<継続>

pressココロ上




 先月の経済誌に食品スーパーの成城石井という企業の記事が掲載されていました。この成城石井という企業は僕にとって記憶に残っている企業です。そのきっかけは焼肉チェーンの牛角を展開しているレインズインターナショナル(以下レインズ)にあります。
 最近ではあまりマスコミに登場しませんが、一時期のレインズは頻繁にマスコミに取り上げられていました。焼肉チェーンの成功を基に他の外食企業の買収を通じて成長し、それこそ飛ぶ鳥の勢いの企業でした。その買収先として有名な企業にコンビニチェーンのampmがありますが、そのほかに食品スーパーの成城石井がありました。
 レインズがマスコミに取り上げられたのは創業者が、ベンチャーではありませんでしたが、若手起業家だったことと、不動産業からの転業という珍しさがあったからです。創業時のエピソードはマスコミ受けする内容が満載でした。また、創業者の西山氏がマスコミを利用するコツを心得ていたこともその理由のひとつでしょう。僕もこのコラムで幾度か書いたことがありますが、僕はどちらかというとマイナスのイメージで書いたように記憶しています。その理由は企業拡大の方式がフランチャイズシステムだったからでした。
 僕のコラムの常連の方ならご存知のように、僕はフランチャイズシステムで規模が大きくなる企業を認めていません。本当に、経営方式に自信があるなら、フランチャイズなどにしないで直営方式にするはずです。そのことについてはここではあまり深く書きませんが、興味のある方は僕のサイトの「考察コーナー」をご覧ください。
 話を戻しますと、僕が成城石井を注視するようになったのは、レインズに買収されたことがきっかけでした。小売業の経験のないレインズが果たして「小売業の経営に成功するのか」疑問に思えたからです。結論を言いますと、レインズに買収されたあと業績は悪化し、その再建請負人として大久保恒夫氏が社長に就任しました。
 大久保氏については、今年1月16日のこのコラムで紹介していますが、当時、大久保氏は小売業の改革請負人として有名な存在でした。その大久保氏はその独特な経営手法で成城石井を再建したのですが、現在はセブン&アイの幹部に就任しています。
 大久保氏の動向をマスコミで知り僕は疑問が生じました。短期間しか在籍していない企業をそれまでの赤字から黒字にしたことで「再建の成功」と言えるのか…。大久保氏が成城石井の社長を退任したのは資本の論理が経営の世界の頭上で働いたからだとは思いますが、それでもわずか数年の業績で成功の是非を判断するのは早計な感じがします。今「資本の論理」と書きましたが、結局レインズは2009年に成城石井をファンドに売却しています。
 先週の日経ビジネスにはりそな銀行の細谷英二会長のインタビュー記事が掲載されていました。細谷氏は、細谷氏にはなんの役にも立ちませんが、僕が好きな経営者のひとりです。その細谷氏が「継続」という言葉を発していました。りそな銀行は細谷氏が会長に就任してから改革に成功し、再建を果たしていますが、細谷氏は「改革に終わりはない」と語っていました。つまり、「再建は継続されてこそ意義がある」という意味です。また、「今の段階では、いつ昔の状況に戻っても不思議ではない」と不安を口にしていました。
 確かに、一時期だけ黒字になったとしてもすぐに赤字に転落しては、決して成功したとはいえません。成功という判断は黒字経営が継続されてこそ下せる結果です。その意味で言うならば、「再建に成功した」という表現を使うには再建請負人は最低でも6~7年はその立場にいる必要があります。
 昔から、再建請負人と称される財界人が幾人もいましたが、僕には疑問に感じることがたびたびありました。再建請負人として就任しながら僅か数年でその責任ある立場を去ることです。短期間の就任は単に道筋をつけただけで再建を果たしたとは思えないからです。大切なのは再建が継続されるかどうかです。僕が脱サラに関して、「独立をするのは誰でもできる」、重要なのは「営業を続けられるかどうかだ」と言うのと同じです。
 さらに言うなら、再建を受け入れる際に債務の棒引きを条件にする再建請負人にも疑問を感じます。普通に考えて、業績が悪化している企業は借金が経営の負担になっているのが常ですから、「借金をなくしてくれたら再建人になる」というのでは本末転倒で、仮に再建が軌道に乗ったとしてもその人の功績とは言えないように思います。
 くり返しになりますが、再建請負人に就任してから、仮に「赤字から脱却した」としても「それでさよなら」というのでは「再建に成功した」とは言えません。経営で本当に大変なのは、黒字を続けることです。誤解を恐れずに言うなら、短期間の黒字は誰もできることです。重要なのは黒字を「継続」することです。
 その意味で僕がいつも思い出すのはホテルの再建請負人として名高い窪山哲雄氏です。窪山氏に関してもこのコラムで紹介したことがありますが、窪山氏こそは「継続すること」を実践した再建請負人と言えるでしょう。
 窪山氏は既に再建請負人として名を馳せていたときに、北海道拓殖銀行からリゾートホテルの再建を依頼されます。そして、窪山氏が再建に向かって進んでいるときに依頼主の拓殖銀行が破綻し、リゾートホテルの再建も棚上げになりました。すると、窪山氏は自ら出資者を探すのですが、本来なら出資者を探すのは再建請負人の仕事の範疇ではありません。にも関わらず、そこまで挑戦する窪山氏こそ再建請負人の鑑と言えます。結局、時間切れでリゾートホテルの再建は中止となりました。
 しかし、窪山氏は再建をあきらめたわけではありませんでした。その4年後、窪山氏はようやっと出資者を見つけ出し再建に向かって歩み始めたのでした。
 窪山氏は今も経営のトップとして働いています。このように本当に再建を果たしたいなら、できるだけ長く、そして細谷氏が言うように「昔の悪い状態に戻る」可能性がゼロになるまで、少なくともゼロになる目処がつくまで継続するのが本当のあり方です。
 企業の再建に限らず、継続することはとても大切です。人の評価やものごとの評価が途中で変わることはままあります。評価はいつ逆転するかわかりません。一時期賞賛されながらなにかのきっかけで非難、批判の対象になった例をたくさん見てきました。そういえば、こんな格言がありました。
「棺を蓋いて事定まる」(かんをおおいてことさだまる)
 ところで…。
 中国の新幹線が脱線事故を起こし、そのときの車両を土中に埋めて批判された事件がありました。その事故を受けて、日本の新幹線関係者の発言がいくつかありました。
「日本では考えられない。あり得ない事故です」
 僕は、この発言を聞いてすぐに思い浮かんだ言葉があります。
 福島での震災が起きるまで、原子力発電関係者はいつも言っていたそうです。
「原発には安全装置が幾重にも働いているので、事故を起こすことはあり得ない」
 今では、誰でも知っていますよね。
「あり得ない」ことは「あり得ない」。
 じゃ、また。




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