<定額制音楽配信>

pressココロ上




 先月は僕がファンである是枝裕和監督の「海街diary」の宣伝が大々的に行われていた月でした。ですから、長女役の綾瀬はるかさんを先頭に4人の女優さんがたくさんの番組に出演していました。今の時代は、映画の成功には宣伝が欠かせませんので当然のことかもしれません。
 その効果もあり興行収入も好調のようですが、実は僕は「監督の是枝さんは今ひとつうれしさを感じていないように」思っています。それはある番組に出演していたときの是枝監督の表情から想像したものですが、このような「売れ方」に是枝監督は心から喜べないポリシーを持っているように思いますし、また僕からしますとふさわしくないように感じます。
 今の若い人たちが是枝監督の好きな映画を上げるとしたなら「そして父になる」を上げる人が多いでしょうが、僕は「誰も知らない」のほうが好きです。こちらのほうが是枝監督が考えている人生観を映し出しているように感じるからです。言葉を換えるなら「似合っている」とでもいいましょうか。
 「誰も知らない」を観てから是枝監督が印象に残り、いろいろなメディアで気にかけるようになりました。テレビのインタビューを受けたり新聞に投稿などもしていますが、それらを見聞きしていますと、是枝監督が弱者に対して共感しているのが感じられます。
 是枝監督はテレビドキュメンタリー演出家という肩書きもありますが、以前、新聞の投稿でドキュメンタリーついて意見を述べていました。こうした是枝監督の考えから総合的に鑑みますと、「海街diary」の宣伝方法は一線を越えているように監督は感じているのではないでしょうか。
 ある番組に出演していた是枝監督の表情を見ていて、そんなことを感じた次第です。果たして当たっているのでしょうか…。
 映画監督といいますと普通の仕事は異なり芸術家という括りに入り、高尚な職業というイメージがあります。ですが、収入的には楽ではないそうです。あの「世界のクロサワ」でさえ台所は火の車だったという記事を読んだことがありますから、映画監督として生計を立てるのは並大抵のことではないようです。最近はあまり見かけませんが、「こちとら自腹じゃ!」で有名な井筒和幸監督も収入を確保するために専門学校の講師を務めていたそうです。なんの業種でもフリーとして生きていくのは簡単ではありません。
 映画監督の報酬はフリーの場合ですと、基本的に興行収入からの歩合ですので興行業績に左右されます。こうしたシステムは監督業に限らずフリーの人、またほとんどのアーティスト系に当てはまります。固定給がないということは、業績が悪ければバイトなど副業をする必要がありますが、業績が良ければ左団扇で暮らすことができます。
 一番わかりやすいのがアーティストの方々ですが、この方々の収入はいわゆる印税によってもたられます。いわゆる印税生活ですが、これは平凡な人たちの究極の願望と言えるものです。
 最近は芸人の世界で「一発屋」が注目を集めていますが、一発屋でなくある程度の期間売れていたアーティストは一般人が想像するよりも稼ぐようです。なにしろ一発当てた芸人さんでさえピーク時は一ヶ月の収入が3千万円ということもあったそうです。一発当てたアーティストの収入がわかろうというものです。その証拠に皆さん豪邸に住んでいます。しかし、中にはそうでもない人もいるようで僕を驚かせるような事件がありました。
 それはある有名なグループ(女性1人男性2人)のひとりがスーパーに泥棒に入った事件でした。泥棒に入った理由は単に生活に困ったからです。そのグループはピーク時にはかなり売れていたはずです。それにも関わらず泥棒に入らざるを得ないほど生活に困窮していたのが不思議でなりません。ただひとつ考えられるのはその人が歌を歌うだけで楽曲を作ることはしていなかったことです。ただ歌うだけの人と作詞作曲をする人では収入に違いがあることは想像に難くありません。
 作詞作曲をする人には印税という収入の道があります。これは小説家や漫画家など作家の方にも当てはまりますが、モノを作り出すことに対する報酬です。このようなシステムがあることでアーティストや作家の人たちは創作という作業に専念でき安定した生活を営むことができます。もし、運がよければ大金持ちになることもできます。
 若い人たちが「有名になること」を目指す理由のひとつにはこの「一発当てる」ことがあります。なにしろ印税は「1度作るならあとはなにもしなくてもお金が入ってくる」システムです。ですから、若い人たちにとってはまさにドリームです。
 僕の好きな漫画家に西原理恵子さんがいますが、この方はいろいろなことで名言を語っています。
「お金持ちになるということは、自由な時間を得ることである」
 実にシンプルな名言ですが、お金があったなら働く必要がありませんので時間を好きなように使えることになります。それを可能にするのが印税です。
 このように作家やアーティスト系の方々は「一発当てる」ことで大金持ちになることができますが、それを可能にしているのは印税というシステムがあるからです。、
 そして、最近になりそのシステムに異変が起きつつあるようです。それは定額制音楽配信というシステムの普及です。Yafooトピックにも書いてありましたのでご存知の方も多いでしょうが、Lineがそのシステムに参入すると発表しました。毎月一定額(千円前後)を支払うことで音楽を聴き放題するシステムです。今までは好きな楽曲をCDで購入したりダウンロードしたり、つまり所有することで音楽を聴いていました。しかし、定額制音楽配信が普及しますと、所有するのではなくアクセスすることで音楽を聴くやり方に変わることになります。
 このシステムは音楽を聴く側にとってはメリットがあります。1曲ごとにお金を支払うのではなく月間一定額を支払うだけでいくらでも楽曲を聴くことができます。ですからお金がかかりません。しかし、創作する側にとってはデメリットとなります。印税としての収入がなくなることを意味するからです。これからは音楽を目指す人の理由に「一発当てる」ことがあげられなくなるかもしれません。
 昨年の終わりごろにも書きましたが、これからのアーティストは印税だけに頼った収入の方法では限界があるかもしれません。今後はコンサートなど直接消費者と接する方法によってしかより多くの収入が望めない可能性は高くなるのではないでしょうか。
 そして、そのときも書いたのですが、そうした収入手段のほうがアーティストにとっての本来の姿のように思っています。進歩した音楽機器でいくらでも修正できるやり方はどこか間違っているように思えるからです。それに、僕は人間の基本的な仕事は身体を使った労働ではないかと思っているのです。
 じゃ、また。




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