ヤマトHDの子会社であるヤマトリースの社長がパワハラ発言をしたことが話題になっていました。同じ頃に郵便局の不正販売も報道されましたので、そちらのほうに注目が集まりテレビや新聞ではあまり大きく取り上げられませんでした。そうしたこともあり騒動は収束しましたが、今回の社長の発言はいろいろと考えさせられる問題をはらんでいます。
社長のパワハラ発言を紹介しますと
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「お前ら殺されるぞ、本当に。分かる、これ? そのくらい(の給料を)もらってんだよ。殺されるよ、本当。ふざけんなよ。馬鹿たれ! それも分からねぇから問題なんだよ」
「24時間働きゃいいじゃない。(ヤマトHDの中核子会社)ヤマト運輸に戻ると(給料が)下がるんだよ。ウチに残りたいんだったら死に物狂いで働けよ。家買ってんだろ、ローンあるんだろ、できますか、甘えるのやめてくれよ」
小泉氏は、一部の社員で1000万円を超える給料の社員がいることに、不満を持ち、こうした発言を繰り返していたという。
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ということですが、言葉自体は確かに激しく辛辣で聞き捨てならない感じがします。しかし、共感する声が意外に多くあったようです。
本題に入る前に話は少し逸れますが、この記事を最初に報じたのは週刊文春です。やはり、告発したい人が一番に持ち込むのは週刊文春のようです。相変わらず文春砲は大きなインパクトを持っています。
話が逸れたついでに、あと少し逸れさせてもらいます。エンタメ業界では現在吉本興業の「闇営業」がマスコミで大きく報じられています。最初の報道からかなり日にちが経ちますが、それでも収束する気配がないのは、マスコミ側のなにかしらの意図があるように感じることがないでもありません。
それはさておき最初のきっかけとなったのは、中堅芸人の方が犯罪集団の集会に参加していたことです。ですが、それを報じた週刊誌について疑問を呈する意見が出ていました。それは「週刊誌の人たちは犯罪集団からどうやって写真やネタを仕入れたのか?」という疑問です。
この騒動の核心は「会社を通さずに仕事を請け負っていたこと(いわゆる闇営業)」ではなく、「犯罪集団から仕事を請け負って金銭を受け取っていたこと」です。この論理を当てはめますと、もし「週刊誌の記者が犯罪集団からネタや写真を仕入れるために、お金を支払っていた」なら同じ過ちをしていたことになります。
その疑問に対して、ある週刊誌の記者は「記者の矜持からして、そんなことは絶対にあり得ない」と強く否定していました。しかし、それを証明するものは何一つありません。結局のところこの問題もウヤムヤになって終わりそうです。週刊誌が週刊誌を糾弾するのには限界があります。
話を戻します。ヤマトリース社長のパワハラ発言でした。
確かに、言葉遣いは悪いですが共感する声も多かったそうです。報道が真実だとすると、社長がパワハラ発言をしていた理由は、ヤマト運輸で働いているドライバーさんの給料と比べてリース会社の給料があまりに高いからです。しかも、発言から察しますとヤマトリースの労働環境はヤマト運輸のドライバーさんより格段に恵まれているようです。
こうしたことから考えますと、ヤマトリース社長の発言に共感を覚える人がいても不思議ではありません。しかし、ここで僕は一つ疑問を感じることがあります。それはこの記事のネタ元が横田増生さんというジャーナリストであることです。
横田さんというジャーナリストは流通業や物流業について多くの本を出版している方です。幾つかの本を紹介しますと『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』『ユニクロ帝国の光と影』『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』『ユニクロ潜入一年』などですが、このタイトルからわかるように横田氏はヤマト運輸のドライバー業界の内実についてもかなり精通している方です。
僕が不思議なのは、ドライバーの大変さを知っているジャーナリストがドライバーを擁護する内容のパワハラ発言を告発していることです。「擁護」という言葉が言い過ぎであるなら、ドライバーの立場に立った視点でも構いません。どちらにしても「ドライバー業界VSリース業界」の構図の中でドライバーの側に立って苦言を呈している社長をドライバーの苦労を知っているジャーナリストが非難していることになります。僕は、その点がどうも解せないのです。
次に疑問に思うのは、異なる業界から異動してきた社長の是非です。業種が全く違うのですから、同じ企業グループであろうともドライバー部門とリース部門では仕事の内容が違って当然です。それを同じような発想で叱咤激励をされては部下はたまったもんではありません。そうした人事を行っている企業の発想に疑問を感じます。
しかし、最近流行りのイノベーションという発想で考えますと、全く異なる業界から人事異動することはメリットもありそうです。ですが、仮にメリットがあったにしても部下を取りまとめるのにパワハラ発言はいただけません。パワハラ発言をして部下が能力を発揮できるはずがありません。
ここまで来ますと、上司としての能力の問題ということもできそうです。たたき上げで出世した人に多いのですが、自分のやり方以外は認めない人がいます。そのような人の部下は業績を伸ばすことができないはずです。繰り返しますが、部下が最高のパフォーマンスを発揮できないからです。
詰まるところは、現場での能力が高い人が管理能力も高いとは限らない、に行き着きます。「名選手、必ずしも名監督にあらず」のことわざが当てはまります。
名選手が名監督になるとは限りませんが、それ以前に選手がすべて名選手になれるとも決まっていません。「決まっていない」どころか、名選手になれるのは一握りの人だけです。世の中のほとんどの人は「普通の人」で人生を終えていきます。
つまり世の中のほとんどの人は「普通の人」なのです。動物の世界ではないのですから「普通の人」が普通に働いて普通の生活をできることが人間社会には必要です。名選手の活躍を楽しむ人や応援する人やサポーターがいるからこそ名選手は名選手でいられます。
来週は参議院選挙です。「普通の人」が普通に生活できる社会を作ってくれる人に投票しましょう。
じゃ、また。