<マスコミとピーク>

pressココロ上




あまり大きく報じられませんでしたが、先週はセブンイレブン(以下:セブン)の大阪の元オーナーとフランチャイズチェーン(以下:FC)本部との間で争われていた裁判の判決がありました。裁判の内容は、オーナーが本部の許可を得ずに営業時間を短縮したことに対して、本部が契約を解除したことでしたが、最高裁の判決は元オーナーの敗訴で決着となりました。この報道を見て僕が真っ先に感じたことは、「やはり、個人と大企業の争いでは大企業のほうが強い」ということです。

しかし、この裁判をきっかけに本部とオーナーの関係性に注目が集まったことは大きな功績です。それまでは本部と加盟店の不公平な関係については、報じられることさえあまりありませんでした。そうした状況から考えますと、大きな一歩にはなったように思います。それを証明するかのように、現在は多くのコンビニ本部で24時間営業が見直されています。

実は24時間営業についてはかなり前から加盟店より「見直し」の要望がありました。僕のコラムでも、今は経済同友会代表幹事に就いている新浪剛史氏がローソンの社長に就任した頃(十数年前)に書いています。なぜ、「新浪さんが社長就任したときに書いたか」といいますと、新浪さんが「24時間営業の見直し」を掲げたからです。最終的には「見直し」は行われませんでしたが、「24時間営業」が当たり前だった当時、「見直し」を掲げたことは画期的でした。

コンビニが「24時間営業」に固執したのは、コンビニを日本で最初に立ち上げたセブンの鈴木敏文氏が強く主張していたからです。セブンイレブンという名のとおり開業当初は「朝7時から夜11時」まででしたが、売上げアップのために24時間営業にしました。しかし僕に言わせるなら、それが可能だったのはFCだったからです。深夜の人員確保から人件費まですべて加盟店の負担だからこそできた芸当です。

FCは加盟店が売上げを上げるほど儲かる仕組みになっています。普通の企業ですと、売上げを上げることと同時に諸々の経費についても考慮します。いくら売上げが高かろうと、経費のほうが上回っては赤字になります。FCは本部が加盟店の各店舗から売上げを徴収し、その中から一定の割合を各店舗に支払うシステムです。売上げさえあれば赤字になることはありません。24時間営業のメリットを100%享受できるのですから儲かって当然です。24時間営業にこだわりたくなるのもわかります。

また、違う日の報道では、コンビニが「本部指示で“値引き”をするように方針転換する」とありました。コンビニの「値引き」も「24時間営業」同様に以前では考えられないことでした。コンビニは基本的に定価販売が基本で売れ残ったものは「廃棄」が決まりでした。それが数年前から店舗の判断で「値引き」が可能になったのですが、今後は本部の指示で「値引き」を行うそうです。時代的にSDGsが提言されていることも関係しているのでしょうが、大阪の元オーナーが起こした裁判は本部とオーナーの関係に風穴を開けた効果はあったように思います。ちなみに、店舗の判断で廃棄していたとき、そのロスは店舗が負担していましたが、「本部の指示」に変わることでそれが変わるのかは未確認です。

僕のサイトではFCシステムについていろいろと書いていますが、このシステムの一番の問題点は加盟店があまりに不利な状態に置かれていることです。そうした実態があまり報じられないのはコンビニがマスコミの大口スポンサーになっているからです。僕が自分のサイトを立ち上げたのもそうしたことが大きく関係しています。メリット・デメリットの両方を知ってから判断してほしいものです。

先週の本コーナーでは「ホワイトフランチャイズ」という本を紹介していますが、この本を書いたのは最近若者にも人気が出てきた「ワークマン」の土屋哲雄さんという専務の方です。土屋さんは近年のワークマン快進撃の立役者ですが、多才のある方のようで、「Excel」関連の本まで書いています。

その多彩な土屋さんが「フランチャイズ」の本を書いているわけですが、わざわざ「フランチャイズ」に「ホワイト」とつけているのは、「フランチャイズ」が基本的に「ホワイト」でないことの証です。しかし、あまり「フランチャイズ」について知識・情報を持っていない人は「ホワイト」の持つ意味が今一つピンとこないかもしれません。

「フランチャイズ」は「脱サラ」や「独立」とセットで語られることがありますが、僕には「フランチャイズ」の問題点を端的に示すときに僕が使うフレーズがあります。それは「自分で営業時間も休日も決められない独立って、なんだ!?」です。コンビニはまさに「営業時間も休日も」自分で決めることができません。それどころか「自分の都合で営業時間を短縮したり、お休み」したときは違約金を支払わなければいけません。こうした点を踏まえて「奴隷契約」と揶揄する記事もありますが、あまり的外れな表現とも思えません。

僕は十数年前までコロッケ店を営んでいましたが、当時流行りだしていたのが「パン屋さん」の新規開業でした。ですので、「パン屋さん」のFC本部もいろいろと出現していましたが、僕の感触ではFCの「パン屋さん」の新規出店のピークは4~5年前まででしょうか。テレビなどでも新しく開業する方のドキュメントのような番組が放映されていました。

そうした中、「パン屋さん」の新規出店では「FCとは異なる出店方式」で新規開業者を集客している企業が気になっていました。その方式とは「開業の方法だけをサポートする」形式です。テレビで見ただけですので詳細まではわかりませんが、FCのように毎月のロイヤリティを支払う必要はないようで、店名や営業時間も自分で決められるようでした。

こうした開業方式を見ていますと、FCよりも問題点がないように見えますが、見方を変えますとそうとも言い切れません。なぜなら「無責任」でもあるからです。僕の体験記にも書いていますが、飲食業の場合はどんな店舗でもオープン景気というものがあります。飲食業に限りませんが、新規出店で一番大切なことは継続性です。どんなに苦労して新規開店してもすぐに潰れてしまっては「出店」した意味がなくなります。

「開業の方法だけをサポートする」に特化した企業は「継続性」を保証していません。FC本部のように、契約でがんじがらめにしていない企業は一見すると良心的ですが、もう少し長いスパンで考えますと、自らはリスクを負わなくて済む形式にしている分、悪質と思えなくもありません。仮に、「継続性」の難しさを強調したなら売上げが上がったりになるのは確実です。ここに「継続性」の難しさを、できるだけ顧客に考えさせないようにすることで成り立つ「開業の方法だけをサポートする」に特化した企業の限界があります。

実は昨年あたりから「パン屋さんの倒産」が増えていることが報じられています。もちろんFCの「パン屋さん」も多いですが、FCではない「パン屋さん」の倒産も多いようです。最近の報道で伝えられる「パン屋さん倒産」は原材料の高騰が理由のことが多いのですが、それ以前に、単に「パン屋さん」の数が多すぎて、競争過多の状態になっていることも倒産の理由のように思えて仕方ありません。

最近、僕がよく行く本屋さんのビジネス書の上位に「わが投資術 市場は誰に微笑むか」という本が上位にランクインしています。この本は「伝説のサラリーマン投資家」と言われている清原達郎さんが書いた本ですが、幾度かマスコミで紹介されたことがある方ですのでご存じの方も多いでしょう。

その方が「投資信託がローンチするのはそのテーマが話題になった後」と語っていますが、FC本部も新規開業を支援する企業も投資信託と同じです。一昨年来「唐揚げ店」がFCで雨後の筍のように出現していましたが、最近では「パン屋さん」同様に倒産急増が報じられています。FC本部にしろ「新規開業を支援する企業」にしろ、そうした企業が募集をした時点でピークを過ぎていると思ったほうが賢明です。

皆さん、マスコミで報じられるときは、すでに「ピークを過ぎている」と肝に銘じましょう。

じゃ、また。




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