<相手の立場に立って>

pressココロ上




先週はコンビニ業界において本当に画期的なニュースがありました。あのセブンイレブンが「24時間営業を見直す」検討を始めたと報じられたのです。結果はどうなるかわかりませんが、それほどセブンが追い込まれている証拠かもしれません。また、セブンの天皇とまで言われていた鈴木敏弘氏が第一線から退いたことも無関係ではないでしょう。働き方改革が叫ばれていることも影響しているかもしれません。時代の流れがさせたといえそうです。

先週に引き続きもう少しコンビニの話を続けさせていただきます。これまでに幾度か書いていますが、最初に「24時間営業の見直し」を検討したのは三菱商事からやってきた新浪 剛史氏でした。ローソン社長に就任早々、加盟店主の要望などに鑑みて検討を約束していました。当時、そのような対応をする新浪氏を冷ややかな目で見ていたのはセブンの鈴木氏でした。おそらく心の中で「素人がなにも知らずにわかったようなことを言ってる」と思っていたでしょう。結局、24時間営業は見直されることなく続けられることになっています。

そもそもコンビニのフランチャイズシステムは圧倒的に本部が得をする制度になっています。24時間営業が見直されない一番の理由はここにあります。深夜の時間帯は売上げが少ないので人件費との兼ね合いを考えますと絶対に赤字になります。普通のお店の場合は、赤字ですから当然その時間帯は閉めることを考えます。

しかし、コンビニの会計システムは「売上げが1つでもあれば、本部に利益が出る」ような制度になっています。まずは、この会計システムを改善することが必須です。ところが、まだ加盟店側の不公平が表面化する前、本部は「深夜の売上げがなくても、お店を開けていることが昼間の売上げにつながる」と主張していました。つまり、昼間の売上げを上げるために「深夜の営業は必要」という論理です。

しかし、この論理には大事な問題点が見落とされています。それはトータルの利益です。仮に、深夜を営業することで昼間の売上げが上がったとしても、その上がった売上げの利益で深夜の赤字分を取り戻せていなければいけません。さらに、言うならば赤字を取り戻す以上のメリットがなければ深夜に開けている意味はないのです。コンビニの本部はその論争を避けているように見えます。

ここにきて、深夜営業の必要性を訴えるために本部がしきりに主張しているのは「社会のインフラ」という役割です。しかし、民間企業が社会インフラを担うというのは論点がずれています。しかも、本部が担うではなく現場で担うのは加盟店です。本部はなにも負担することはありません。これではあまりに不公平です。

このようにコンビのフランチャイズシステムは問題が多いのですが、僕が気になるのはその本部に勤めている方々です。コンビニの本部に勤めている方々はそうした問題点を日々実感しているはずです。どの本部にも店舗を巡回するスーパーバイザーのような仕事をしている人がいますが、そうした人たちは全員が全員、苦しい思いをして業務をこなしている加盟店主と接しています。大変さを間近で見ているその人たちはコンビニのフランチャイズシステムの問題点についてなにも感じないのでしょうか。僕は、それが不思議でなりません。

会社に勤めるということは会社に利益をもたらすために必死に努力する義務を負うことです。ですが、自分が従事している業務が社会的視点から考えて正しいかどうかを考える必要があります。会社人の前に社会人でなければいけません。極論を言いますと、自分が勤める会社が泥棒をする会社だとわかったとき、それでもあなたはその会社で働きますかという発想です。

今はブラック企業という言葉がマスコミに登場することが多いですが、マスコミで取り上げられる場合の「ブラック」とは「働く立場から」の視点です。しかし、「社会から」見た場合の「ブラック」があっても当然です。

他人のものを盗むとか誰かを傷つけるというのはわかりやすい犯罪です。しかし、気がつかないうちに犯罪に手を染めている場合もあります。「犯罪」とまでいかなくても、グレーの部分というのはあります。最近の事件で言いますと、スルガ銀行の不動産融資はその典型です。スルガ銀行の職員はノルマを達成するために預金者の通帳の残高をごまかすことまで行っていました。

普通の感覚では誰が考えても不正ですが、仕事に飲み込まれてしまいますと善悪の感覚が鈍るようです。悪徳宗教などでよくやる手口ですが、精神的に追い込んで考える時間を与えないことで精神を取り込む手法です。人間は考える余裕がなくなると正常な判断ができなくなります。

スルガ銀行の人たちも同じような状況だったのではないでしょうか。記事を読みますとパワハラを受けていた職員もいたようですが、パワハラも十分悪事の部類に入ります。今月から就活がはじまりましたが、圧迫面接も僕からしますとパワハラです。エリートと言われる一流企業に多いのですが、精神的に強いかどうかを試す面接をする企業など勤める価値はありません。

就活生は圧迫面接をするような企業は選ばないほうが賢明です。社会にでる学生の立場を考えて接してくれる担当者がいる企業を選ぶなら後悔することもないでしょう。そういえば、先週はIT界の重鎮と言われる夏野剛さんのツイッターが話題になっていました。テレビなどではほとんど取り上げていませんでしたが、インパクトのある内容でした。

夏野さんはドワンゴの代表取締役社長に就任していますが、ハイパーネットの副社長時代から考えますと感慨深いものがあります。ご存知の方も多いでしょうが、ITのベンチャー企業で挫折を経験したあとに、ドコモに転じてi-modeを大成功に導いた立役者です。夏野氏はi-modeの大成功で世に出た方ですが、若い向上心の高いビジネスマンには参考になる経歴の持ち主です。夏野さんのビジネス人生についてのまとめを作成しましたのでよろしかったらお読みください。

それはともかく、ツイッターは古巣である巨大企業ドコモを批判する内容でした。夏野氏のお母様はドコモのスマホを利用しているようなのですが、その請求書を見て憤慨していました。憤慨する理由は、全く使わないであろうオプションが多数契約されていたからです。一例をあげますと、「スゴ得コンテンツ利用料」「クラウド容量オプション利用料」「dTV利用料」「dヒッツ利用料」「dキッズ利用料」「dマガジン利用料」…まだまだ続くのですが、常識的に考えて使うはずがないオプションがずらりと並んでいます。いったいドコモの人たちはどんな気持ちでこれらのオプションをつけていたのでしょう。

民間企業は利益を出すのが使命です。しかし、だからといって手段を選ばなくてもよいというわけではありません。ときに競争を批判する論調がありますが、競争がいけないのではなく競争のルールを守らないことが問題なのです。

大分前のことですが、オリンピックのマラソン競技で屋外からスタジアムに入って来て、ゴール寸前で倒れた選手を抱き起して一緒にゴールした場面を見たことがあります。競争は必要です。僕は「競争がなければ進歩はない」とさえ思っています。しかし、競争する前提にあるのはルールを守ることはもちろんですが、それ以上に競争相手を思いやる気持ちです。平昌オリンピックでスピードスケート小平さんが賞賛されたのは、自分が滑り終えたあとにライバル選手が最高のパフォーマンスを出せるような環境を作ることを観衆に求めたからです。

相手を慮る気持ちなくして社会に受け入れられる仕事はありません。ビジネスにおける相手とは「お客様」であり「取引先」です。コンビニ本部であるなら「お客様」と「加盟店」です。本部だけが儲かるシステムではなく、加盟店も儲かるシステムを作ってはじめてコンビニは社会のインフラとなりえます。

じゃ、また。




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