<レフェリーストップ>

pressココロ上




 先日、テレビで両足の膝から下を失った青年がトライアスロンに挑戦している模様を放映していました。私は番組を途中から見ましたので詳しくはわかりませんでしたが、なにかの事故で両足を失ったようでした。義足を装着し必死に走る姿に見入ってしまいました。健常者として普通に生きてきた人が人生の途中で障害者になってしまったことの苦しさ、辛さは他人にはわかるはずもありません。健常者として生きてきた経験があるだけにその無念さは想像をはるかに超えていると思います。
 義足を装着しての初めての挑戦だったようで義足がまだなじんでなかったのでしょうか、痛みが激しそうでした。番組自体はその青年よりも義足を作った方に焦点にあてているようでした。トライアスロンにはその創作者の方も伴走しており義足が合うかどうかを心配していました。創作者としては「義足を使う人が満足することに意義がある」考えているようでした。利用者が満足できないモノを作ってもなんの価値もないことは明らかです。
 マスコミなどでは小泉首相の9月退任が近づき小泉政治を総括する記事が報じられています。小泉首相が推し進めてきた市場競争が批判されることが多いのですが、私はその記事に懐疑的です。確かに市場競争の負の面はありますが、市場競争こそが「利用者が満足できるモノ」を作れると思っているからです。規制緩和が行われ利用者がメリットを享受した例はたくさんあります。例えば電話料金、宅配料金、保険料…。こうしたことは全て規制緩和によってもたらされた結果です。小泉首相退任後もこの流れが変わらないことを願っています。
 競争が行われると必ず勝ち負けが生じます。会社員の場合、出世競争に負けたとしても給料が減ることはあってもなくなることはありません。しかし事業主の場合は負けると収入が途絶えることを意味します。収入がなくなることは大変なことですが、健康である限り仕事さえ選ばなければまた働いて収入を得て生活することもできます。そのためには負け方を間違えないことが大切です。
 書店に並んでいるサクセスストーリー本には
「一度莫大な借金を抱えたが、苦労して復活した」
などと書かれているものがあります。しかしそうした事例はごくわずかに過ぎません。ほとんどの人が復活できず苦しんでいます。自殺者がここ数年3万人を超えたままになっていますが、苦しむだけでなく命を捨てる人もいます。莫大な借金を抱えたなら復活できる人は本の稀な例でしかありません。
 私がWワークとして働いている業界ではそうした人が多いのですが、そうした人たちと話していて感じるのが撤退のタイミングの難しさです。つい「いつか売上げが戻る」と夢見てしまうのです。株の世界で「いつかきっと上がる」と思い込むのと似ています。
 ボクシングの亀田選手の試合を見ていましたら、亀田選手のお父さんの動きが気になりました。その試合は亀田選手が相手選手をロープ際に追い詰めラッシュしているところでレフェリーが間に入りTKOを宣言して決着がつきました。レフェリーがTKOを宣言した瞬間、お父さんがリングに駆け上りレフェリーに食って掛かっていたのです。息子が勝利したのになぜレフェリーに食って掛かったのだろう…。
 あとで知ったのですが、お父さんは「TKOを宣言するのが遅い」とレフェリーに抗議したのでした。ボクシングは一歩間違うと命を落とすこともあるスポーツです。お父さんはそれを心配したのです。戦っている選手はアドレナリン全開で相手選手を倒すことしか考えていません。正常な精神状態ではないはずです。そうした精神状態の選手が戦う試合をコントロールするのがレフェリーの役目です。選手の将来を失わせるまでダメージを受ける前に試合を止める義務があります。レフェリーには冷静な判断力が求められます。
 市場競争で戦っている事業主もボクシング選手と同様の精神状態であることが多いものです。冷静な判断力を欠いているケースもあります。そのとき必要なのは冷静な判断力を持ったレフェリーの存在です。
 脱サラしている方、しようと考えている方、あなたにはレフェリーがいますか?
 冒頭にお話しました義足の青年は、最後は伴走していた創作者の方がレースの途中で断念させました。青年自身では棄権することができなかったからです。青年にとっては意地もあるでしょう。どんなに痛くともやめるという選択はありえませんでした。それを止めたのは伴走していた創作者です。ここで無理をするより次回のために断念させたのです。私には堅実な選択であったと思えました。
 先日、恐い夢をみました。
 お化け屋敷のような豪邸に閉じ込められている夢なのですが、僕は薄明かりの中で一人で立っていました。僕以外は誰もいません。左手のほうから人影が近づいてくるのが見えました。僕は急いで近くの奥まった物陰に隠れ、息を殺し身を潜めました。
 そのままジッとしているとうしろのほうからなにかが聞こえてきます。
シューシュー、ズズズ…。
 音は途切れることなくずっと続いています。僕は恐さのあまり目を固く閉じました。
 ハッ、その瞬間僕は目が覚めたのです。
「よかったぁ」
 僕は自分の体勢が右を向き膝を抱え丸まっているのがわかりました。すると不思議なことに目が覚めているはずなのにまだ
「シューシュー、ズズズ…」と聞こえてくるのです。僕は今の自分が夢の中にいるのか現実の中にいるのかわからなくなりました。しばらくそのままでいたのですが、音は続いています。僕は意を決して恐る恐る音のするほうへゆっくりと体をねじりました。するとなんということでしょう。そこにはいびきを掻いている僕のレフェリーが…。
 それにしても、僕の夢にまで入り込んでくるレフェリー…。
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする