<インコース>

pressココロ上




 堀江被告が保釈されました。最後まで罪を認めなかった精神力には感心させられます。私は住専会社社長庭山慶一郎氏を思い出しました。世間的法律的には犯罪と思われることでも本人には罪を犯してないという確信があるのでしょう。善悪は別にして信念を持っていることはわかります。
 耐震偽装問題で逮捕された篠塚支店長。
「普通に生きてきた会社員が逮捕されるという恐怖感は半端ではない」と話していました。篠塚氏の話が真実なら、ただ必死に仕事をしていたことが罪に問われることになってしまいます。
 大手銀行が一部業務停止処分を受けました。主力銀行という優位な地位を利用して金融商品を強制的に売りつけていたことによります。ここでも現場の銀行員はただ必死に仕事をしていただけなのに結果的に罪に加担していたことになります。
 チッソの元社員。
 チッソで研究員の部署にいた元社員は会社の見てみぬふりに我慢できず、後年患者を助けるために証言までしています。
 高校時代のお話。
 僕の通っていた高校は3年生になると進学のために授業が文系、理系に分かれていました。例えば文系を目指す者は理系の授業を受けなくてもよいのです。このことは必然的に一日の授業時間が減ることを意味します。進学校であればその空いた時間を勉強にあてるのでしょうが、のんびりとした公立校ではピリピリとした雰囲気もありませんでした。
 真面目に受験に臨もうと考えている生徒を除くと皆、時間を持て余してしまいます。するとどこからかともなく「空いた時間に野球をやろう」という声が出てきました。今、思い出すと不思議なのですが、当時の写真を見ますと設備の整ったきちんとした球場で試合をしていました。
 草野球とは言え、野球部の者もいてそれなりのレベルの試合をしていました。そんな中、僕はピッチャーを任せられていました。背の低い僕は中学時代はバスケット、高校時代はバレーボールと身長が伸びるスポーツをしていましたが、小学校時代に少年野球大会で優勝した経験もあります。野球についてもいくらかの自信はありました。中学高校と野球とは違うスポーツをしていましたが、どちらも友好会的なクラブではなく厳しいクラブでしたので練習もきつく自然と基礎体力もつき球速も一目置かれるほどだったのです。
 遊びの野球とは言えども真剣に戦っていましたので緊張感はありました。
 ある日の試合で僕はピンチを迎えていました。走者2,3塁次打者にヒットを打たれると逆転される場面です。僕はカーブも投げられるのですが、ただそのカーブは曲がらないのです。球威のないストレートといった感じになってしまいます。しかし球速と右打者のインコースへのコントロールには自信がありました。しかしその日はどうも調子が悪くインコースへピシャリと投げることができないでいました。その場面では相手バッターの打ち損じでなんとか抑えることができたのですが、ベンチに戻るとライトを守っていたフルカワ君が声をかけてきました。
「今日のマルちゃん、腕が縮こまってるよ」
 僕は「あっ」と思いました。言われてみると自分でも思い当たる節がありました。フルカワ君は野球部に入っていましたのでとてもうまいのです。それでもみんなに楽しんでもらおうと自らライトという地味なポジションを守っていました。僕が驚いたのはライトの守備位置から僕の不調の原因をズバリと言い当てたことです。やはり伊達に野球部ではありません。
 ピッチャーとしては強打者を抑えると気持ちのよいものです。野球部に入っていた人は皆強打者ですが、野球部に入っていなくても強打者と言われる人はいます。これだけセンスがあるのに野球部に入らなかったのが不思議なくらい、と思う人です。
 その一人にホリ君がいました。身体の線は細いのですが、身長は高くシャープな振りをします。打順は3番です。
 ある日の打席。
 それまではホリ君の打ち損じなどもありキッチリと抑えていました。その打席ではランナーが2塁におり得点は0対0でした。余裕のある場面ですと球速を変えたりなどして投球できますがそのときはなんとしても抑えようと気合を入れていました。全力投球です。
 1球目。アウトコースに狙ったボールが真ん中インコース寄り高めに行きファールチップ。僕の球速が勝っているように感じました。
 2球目。狙ってインコースに投げると見送ってストライク。
 ツーナッシングです。僕はストレートに自信を持ちました。次も遊び球を入れることなく全力でインコースへ投げ込む気持ちでした。キャッチャーも同じ考えのようでミットを2回たたきインコースに構えました。僕は体中の筋肉を総動員して渾身のストレートを投げました。ボールは狙ったとおりインコース低めに球筋を残しています。
「よし!」
 そう思った瞬間、ホリ君のバットはボールを捉えていました。きれいにすくわれたたのです。肘をしぼり腰で回転してフルスイングされました。弾き返されたボールはフェンスを越えて飛んでいきました。打たれた瞬間の映像は今でも思い出せます。
 仕事に全力で取り組むことは褒められるべきことです。市場競争の中では攻め続けることが生き残るために必要です。時にはデッドボールすれすれのインコースを狙うことも大切な戦略かもしれません。しかし、もしインコースを攻めること自体が誤りであったなら…。企業は勝ち残るために従業員にインコース攻めを求めます。業務命令であろうともインコース攻めの是非は個人が考えなければなりません。人によってはインコースで勝負するよりアウトコースで勝負することが似合っている人もいるのではないでしょうか…。
 じゃ、また。




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