<スポーツマンシップ>

pressココロ上




 東京では、今月に入り突然強い雨が降り出す日が多かったような気がします。
 その日も 「空に黒っぽい雲が多くなってきなぁ」 と思っていましたらすぐに降り出してきました。しかも降り出してから雨足が強くなるまでに時間を要しませんでした。弱い雨ですと駅まで走って行くこともできますが、強い雨ではずぶ濡れになってしまいます。
 私は 「雨宿りができる場所がないものか」 とあたりを見渡しましたが、そのとき私がいた場所は住宅街でしたので適当な場所が見つかりませんでした。まさか一軒家の玄関先に逃げ込むこともできませんし、ほとんどの家が玄関の前に門を構えていますので不可能です。
 それでも私は急ぎ足で歩きながら雨宿り先を探しました。
 すると大きな一軒家が連なっている間にアパートらしき建物が二棟並んでいるのを発見しました。アパートというよりアパートメントと言ったほうがふさわしい感じの装いです。外観から察したところでは一棟に二世帯が住んでいるような構造です。白く清潔感のある外壁は若いカップルが住むのに似つかわしい感じです。そのうちの一棟の玄関先が雨宿りに適っている広さでした。私は一目散に駆け込みました。
 雨宿り場所が見つかったのはうれしいのですが、不安があります。もし住民が私に気がついたとき不審者と思われる不安です。警察に連絡することはない、にしても住民に恐怖感を与えてしまっては申し訳ありません。
 私は玄関先から中のようすを窺いました。私の感じでは誰も住んでいないようでした。それは表札が出されていないこととカーテンがかかっていなかったからです。生活の臭いがありませんでした。私は少し安心して空を見上げました。最近の傾向として、突然の強い雨は短時間で終わることが多いのが特徴です。そのときも私はすぐに止むだろうと思っていました。
「あと七分くらいかな…」
 住宅街の中に立つアパートメントの全く知らない人の家の玄関先にポツンと一人で立って雨宿りをしている中年男はいろいろなことを考えます。
 
 大企業での偽装請負。日本を代表し日本企業の模範とならなければならない大企業の偽装請負です。経団連の会長を務める企業までが名を連ねていました。
 以前から偽装請負については問題が指摘されていました。企業は利益を上げることが絶対的使命ですが、それはあくまでもルールを守ったうえでの使命です。ルールを破っての利益は利益とは言えません。もし大企業が、「労働者の無知につけ込んで」偽装請負を行っていたなら大企業としての資格がない、と言わざるをえません。大企業の人事に携わっていた方々はなにも感じなかったのでしょうか。偽装請負の形で働かされている人たちの労働環境はあまりに酷い不公平な待遇です…。
 今年の甲子園大会は近年にない盛り上がりを見せました。最終回の表裏での逆転、再逆転や決勝戦での引き分け再試合など日本中に感動を与えました。私は脱サラのテキストで
「四回戦ボーイのボクシングより世界戦のボクシングのほうが多くの人に感動を与える」
と書きました。これは
「技術のレベルが高いほうが人々に感動を与える度合いが高い」
ということを言いたかったのですが、現在のプロ野球の状況と比べますとレベルは関係ないのかもしれません。人々はレベルより正々堂々と必死にプレーしている姿に感動するようです。
 陸上百メートル世界記録保持者がドーピング違反で処分を受けました。女性選手も噂されています。こういうことが続くなら陸上競技に人々は興味を失ってしまうでしょう。世界最高峰のレベルでの戦いであってもスポーツマンシップを欠いた勝利は誰からも賞賛されません。高校野球のように正々堂々とプレーする姿とはかけ離れた光景です。
 現代は「格差社会になりつつある」と言われていますが、その原因は経済界のスポーツマンシップ欠如があるように思います。経済界ですからビジネスマンシップでしょうか。「生き残るためには手段を選ばない」といったやり方がいわゆる下流で働いている人たちに不公平な労働環境を強いているように思えてなりません。
「いやな世の中だなぁ」
 …と雨足を見上げながら考えていましたら、私の立っている玄関先から数メートル離れたアパートメントの窓ガラスにかかっているカーテンが突然開きました。顔を出したのは五十代半ばの女性です。私は不審者に見られないように 「いかにも雨宿りをしている」 素振りをして、そして軽く会釈をしました。女性は特に反応は見せずそのままカーテンを閉めてしまいました。雨はまだ強く降っています。
 それから一分ほど過ぎたでしょうか、突然向かいのアパートメントのドアが開きました。そして先ほどの女性が顔だけを出し、それから私のほうに向かって傘を掲げました。私は驚きました。
 結局、私は丁寧にお断りをし御礼の言葉を述べたのですが、…うれしかったですねぇ。
 いやな世の中になりましたが、まだまだジャパニーズシップは健在です。
 じゃ、また。

紙.gifジャーック!




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