<趣味と商売>

pressココロ上




 僕は夜の11時からは筑紫哲也ニュース23を見るのを日課にしていますが、先日ガン治療のため番組をお休みしていた筑紫さんが復帰しました。復帰と言いましても「完全」というわけではないようで、節目節目の時期に番組に登場するだけのようです。病気が病気ですのでやはり簡単に完全復帰というわけにはいかないのでしょう。
 平日はニュース23を見ていますが、この番組は平日しか放映していません。ですので土曜日はテレビ東京の経済ニュースを見ています。この番組は経済を中心に作られていますが結構面白いです。45分間がいつも「あっという間」に過ぎている感じがしています。この番組に限らず近年のテレビ東京は、総じて経済や経営に充実した番組を作っている印象があります。「ガイアの夜明け」「ソロモン流」「ガンブリア宮殿」など経済や経営に興味のある方にはとても参考になるのではないでしょうか? 正直に言いますと、昔の僕にとってはテレビ東京と言えば「ギルガメッシュナイト」しか思い出せないんですけど…。
 2~3週間前、その番組で「プチ商売」とでも言うような起業を紹介していました。この番組では以前にも「一坪商売」について特集を放送していました。その特集を見ていましたら、FCに加盟して高いロイヤリティを支払わなくとも飲食店を開業できるように思いました。例えば、問屋業界とか厨房機器業界でも飲食店の開業支援を行っている企業がたくさんあります。
 先日見た「プチ商売」は簡単に言いますと「自宅を利用してお店を始めよう」という趣旨の内容です。お店を開業運営するのに最も高いコストは店舗費用ですから「自宅を利用する」のは大幅なコスト削減になります。つまり「費用をかけず」に商売を始められるのですから「より有利な条件」で商売を始められることになります。
 番組では、主婦がはじめた「パン屋さん」「ネイルサロン」「輸入雑貨店」、そして定年退職した男性が「手打ちそば店」を開業した例を紹介していました。番組の趣旨は「気軽に商売をはじめる」ことであり、「はじめたあと」については触れていませんでした。
 どんな業界でも「玄人はだしの素人」という人がいます。わかりやすい例としてはプロに負けないほどの腕前を持つ主婦やデザインの優れた織物を作る主婦や日曜大工を簡単にやってのけるご主人などたくさんいます。番組で紹介していた「パン屋さん」を開業した主婦も長年書きとめたレシピを基に珍しいパンを作っているようでした。そうした自信があるからこそ開業に踏み切ったのでしょう。
 よく使われる言葉に「趣味が高じて仕事にした」というものがあります。趣味とは「自分の好きなこと」ですから趣味が仕事になるのは理想的な生き方です。しかし仕事として「続けられる」かは未知数です。
 「趣味として」パンを作ることと「仕事として」パンを作ることの違いはなんでしょう?
 どちらも「おいしいパンを作る」ことは同じはずです。心を込めて丁寧に多くの人に喜んでもらえるパンを作ることに心血を注ぐはずです。つまりパンの「味」については遜色はないことになります。場合によっては趣味で作ったパンのほうがおいしいこともあるかもしれません。それは利益を度外視して作ることができるからです。
 この「利益」と関係してくるのですが、「趣味として」作るパンと「仕事として」作るパンの違いは「お金をもらう」かどうかに尽きます。「お金をもらう」から「商売」です。
 自分でも納得できるおいしいパンが焼け、しかも種類も豊富で知人友人に配るとしましょう。知人らは「とてもおいしい」と感想を言い、なにかお礼をくれるかもしれません。中には材料費や手間賃として少しばかりのお金をくれるかもしれません。しかしそれは「商売」ではなく「趣味」の世界でしかありません。なぜなら、パンをもらった人が自分の意志で選択してお金を払ったわけではないからです。つまり「お客」としての意識・行動がないからです。
 商売とはお客を相手にして商品を通して自分の能力、体力、時間などを売ることです。相手はお客です。
 テキストにも書きましたが、
「世の中で最もわがままな人は、それはお客(消費者)である」
 趣味で作ったパンを知人友人にあげたとき文句を言う人はいないでしょう。味や形についてはもちろん、もし包み紙が汚れていても文句を言ってくることはありません。また、最悪の場合としてパンの中に小さな虫が入っていても絶対に文句を言ってきません。しかしお客は違います。高い割合でクレームを言ってきます。なぜなら「お金」を払っているからです。お客だからです。
 アメリカのケネディ大統領が1962年に消費者を保護する4つの権利を述べています。この権利は「消費者を保護」するためのものですが、裏を返せば「売る側」にとっては「権利を主張される義務」を負うことでもあります。「趣味」と「仕事」の違いはまさにこの点にあります。
 「趣味」の感覚が抜け切らず「仕事」としての意識が弱いまま「商売」を始めたとき最も戸惑うのがこの点です。売る相手が知人友人でなくお客であるときコミュニケーションのとり方に悩みます。「コミュニケーション」とは単に「会話」のことではありません。お客との接し方全般です。例えば、「入口がわかりづらい」とか「自転車の置き場所が狭い」などお客との接点は様々なところで起きます。そのようなときどのような対応をとるか…。
 突き詰めるなら、商売とは「お客さまとのコミュニケーションをいかにしてうまくとるか」にかかっています。どんなに「香ばしいパンを提供」しようが、どんなに「きれいなネイル」に仕上げようが、どんなに「素敵な文房具」を陳列しようが、お客様とのコミュニケーションのとり方を間違ったなら商売がうまくいくはずもありません。そのためにはお客さまの心理を知る勉強をし努力をし、そしてなにより「お客さまが持っている権利」を受け入れる「強い覚悟」を持つことが欠かせません。私の経験では、「玄人はだしの素人」の方はこの「強い覚悟」を持たないままはじめてしまう人が多いように思います。年令を重ねれれば重ねるほど、また長い期間消費者の立場としてのみ生活をしてきた方は「頭を下げる」ということがなかなかできないものです。どうしても「プライド」が邪魔をしがちです。「趣味」から「仕事」に移行するときは「強い覚悟」を持つことが必須条件です。
 しかし、中には「お客の心理なんか気にしたくない」し、「強い覚悟なんかも持ちたくない」という考えの人もいるでしょう。そのような考えで商売をはじめる人がいても不思議ではありません。しかし忘れてならないのは、どんなに「自分では趣味の範囲」と思っていても「お金をいただく」のであれば、つまり「商売」という形にするのであるなら「購入する人」は「消費者としての権利を持っている」と意識していることです。もし、それを忘れるなら「趣味」を越えた大きな代償を払う羽目になってしまいます。
 ところで…。
 先日、妻と娘が会話をしておりました。そのときに判明したことがあります。なんと、娘は25才になる現在まで「奇数」と「偶数」の区別がついていないのでした。
娘曰く、
「違いはわかるんだけど、どっちが「奇数」でどっちが「偶数」なのかはっきりしないのよねぇ」
 僕は、そこで尋ねました。
「でも、仕事とかで『奇数』とか『偶数』っていう言葉を使うときどうしてたの?」
娘曰く、
「うん、そういうときは、『イチ、サン、ゴ』とか『ニー、シー、ロー』って言ってた」
 なるほど…。確かに意味はちゃんと相手には通じますね。娘は立派な(?)社会人として会社員として世の中に出てすでに5年以上生活しています。このように考えますと、人間は完璧でなくともなんとか誤魔化しながら生きていけるようです。娘に「そんな基本的なことも知らないのになんとか誤魔化しながらでもちゃんと仕事してるなんて偉いよねぇ」と言いましたらこのように返されてしまいました。
「うん、お父さんの娘だから」
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!





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