とうとうオリンピックがはじまりました。賛否両論がある中での開催となりましたが、賛成派の方々は「はじまってしまうと、感動して批判非難する声はかき消される」と話していました。そうした声に反対派の方々は、「開催しても反対の声は上げていきたい」と訴えていましたが、そうした状況の中「感動」はどこへ行っていいのやら迷っているように感じます。あの松岡修造さんでさえ、感動の度合いが今一つ盛り上がっていないように見えるのは気のせいでしょうか。
さて、開催の賛否は横に置いておくとして、これまでの結果で一番驚いたのは瀬戸大也選手の予選敗退です。おそらく僕だけではないと思いますが、まさかの予選敗退でした。瀬戸選手が得意とする「個人メドレー400m」で期待が最も高かった競技でした。金メダルも期待されていましたので、予選敗退は本人も予想外だったはずです。
本人もインタビューで「信じられない」とショックを受けているようでしたが、メドレーの3種目までは余裕のトップの位置にいただけに狐につままれた気分だったのではないでしょうか。解説している方も最後のメドレー種目自由形に入る前までは「決勝に備えて周りを見ながら…」という言い回しさえ使っていました。決勝が翌日の午前と間隔があまり開いていないので、「力を温存しながら」という意味合いでしたが、最後の種目である自由形で多くの選手に抜かれてしまい、決勝進出を逃してしまいました。
スポーツの世界に限らず勝負の世界では、「次の戦いのことに気を取られて、目の前の戦いがおろそかになり負ける」ケースはしばしば聞く話です。簡単に言ってしまいますと、油断です。目の前の戦いに油断していたことで起きる負けです。リーグ戦のような1度くらいミスをしても大勢に大きく影響を与えないシステムですと問題ありませんが、トーナメント方式の場合はたった1度の油断が命取りとなってしまいます。瀬戸選手はまさにその罠に陥ってしまいました。
もちろん当人に一番の責任がありますが、コーチの責任もあるように思っています。そうした事態も予想しながらアドバイスをするのがコーチの役割のはずです。普通に実力を発揮していたなら金メダルの可能性もあっただけに残念でなりません。
しかし、中には昨年の不祥事に原因を求める人もいそうです。昨年不倫が週刊誌で報じられ、世の中を騒がせました。五輪選手団の主将という大役も任命されていましたが、それも辞退することになりました。ですが、この週刊誌問題は時間が経過することで許された感がありましたが、「神さまは忘れていなかった」ようです。神さま云々の真偽は定かではありませんが、この結果は「不倫の代償」だったのかもしれません。
日ごろの行いとは関係なく、どんなに努力をしても報われないことがあることを教えてくれたのが体操の内村航平選手です。鉄棒一本に絞って臨んだ五輪でしたが、まさかの落下でした。あれほどの名手であっても本番で落下することがあるのが驚きでした。ですが、競技者として「さすが!本物」と思わせたのは競技後のインタビューでした。
いい意味で悪びれるような雰囲気もなく、ただ「代表を争った米倉選手に土下座したい」と話していました。負けたあとでも堂々とした振る舞いをできるのはスポーツ選手として本物である証拠です。それまでの競技人生に納得し満足しているからこそできる対応です。
内村選手は「自分はもう主役ではない」と語っていましたが、体操という競技は不思議とエースと呼ばれる選手が順繰りに出てくる伝統があります。キングと呼ばれている内村選手ですが、内村選手の前は冨田洋之さんというエースがいました。そして、内村選手のあとは橋本大輝選手の名前がエースとして挙がっています。次のエースがきちんと育っているところが体操界のすごいところです。
五輪に出場する選手たちに共通しているのは、きちんとした指導者の元で練習を積んでいることです。どんなに才能に恵まれた選手でも優れた指導者に出会わなければトップにはなれないことが身体にしみこんでいるようです。
オリンピックではありませんが、総合格闘技というスポーツがあります。その世界で有名な人のひとりに朝倉未来さんという選手がいます。朝倉さんはユーチューバーとしても有名ですのでご存じの方も多いでしょう。その朝倉選手が先月の「RIZIN.28」という大会で負けてしまいました。
朝倉選手は若者に絶大な人気があるのですが、その理由は経歴にあります。いわゆる不良、ヤンキーで「地元で負け知らず」の存在だったのですが、少年院の経験もあります。僕の世代ですと、こうした経歴から思い出すのはやはり「あしたのジョー」です。こうした経歴の若者はいつの時代も若者の心を惹きつけます。「あしたのジョー」は漫画ですが、現実の世界で朝倉選手の一世代前と言いますと「K 1」の魔裟斗さんが思い当たります。
魔裟斗さんは「K 1」で世界チャンピオンになったのですが、その立身出世物語はやはり当時の若者の心を掴みました。地元で喧嘩に明け暮れていたのは共通ですが、魔裟斗さんはきちんとしたトレーナーに教わることで実力をつけていきました。そこが朝倉選手との違いです。
なぜ、突然こうした話をするかと言いますと、朝倉選手が先の試合で負けたあとに魔裟斗さんと対談しているYouTubeを見たからです。そこからいろいろと検索していきますと、二人がなんどか対談していることを知りました。そこから感じるのは、朝倉選手が魔裟斗さんを尊敬していることです。
朝倉選手が世に出てきたきっかけは、セミプロが戦う「THE OUTSIDER」という格闘技の大会で優勝したことです。「THE OUTSIDER」は元プロレスラーの前田日明が主催している大会ですので、朝倉選手は前田さんとも親しいのですが、それぞれの対談を見ていますと、朝倉選手が前田さんよりも魔裟斗さんを尊敬しているのが伝わってきます。
朝倉選手が魔裟斗さんを尊敬している理由は、一口で言うと魔裟斗さんに「相手を思いやる優しさ」があるからです。魔裟斗さんは人生の先輩でもあり、格闘技の先輩でもあるにもかかわらず、朝倉選手に対して先輩面をすることが全くありません。朝倉選手を一人の大人として認めながら接していることがわかります。そこが信頼性につながっているのでしょう。
話は逸れますが、朝倉選手と魔裟斗さんの対談を見ていますと、魔裟斗さんがまたブレークしそうな感じがしてきます。魔裟斗さんは上から目線ではなく、朝倉選手のメンツも立てながら、そのうえ朝倉選手のこれからの課題を上手に指摘しています。そうした気配りが伝わることで朝倉選手は魔裟斗さんを信頼しているのでしょう。
YouTubeの世界では「コラボ」という、2つのチャンネルが同時に撮影することがあります。朝倉選手と魔裟斗さんの対談も朝倉さんのチャンネルと魔裟斗さんのチャンネルの両方で撮影し放映しているのですが、放映されている内容はそれぞれ違っています。その違いは編集が違うからですが、この2つを見比べますと編集の力がどれほど重要かがわかります。
朝倉選手のYouTubeは絶大な人気がありますが、これは朝倉選手の個人的魅力も大きいですが、同じくらい周りのスタッフの編成能力に負うところも大きいと思っています。テレビ番組と同じで魅力のある番組を作る才能が必要ということになります。最近見たYouTubeで作成するスタッフに疑問を感じたのは清原和博さんのYouTubeでした。なんと言いますか、「品がない」のです。これでは清原さんの魅力を貶めるだけになりそうで心配です。
YouTubeは一見すると、個人が好きなように作っているように思えますが、実際はきちんとした方針を持ち、しっかりとした編集力の元でガッチリと作っている番組が成功しています。そのためには、個人で行えるのには限界があり、サポートする人たちの力が大きいように感じます。そうなりますと、いわゆるスタッフの人材確保が重要ということになり、そのためには人材の資質を見抜く能力が必要ということになります。これって、普通の企業の経営者と同じなんです。
じゃ、また。