<ワールド ベースボール クラッシック>

pressココロ上




WBC(ワールドベースボールクラッシック)が盛り上がっていますが、球場が観客でいっぱいになっている光景は見ていてやはり気持ちのいいものがあります。人間という生き物は他者とのつながりを求める遺伝子が組み込まれているのかもしれません。球場だけに限らず日本全体が注目していることを示していたのはテレビの視聴率でした。

現在メディアの多様性が巷間言われ、一般的にテレビの視聴率が低迷しているこの時期に、なんと関東地域ですが初戦が「41%」超えたそうで、関西でも「35%」を超えたそうですから、いかに盛り上がっていたかがわかろうというものです。こうした状況を作り出したのは、なんと言っても「二刀流の大谷翔平選手」であることは誰もが認めるところでしょう。

ですが、大谷選手が日本にやってくるまでWBCを盛り上げていたのは、大谷選手の先輩メジャーリーガー・ダルビッシュ有投手でした。メジャー組で唯一合宿の初日から参加してくれたのですから栗山監督も感謝しているのではないでしょうか。大会が始まるまでWBCの雰囲気を盛り上げる役割をしっかりと務めていたように思います。

ダルビッシュ投手が平成の怪物・松坂大輔さんのインタビューを受けている映像を見ましたが、本人曰く「こんなに落ち着くとは、自分でも驚いている」と大人の雰囲気で語っていました。確かに、全体の会見インタビューなどでも紳士的にジョークをちりばめながら、マスコミと対応している姿は好印象でした。

僕がダルビッシュ投手で最も印象に残っているのは、メジャー行きを発表したときの会見です。当時すでに新人の頃とは異なり落ち着いた雰囲気を醸し出していましたが、メジャー挑戦に至った気持ちを素直に語っていました。多くの人が応援したくなるようなとても素晴らしい会見でした。

ダルビッシュ投手はメジャーに行く前まで日本で素晴らしい成績を残していたのですが、新人時代はそうでもなく、いわゆる「ヤンチャな」選手でした。以前なにかの記事で自らの新人時代を振り返っていましたが、「練習は言われたことだけをやる」程度の気持ちで取り組み、まだ野球にしっかりと向き合っていなかったそうです。僕の記憶では新人の頃に「喫煙で謹慎処分を受けた」ことがスポーツ新聞で報じられていましたが、それほど当時はまだ野球に真剣に向き合っていなかったようです。

そうした野球少年がいつしか球界を代表するどころか「ダルビッシュ投手が登板する日は相手チームは最初から負ける気持ちでいる」ほどのプロ野球界屈指の実力者になっていました。それまでの記録をすべて塗り替えるほどの成績だったのですから、メジャー行きを決断したのも当然かもしれません。

今回の合宿中にダルビッシュ投手が会見した全体インタビューで、印象に残っている言葉があります。「まだ周りの選手が警戒していると思うので…」と笑みを浮かべながら話していたのですが、自らの置かれた立場を十分に理解していることの表れです。こうした言葉はベテランでなければ出てこないもので、実際、ダルビッシュ選手は自分のほうから若手投手たちに話しかけていました。

ニュースで報じられましたのでご存じの方も多いでしょうが、まだ実績も少なかく周りに溶け込めないでいた宇田川優希投手について報じられたとき、ダルビッシュ投手が溶け込めるようなきっかけを作ったりもしていました。実績と実力があるダルビッシュ投手にしかできない芸当です。その宇田川選手は実戦で幾度か登板していますが、安定した投球内容でしっかりと相手打者を抑えていました。

しかし、少しばかり気がかりなのは大谷選手が参加したあたりから「元気が感じられない」ことです。「元気がない」というとあれですが、「おとなしくなった」印象があります。もしかしたなら、単にマスコミが大谷選手に集中するあまり、ダルビッシュ投手を「取り上げないだけ」なのかもしれませんが、第2戦の登板後のインタビューでも覇気が感じられない印象を受けました。僕の思い過ごしであればよいのですが…。

大谷選手はやはりさすがです。これだけ注目されながら普通に活躍しています。「普通に」というところがミソで、気負うわけでもなく平常心でしっかりと結果を出しているのですから「野球選手」として桁外れの存在なのは間違いないでしょう。大谷選手のフリーバッティングを見て、昨年のパ・リーグホームラン王の山川選手が「(自分が)野球をやめたくなるくらいすごい」と話していましたが、大谷選手が日本ハムにいた頃、現在ジャイアンツに移籍している中田翔選手も同じような発言をしていました。

先日、今回のWBCにはケガの関係で出場を辞退した鈴木誠也選手のインタビューを見ました。昨年がメジャー移籍1年目だったのですが、正直なところ期待されたほどの結果は残せませんでした。そのインタビューで最も印象に残っているのは「今年は(周りを)見返してやりたい」という言葉です。「見返す」という言葉を使うのですから、裏を返しますと「馬鹿にされていた」とか「見下されていた」ということになりますが、かなり期待されての入団だったのですから、昨季の成績では本人も周りも納得できるはずもありません。

メジャーで活躍した先駆者と言いますと、野茂英雄投手が真っ先に思い浮かびますが、その次にくるのはイチロー選手です。イチロー選手は移籍1年目から活躍し「新人賞」を獲得していますが、後年「周りからは浮いていた」と語っています。「人種差別」的な発言もあったようですが、そうしたことが事実かのようにのちにマリナーズから移籍しています。(現在は再びマリナーズに戻り要職についています)

このように日本から移籍する選手はメジャーでは人間関係で苦労することが多いようですが、そうした視点で見ても大谷選手は「別格」のように思います。「別格」とはすなわち「成功事例」ということですが、最初からチームに溶け込んでいたように感じました。そのことを最も映しているのが初ホームランを打ったあとの光景です。

メジャーでは初めてホームランを打った選手に、そのホームランがなかったかのように「チームメイト全員が無視するドッキリ」があるらしいのですが、大谷選手はホームランを打ちダッグアウトに戻ったときにチームメイトが全員無視する様子を見て、ひとりの選手にまるで子供がやるようにうしろから抱き着いたのですが、その抱き着いた瞬間にチームメイト全員が笑顔になり大谷選手を祝福している光景です。そのときの抱き着ぎぶりがなんとも屈託ない少年のようでとても素敵でした

おそらく年齢が若いことや外見がベビーフェイスであることなど、いろいろな要因が絡まり合ってのチームメイトとの仲良さぶりだと思いますが、そうしたところがイチロー選手との一番の違いのように思います。このように書きますと、イチロー選手の性格を非難しているような感じになってしまいますが、逆にイチロー選手がそのような振る舞いをしたならさらに関係性に違和感が生じたように思います。僕が言いたいのは、大谷選手の持って生まれた「人から好かれる資質」です。そうした人間性は持って生まれたもので簡単に真似のできることではありません。

同じことがラーズ・ヌートバー選手にも当てはまるように思います。ヌードバー選手はメジャーリーグで活躍している日系二世の選手ですが、本大会では日本代表に選ばれ1番打者として出場しています。ヌードバー選手は現在ではすっかり人気者になっていますが、それは本人の「日本に溶け込もう」とする姿勢と大谷選手同様、持って生まれた資質が日本人に好印象を与えているからです。「ペッパーミル(コショウひき)・パフォーマンス」はほかの選手や多くのファンに定着していますが、変に意図したわけではなく、自然に出たポーズだからこそ日本人に受け入れられたのだと思います。

昨日のチェコ戦では、いずれはメジャーに行くであろう「佐々木朗希」選手の対応も称賛されています。デッドボールを与えたあとの謝罪の仕方ですが、「いかにも日本人らしい」と思える振る舞いでしたが、もしかしたなら本場メジャーリーグでは謝罪などしないほうが普通なのかもしれません。ですが、スポーツマンシップとか謙虚といった日本人の良さを無理して捨て、メジャーに合わせる必要もないと思います。そういう意味でも佐々木選手はダルビッシュ投手、大谷選手に続く名選手になるように思えて感動してしまいました。

やっぱり、スポーツでは「シップ」が大切ですよね。「ゴシップ」は困りものですが…。

じゃ、また。




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