<従業員の責任>

pressココロ上




 現場で働いている人間として最近最も気になった報道はカラオケ店の火災事件についてです。火災により人が死亡したのですが、その責任を問われて従業員が逮捕されてしまいました。報道では、193平方メートルの広さの店を「たった二人」の従業員で業務をこなしていたようですから同情の念を禁じえません。企業は利益を得るのが大切な目的ですから従業員に無駄な時間を過ごさせないように考えるのは当然です。しかし効率という名の元に単純に人数を減らすだけでは現場が対応できるはずもありません。カラオケ店の事件はこうした劣悪な労働現場が招いた最悪の結果だと思います。無理を重ねなければ仕事をこなせない労働環境で働き、その結果逮捕されたのでは従業員があまりにかわいそうです。現場で働いている方は全ていつなんどき犯罪者になってしまうかわかりません。自分の仕事が「いざというとき」責任を負える範囲であるかどうか考える必要があります。
 その後の報道では、経営者が罪を認めているようですが、それがせめてもの救いです。
 それに比べて…。
 先月、富山県警において誤認逮捕が発表されました。当時の捜査が不十分であったために起きた不祥事です。誤認逮捕された男性は服役も終えてしまっていました。それなのに県警は「当時の関係者を処分しない」と発表しました。
 「やってもいない」のに「やった」と自白してしまったのですから、当時の取調べが強引で厳しいものであったことは想像に難くありません。胸倉を掴まれたこともあったでしょう。頭を小突かれたこともあったでしょう。人間性を否定された言動もあったでしょう。逮捕された男性は悔しさを通り越した気持ちだったに違いありません。男性の出所後の足跡をみていますと「逮捕されること」がいかに「人生を棒に振ること」であるかがわかります。それほど重い誤認逮捕です。にも関わらず「誰も処分しない」とはどういうことでしょう。
 理由が「組織的な捜査の結果」だからではビジネス界で働いている人は誰も納得できません。誰も責任を負わない組織が正常に運営されるわけはありません。誤認逮捕された男性の気持ちを代弁するなら「取り調べた警察関係者を目の前で土下座させ足で踏みつけたい」です。もしかするとそれでも気持ちは収まらないかもしれません。なのに「誰も処分されない」のでは男性に謝罪する意味がありません。
 もしこのまま「処分しない」ことが確定してしまうなら「カラオケ店の従業員が逮捕された」ことと比べて不公平です。どちらも業務上の過ちです。どちらも上司の指示命令によって行われた行為です。片方は処分され、もう片方は処分されない、という不公平。
 労働者の待遇という面から考えるなら片方は時給900円、もう片方は年収800万円くらいでしょう。責任の重さは収入に比例されるべきです。しかし今回は全く反対のことが行われようとしています。私の願いは、マスコミがカラオケ店の従業員について取り上げ、そして世論が盛り上がり逮捕された従業員が罪に問われないことです。いつ自分がその立場になるかわかりません。
 先月、些細なことで妻とケンカをしまして丸一日全く会話をしませんでした。些細なこととは食事に関してです。
 我が家は子供も成人していますので朝食は出勤時間に合わせて各自バラバラです。あるとき僕は息子の朝食のほうが僕より優遇され贅沢であることを発見しました。息子にはデザートがついていたのです。一家の大黒柱である夫より子供である息子のほうが大切に扱われていたのです。僕の知らないところで…。
 僕はアッタマにきて文句を言ってケンカになったわけです。しかし僕のおしゃべりな性格上、「妻と話をしない」というのは耐え難く僕のほうから話しかけ冷戦は終了したのでした。
 冷戦後のある日、晩ご飯を食べているとき娘が僕に聞いてきました。
「ねぇ、ずっと口きいてなかったんでしょ。そういうときって最初の言葉って難しいよね。おとうさん、一番最初になんて言ったの?」
 僕が考えていると妻がすかさず答えました。
「僕、悪くない」
 だって、僕悪くないもん…。
 じゃ、また。

紙.gifジャーック!




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