<仕事と報酬>

pressココロ上




先週の大きな事件といいますと、やはり大谷翔平選手の専属通訳・水原一平さんが違法賭博疑惑で球団を解雇されたことです。いろいろな情報が錯綜していますので、なにが真実なのかわかりませんが、これまで順風満帆に野球選手を送ってきた大谷選手に逆風が吹くことは間違いありません。

文春オンラインでは、アメリカでは「オータニを逮捕しろ」「イッペイはスケープゴートだ」という声をあげる人までいる、と報じています。このようなスキャンダルが起きる前から、大谷選手に批判的な声を上げる人はいましたので、ここぞとばかりに攻撃してくる人があらわれるのは容易に想像がつきます。

こうした声は極端だとしても、今現在最も問題になりそうな点は「大谷選手が自らの意思で送金したか、どうか」です。水原さんは当初「大谷選手が借金の肩代わりに同意して送金した」と話していたそうですが、翌日にはこの発言を撤回しています。こうした流れを見ていますと、余計に心配になってしまいます。

今後、どのような展開になるのかわかりませんが、結婚発表が済んでいて本当によかったと思います。なにしろ一番の話相手だった水原さんがいなくなったわけですから、デコピンだけではあまりに心もとないものがあります。デコピンは日本語が話せませんが、奥さんなら心置きなく自分の正直な思いを話すことができます。自分の気持ちを口にできるのとできないのとではストレスの度合いが違います。奥さんも元スポーツ選手だったそうですし、そもそも大谷選手が選んだ相手ですので人格的にも十分話し相手になるはずです。

極端な批判をする人たちは「大谷選手が賭博をしていた」ことを前提にしていますが、これまでの大谷選手の公私の行動から考えるならそんなことがないことは多くの人が認めるところでしょう。日本からメジャー行きを決めたときも、数年あとにずらしていたならもっと高い契約金を得ることができましたが、お金のことは二の次でメジャー行きを決断していました。

そんなことよりも、スポーツ選手で史上最高額の契約金を獲得している大谷選手は賭博をやる必要がありません。大谷選手が「ギャンブル依存症」にかかっているのなら別ですが、生活のほとんどを野球に費やしている大谷選手にギャンブルをやる余裕がないことは誰が考えても明白です。それでも唯一心配なことは、肩代わりをしたのが「賭博の借金と知っていた」場合です。水原さんを助ける意図で肩代わりをしたのだとしても罪に問われるそうですから、それだけが心配です。

ですが、どのような困難な状況になろうとも賢明な大谷選手ですので、誰もが納得する正しい対応をするのではないでしょうか。よい結末になることを願ってやみません。それでは、大谷選手のお話はここまでにして、今週は大谷選手関連で「セレブ」な業界についてコラムを書きたいと思います。

僕は57歳のときに不整脈を発症したのをきっかけに定期的に病院通いをするようになりました。それまで病院とはまったくの無縁でしたので病院通いが普通になってから、病院とか診察についていろいろと思うところがあります。

最も違和感を持つのは診療代です。僕は内科・呼吸器内科、耳鼻咽喉科、歯科と3つの病院に通院しているのですが、正直なところ、3割負担とはいえ診療代を払うときは毎回納得できない気分になります。

例えば、内科・呼吸器内科では1分の診察で僕が支払う診療代は1,600円ちょっとです。僕は3割負担ですので実際は約5,000円支払われていることになります。僕が納得できない気分になるのは、この「わずか1分で5千円」という金額で、どうしてもモヤモヤしたものを感じてしまいます。

スーパーのパートさんの時給が1,000円~1,200円のこのご時世に「1分で5千円」です。この「5千円」の中には、看護師さんの人件費や賃貸料、診療機器のリース代金、その他もろもろの経費が入っていますので、5千円すべてが医師の取り分になるわけではないことはわかっています。それでもやはり「1分で5千円」は医師の適正な労働報酬について考えさせられます。

先日、たまたま「患者が知らない開業医の本音」という本を書いた医師の記事を読みました。この本には医師の赤裸々な実態が書いてあるようなのですが、お医者さんの集まりに行きますとそこの駐車場は高級外車の展示場と見まがうほどの光景だそうです。医師に限らず高収入の人たちは「半分は税金に持っていかれる」と嘆きますが、税金で持っていかれるくらいなら必要経費になる車を購入したくなるのもむべなるかなとは思います。

勤務医の報酬は一千万円~一千二百万なのに対して開業医はその3倍とのことですが、「1分で5千円」を体験している僕からしますと、どうしてもそれらの報酬の適正さについて考えてしまいます。勤務医については以前より過酷な勤務状態が問題になっていました。今の大手病院は若手医師の過酷な勤務状況なしでは成り立たなくなっています。病院のしわ寄せを若手医師に押しつけていることで運営されている病院経営はやはり問題です。

以前読んだ記事では、若手医師は大手病院での勤務の薄給を補うために小さな病院での深夜勤務などをこなしている実態が書かれていました。そのような話を聞きますと僕が体験している「1分で5千円」も仕方ないように思えますが、深夜勤務の実態が正確に報じられているかは疑問です。

僕の父は70歳前くらいに救急病院の夜間受付業務で働いていたことがあります。その父の話では、夜間にやってくる患者さんを実際に診察するのは医師ではなく、ほとんどが婦長さんだったそうです。実際問題として診察をする能力からしますと、若手医師よりも経験豊富な婦長さんのほうが的確な対応をしていたと話していました。

ラーメン体験記に書いていますが、僕もラーメン店を開業したばかりの頃、深夜の1時過ぎに病院に行ったことがあります。タクシー乗務員からラーメン店に変わりましたので足がついていかなかったからです。座っている仕事から立ち仕事に変わったために、長靴が脱げないほどのむくみを発症し深夜の病院に駆け込んだのでした。

そのときは夜勤の医師も診察してくれましたが、実際に治療というか対応をしたのは経験豊富そうな婦長さんでした。医師の宿直バイトの平均は、1回約30,000円から約50,000円で、多いところでは約100,000円以上だそうですが、医師の夜勤バイトの実態に相応しているとは思えません。

ご記憶のある方もいるでしょうが、数年前夜のお祭りに行った子供が綿あめを食べながら歩いていたときに、転んで綿あめの割りばしが口の中に刺さった事故がありました。当然ご両親はすぐに病院に行ったのですが、担当した夜勤の医師は簡単な処置をしただけで帰宅させました。ところが、その夜遅くにその子供に異変が起き亡くなったのですが、その原因は、割りばしの一部がのどの奥に刺さったまま残っていたことでした。医師が適切な治療を怠ったことになりますが、医師という仕事の難しさ、重さを考えさせられる事件でした。

医師という仕事は「人の命を預かる」高度な技能が求められます。仮に些細なケガのように思えても、なにか問題が起きたときには責任を負うことになります。「1分で5千」にはその「責任を負う」分が含まれています。時間の長さだけで診療代を考えるのは適切ではありません。

仕事には利益を出した分に対応する報酬と、負うべき責任の重さに比例した報酬があるように思います。近年は「働き方改革」の名のもとにいろいろな業界で労働環境が改善されつつあります。物流業界の2024年問題も指摘されていますが、医師の労働環境改善も待ったなしの状況です。

先月のことですが、韓国で「研修医がストをした」ニュースがありました。政府が医学部増員を計画したことは発端のようですが、詳細がわかりませんのでどちらに問題があるのかはわかりません。ですが、患者が損害を被ったことは間違いありません。日本でも医師の「働き方改革」が実施されたとき、患者に不利益が起きることもあり得ます。

昔から「医は仁術なり」と言われていますが、現実では「医は算術なり」となっている場面を目にすることもあります。僕は、医療はその責任の重さゆえに「報酬が高くてもよし」と思っていますが、勤務医と開業医の不公平感はなくすべきだと思っています。開業医と勤務医の格差をならすことが「働き方改革」の最初の一歩だと思っていますが、開業医の方々がその第一歩を歩み出せるかが難問です。

そういえば、最近は赤いひげをはやしている医師を見たことがありません。

じゃ、また。




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