<カリスマ愛>

pressココロ上




先週か先週か記憶が定かではありませんが、「吉田拓郎さんが引退を表明した」という報道を見ました。僕はこのコラムのほかに「心に残った歌」というエッセイも書いているのですが、3月の終盤に拓郎さんの「永遠の嘘をついてくれ」という楽曲を取り上げています。

そのときに書いたエッセイはこちらですが、その拓郎さんが引退を表明してしまいました。以前より書いていますが、僕はコアな拓郎さんのファンではありません。なにかのきっかけで聴いて魅力を感じた楽曲がたまたま拓郎さんの歌だった、というケースがほとんどです。

今回「拓郎さんが引退する」という報道に接して拓郎さんについてコラムを書こうと思ったのですが、自分はこれまでにコラム等でどれくらい拓郎さんについて書いているかを調べてみることにしました。その結果、これは自分でも驚いたのですが、コラムとエッセイを含めてなんと32回も書いていました。エッセイを書きだしたのはまだ数年ですが、コラムはかれこれ20年くらい書いています。それを考慮に入れても“ 32回 ”はすごい数字だと我ながら思いました。

繰り返しますが、僕はそれほど拓郎さんについて詳しいわけでも、特別に好きということでもありません。ですが、なにかしら感じるものはあるようです。そうでなければ、こんなに多く取り上げるはずがありません。

先のコラム内ではYouTubeにアップされているライブ版を紹介していますが、その後同じライブ版で、もう少し画質のきれいな映像を見つけました。以来、そのYouTubeをずっと見ているのですが、見るたびに視聴回数が増えているのがわかります。僕はその「視聴回数が増えていること」に感激しています。拓郎さんのことを好きな人って多いんだなぁって…。

引退について報じている記事にも書いてありましたが、拓郎さんは50才くらいの頃にジャニーズのKinKi Kidsさんと共演しています。そのときに思ったことは、拓郎さんを番組に起用した制作陣の拓郎さんに対するリスペクト感でした。フォーク界のカリスマと言われている人ですので、リスペクトという表現がふさわしいと思いますが、それ以上のものがあるように見えました。それは、

「拓郎、愛」です。

制作陣の方々の拓郎さんに対する愛が、至る所で感じられました。確かに拓郎さんはわがままで横柄な振る舞いと感じる部分もありますが、それを含んでの「拓郎、愛」のように思えて仕方ありません。そうした思いは共演したKinKi Kidsのお二人も感じていたように思います。

「愛」という言葉は、今の時代はありふれていて安っぽい感じがしますが、「愛」をシンプルに表現するなら、それは「好きで好きでたまらない」感情です。制作陣の方々から、単にリスペクトしているのではなく、拓郎さんのことが「好きで好きでたまらない」気持ちがビンビンに伝わってくる番組でした。

同じようなことを感じているのが、小田和正さんがホストを務めているTBS系の音楽特番「クリスマスの約束」です。この番組は2001年から毎年12月25日(クリスマス)前後にTBS系列で放映されているそうですが、僕がよく見ていたのは始まった当初から2010年前半くらいまででしょうか。それ以降は僕が寝る時間が早くなったこともあり見なくなってしまいましたが、僕が見なくなっても番組は続いています。この番組も小田さんに対するリスペクト感とともに「愛」がなければ続けられない番組です。

音楽関係であと一人をあげるなら“さだまさし”さんです。実は、僕はきちんと見たことはないのですが、さださんはNHKで2006年から「今夜も生でさだまさし」というラジオのディスクジョッキースタイルで送る生放送トーク番組をやっています。ディスクジョッキースタイルですから、ハガキ投稿を読んだりしている番組ですが、その光景からは制作陣の「さださんへのリスペクト、好き好き大好き感」が見ている人に流れ込んできます。

音楽関係以外の人にも同じように感じることがありました。かつて視聴率100%という異名をとっていた“欽ちゃん”こと「萩本欽一さん」です。視聴率100%と呼ばれていた理由は主なテレビ局のゴールデンタイムに3つのレギュラー番組を持っており、それらの視聴率を合計すると100%になったことからつけられた呼び名です。100%を単純に3で割ると約33.3%ですが、どれほど人気があったかがわかるというものです。

その欽ちゃんが第一線を退いたあと、あるテレビ局で欽ちゃんの特番を作る企画がありました。そのときの制作風景を映している場面で、制作陣の方々の欽ちゃんに対する「さださんへのリスペクト、好き好き大好き感」が漂ってきていました。すでに第一線を退いているのですから、視聴率的には稼げないことがわかっていながら、それでも「欽ちゃんと一緒に番組を作りたい」という思いがヒシヒシと伝わってきたのです。その光景は、まさに「欽ちゃん、愛」でした。

現在、テレビ業界で最も影響力を持っているのはダウンタウンのお二人でしょうか。芸歴的にも実力的にも頭一つ二つ抜き出ている感があります。しかし、まだその二人が出演している番組からは、拓郎さんや小田さん、さださん、萩本さんなどに制作陣から発せられていた「リスペクト、好き好き大好き感」は伝わってきません。視聴率がとれるから、という理由で制作しているレベルです。

視聴率は損得で計れますが、「愛」は損得では計れません。損得で計れるものはときが過ぎるとともに消滅していきますが、損得で計れない「愛」は永遠に続きます。ですので、人類が生き残っていくために必要なものは「愛」です。

現在、ウクライナはロシアの侵攻に対して必死に抵抗していますが、本来なら圧倒的に軍事力で劣っているウクライナは早々に降参していたはずです。それほど不利な状況でありながらすでに2ヵ月以上も抵抗を続けられているのは、「祖国、愛」が強いからにほかなりません。

僕は今回のロシアの侵攻に際して、初めてウクライナという国に関心を持ちました。少しばかりですが、ウクライナの歴史を勉強していきますと、ソ連やドイツなど近隣諸国から支配されてきた過去があるのを知りました。ウクライナが真の意味で独立を果たせたのは、なんとソ連が崩壊したほんの30年前です。それまでは自分たちの言葉さえ奪われ、生産物は搾取されていました。そうした歴史の中で、ソ連の崩壊でようやっと独立を手に入れたのでした。それをまた今回奪われようとしています。

圧倒的に劣っている軍事力の状況で抵抗を続けられているのは、ウクライナの方々の「祖国、愛」があるからに違いありません。国際社会はその愛に報いる責任があります。そうでなければ、独裁者が統治する社会になってしまいます。そのような世の中で人々が幸せに暮らせるはずがありません。民主国家の結束を願わずにはいられません。

じゃ、また。




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