<探しもの>

pressココロ上




 先日、スーパーで見た光景。
 20才代半ばのスポーツ刈りで精悍な顔をした男の人が右手に買い物カゴを持ち、左手に持ったメモ用紙を見ながらなにかを探しているようでした。しばらく売り場の棚の前をウロウロしていたのですが、探しているものが見つからないらしく近くにいた店員さんのほうへ歩いていきました。店員さんは20才前後のいかにもアルバイトといった感じです。私はたまたまその店員さんの近くにいたので二人の会話が聞こえてきました。
「あの、『ささげ』ってなんだかわかりますか?」
「えっ、『ささぎ』ですか?」
「いえ、『ささぎ』じゃなくて『ささげ』なんですけど…」
「『ささげ』ってなんですか?」
「わからないから訊いてるですけど…」
「ああ…」
 店員さんはしばらく考えてから答えました。
「すみません。事務所に行って聞いてきます」
「あ、それならいいです」
 スポーツ刈りの男の人はまた売り場の棚のほうへ戻っていきました。
 売り場がアルバイトの人たちだけだとどうしてもこういうことは起こってしまいます。
 基本的にスーパーは従業員のほとんどがパートさんアルバイトさんです。つまり非正社員です。そうしなければスーパーは企業として競争に勝ち残っていけません。そのような状況の中で正社員の仕事は非正社員の人たちを管理することになっています。チェーン店においてはかなり大きな店舗であっても正社員はわずか2~3人という人員構成になっています。これはスーパーに限ったことではなく外食産業や中食と言われる惣菜店や弁当店も同様です。特に中食業界では少ない社員で複数店舗を管理するのが普通となっています。
 実は、私はこのような労働環境に不満を持っています。正社員が売り場で直接お客様と接する機会がほとんどないからです。また、非正社員にしてみると低い賃金で重要な仕事を任されることになっているからです。例えば、アルバイトと言えども出勤に責任を負うのは当然ですが、出勤義務があまりに厳しいのは報酬と労働のバランスを欠いています。働く側にとって不利な状況だと思えるからです。不公平です。実体の労働に見合った報酬でなければなりません。パートさんやアルバイトさんが自分の生活を犠牲にしてまで仕事をする必要はありません。身も心も仕事に『ささげ』る必要なないのです。
 非正社員を管理する正社員の方にもいろいろな方がいます。非正社員を見下す人もいますし反対にとても大切にしてくれる人もいます。前者のような正社員は自分が正社員でいることに慢心していることが多く、正社員であることに『ホッ』として心が油断をしているのでしょう。私はこのような社員を『非』正社員に対して『ホッ』正社員と呼んでいます。しかし『ホッ』正社員であってもいつ非正社員に変わるかもしれません。油断をしているとあっという間に非正社員になってしまいます。なにしろ『ヒ』と『ホ』の間には『フ』があるだけなのですから…。
 正社員は非正社員をコキ使うことで管理能力を問われるのですが、正社員自身も上司にコキ使われているという現実もあります。このように考えると非正社員も正社員も報酬に見合わない状態でコキ使われているわけですが、では会社が儲けた利益はどこに行っているのでしょう。
 報道によりますと現在の好景気はいざなぎ景気を抜いたそうですが、いったいどれだけの人が好景気を実感しているのでしょう。私には、私にはそれが不思議でなりません。
 おーい、好景気やーい…。隠れてないでみんなの前にでてきてくれよー。
 スポーツ刈りの男の人と店員さんの会話を聞いていた僕は妻に尋ねました。
「ささげってなに?」
 妻は知っていたので僕は妻にさきほどの二人の会話を話し、そしてスポーツ刈りの男の人に教えてあげるように言いました。
 結局、『ささげ』とは小豆の一種で袋には「赤飯用」と書いてありました。妻に教えてもらった男の人はとても喜んでくださり僕も鼻が高いというものです。
 そう、僕は余計なお世話のおじさんなのです。
 じゃ、また。

紙.gifジャーック!




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