げられるようになってから、地元秋田県からの依頼で東京に「なまはげ」という店舗を作りました。安田氏にとっては地元を活性化する意味合いもあったようです。また、安田氏自身も自分の進むべき方向が見つかったことでもありました。「なまはげ」の店舗もその珍しさからマスコミで取り上げられ成功を収めます。そして、さらに名前が知れ渡るようになりました。すると、全国から講演依頼が殺到し、そして、同じように各地域の郷土料理を提供する店舗作りを要請されるようになったそうです。
 僕が気になったのは、この点です。
 どうして全国の各地方の方々は安易に「店舗作りを要請する」という行動に出るのでしょう? 僕は不思議でなりません。
 以前、リクルート出身の経営コンサルタント倉田 学氏の本を紹介したことがありますが、そこにも地方の企業のコンサルタントを引き受けた事例が紹介されていました。もっと不可思議に感じたのは、脚本家の小山薫堂氏への経営コンサルタント要請でした。これは深夜のドキュメント番組で見たのですが、地方のホテルが再建策を小山氏に委ねる内容でした。小山氏は脚本家、もしくは放送作家です。そのほかにも大学教授などいろいろな仕事をしていますが、ホテルの再建を依頼するにはあまりに無理がありすぎます。ホテルの経営幹部は一般の人よりもホテル経営に通じているはずで、少なくとも小山氏よりホテル経営については専門家でなければいけません。その専門家が自らの仕事を部外者に丸投げするのはあまりに無責任な対応と映ってしまいます。
 再建を依頼する人選にも問題がありますが、もっと根本的な問題は「軌道に乗せる」責任者の問題です。仮に、倉田氏や小山氏が再建策を提示した、としてそれを実行し軌道に乗せるのは誰が行うのでしょう。少なくとも倉田氏や小山氏でないのは明らかです。この「実行し軌道に乗せる」責任者の問題は、どこのコンサルタント企業もしくは個人コンサルタントに依頼しようが必ず発生する問題です。コンサルタントは再建策は提示しますが、「軌道の乗せる」ことまではやってはくれません。
 コンサルタントがそこまで立ち入るなら高額な報酬を支払って正式な社員となってもらうしか方法はありません。また、継続的にコンサルタントを依頼し続けるなら、それこそ莫大な報酬を支払わなければいけません。そもそも、そのような重要かつ大切な業務をコンサルタントという外部に依存すること自体に問題があります。この「重要かつ大切な」業務を外部に依頼するとき、その企業の経営幹部はなにをするのでしょう。もしかしたなら、
「コンサルタントの再建策を承認するかどうかを判断する」
と答えるかもしれません。このような答えをする経営幹部に対して高額な報酬を支払う必要はありません。そのためだけに一般従業員の数倍の報酬を支払うのは無駄金というものです。
 今回は安田氏についてたまたま敗軍の将の記事がありましたので紹介しましたが、これまでにも「マネーの虎」の出資者の側が倒産の憂き目にあった例がいくつもありました。「軌道に乗せるということほど難しいことはない」ことの証左です。
 そう思うとき、一度軌道から外れた「はやぶさ」が7年も過ぎたのちに再びコントロールできるようにできたことの奇跡ぶりが一段と評価されます。これを反対の方向から眺めますと、軌道に乗れなくともあきらめなければ、いつかは軌道に戻れる可能性があることを示していることでもあります。
 皆さん、生きていますと、ときには軌道に乗れないこともあるかもしれません。でも、もしかしたらなにかの偶然で軌道に戻れることがあるかもしれません。そのときを夢見て最後まで頑張りましょう。
 えっ? 最後まで軌道に乗れなかったら、どうするかって?
 そのときは、潔くあきらめましょう。
 じゃ、また。




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