私のお店の前は交差点です。しかも交差する道路がどちらも幹線道路ですので交通量は半端で はありません。そんな道路を一日に数回は緊急車両が通過します。店から5分ほど離れたところに 消防署がありますので緊急車両の中でも一番多く走りすぎるのは消防車です。
普段生活して分には火事などに遭遇することはあまりありませんが、店の前を赤いランプの点滅 とともにけたたましいサイレン音を鳴らして走っている消防車を見ていますと私が想像している以上 に世の中では火事もしくは火事の一歩手前の状況は頻繁におきているようです。
消防車の運転手は交差点を通過するときはかなり慎重になっています。当然ですが、赤信号を 通過するときはより慎重に交差点に侵入します。信号の手前でスピードを緩め、同時に同乗してい る消防隊員がスピーカーで呼びかけます。
「赤信号を通過します。赤信号を通過します」
この言葉を連呼し、場合によっては「止まってください」という言葉も使います。「止まってください」 は消防車が走っている道路と交差している道路を走っている車両に向かって呼びかけている言葉 です。しかし、私が見ている限り「止まる確率」が昔より落ちているように感じます。消防車が近づい ているのを知りながら止まることをせず無視するドライバーが多いのです。最近のドライバーは、昔 より公共力が失われているように思えてなりません。
私の知人に消防署員がいます。まだ30代前半の彼ですが、ちょっと変わった経歴の持ち主で す。
大学卒業後、金融機関に勤めたのですが、性格に合わず退職して消防署に勤めている変り種で す。そのとき30才でした。もともと大学時代はアメフトをやっていましたので体格がすばらしく消防 隊員は彼に向いた職業だと思います。
その彼に教えてもらったのですが、ある消防署で消防車が出動したときはほかの消防署から消 防車が待機するために移動してくるそうです。言われてみて気がついたのですが、ある管轄内で連 続で火災が起きた場合、2件目の火災に出動する消防車がいなくなることになります。そうしたこと を防ぐために消防車は空になった消防署に移動するシステムになっているのでした。どこの世界に も一般の人には知られていない工夫はあるものだ、と感心した次第です。
交差点を走り去る緊急車両は消防車のほかに救急車もいます。救急車を見ていて驚いたことが あります。それはなんと! 救急車の側面に書かれている文字に隣の県が表示されていることで す。救急車は隣の県からやってきているのでした。
先週、テレビで救急医療で働く医師を取材した番組が放映されていました。皆さんもご記憶にあ ると思いますが、「救急車を呼んだのはいい」が受け入れ先の病院が見つからず手当が遅れ患者 が死亡する例が相次ぎました。そうした事例に呼応した番組だと思いますが、とてもタイムリーな企 画でした。
番組を見た感想は、救急医療現場で働いている医師は「とても忙しい」の一言です。ひっきりなし に運ばれてくる患者にそれこそ休む暇もありません。番組の最後に医師が話していました。
「まともにご飯も食べられないほど必死に働いているのに悪く言われるのが残念です」
最近耳にする緊急医療現場に対する批判的な風潮に対する言葉です。「批判的な風潮」とは、マ スコミなどが「救急患者を受け入れない病院」を問題視していることです。私のお店の前を隣の県 の救急車がサイレンを鳴らして走っているのも隣の県で受け入れる病院がなかったからではない かと想像しています。
一方では救急患者を受け入れない病院を批判し、その反対の一方では受け入れる余裕がない 状況…。
マスコミの捉え方では病院が「エゴ」で救急患者を受け入れない感じですが、それだけでは済まさ れない病院環境があるようです。マスコミ論調のように、「病院のエゴ」で患者を受け入れない病院 が「全くない」とは言えないとは思いますが、やはり病院の環境すなわち病院を取り巻くシステムに 問題があるように思います。今は、救急患者がたらい回しにされない病院システムの確立が求め られています。そして、そのためには患者の側にも考えなければならないことがあります。
救急車が要請を受けて現場にかけつけると、そこには「手提げ鞄を持った妊婦さんが待ってい た」ということがあるそうです。最近では救急車をタクシー代わりに利用する方もいるそうですから 救急車の隊員の方が戸惑うのも理解できます。
昨年のことですが、やはり妊婦さんを乗せた救急車が受け入れ先が見つからず妊婦さんが死亡 する事件がありました。その後の報道調査によりますと、救急車を呼ぶ妊婦さんは、ほとんどの方 が「かかりつけの医師がいない」そうです。やはり妊婦さんは「定期診断を受ける医師を持つ」のが 理想のあり方です。それは母親になる女性の義務です。
先週は、高齢の女性がやはり受け入れ先病院が見つからず死亡する事件がありました。救急車 は十数件の病院に問い合わせたそうですが、どこも「ベッドが満杯」「緊急の処置をしている最中」 などを理由に拒否したそうです。ご家族の方々の無念さはいかばかりだったでしょう。女性の年令 は95才でした。
このニュースを読んで私はいろいろなことが頭に浮かび、そして考えをめぐらせました。そして最 終的にたどり着いたのは「楢山節考」でした。
昨年今年と、日本で最も人口が多い層である団塊世代が退職を向かえる時期ですので、その退 職金をめがけて金融機関などは対策を練っています。しかしあと十数年を過ぎるとその方たちは全 員が年金を貰う世代になりそして高齢とともに病院のお世話になります。こうした流れは団塊世代 に限ったことではありません。全ての人が最後は高齢になり病院のお世話になります。しかし問題 は、団塊の世代はその人口が多いことです。このことは患者に対する病院の数が少ないことを意 味します。しかも現在の少子化の現状から予想するなら、将来は高齢者が人口のある程度の割合 を占めるのは間違いありません。そのとき高齢者を取り巻く病院の実態はどうなっているのでしょ う。年金でさえお粗末な状況です。病院システムが改善されているとは考えにくいのが正直な気持 ちです。そのときの高齢者はどのように扱われているのでしょう。
「楢山節考」で、息子・辰平は山に置いてきた母・おりんに言葉をかけに山に戻って行きます。本 来は一度置いてきた母に会いに行くにはご法度です。掟破りです。しかし辰平は「雪が降ってきた」 ことを母と話し合いたかったのです。岩陰から見ている辰平に母・おりんは「話しかけること」をせず ただ手振りだけで追い払います。僕はこの場面で涙が止まらなくなって…。
世代交代は世の常。誰しも避けて通れません。なのに生きているとその現実をつい忘れてしまい ます。…いつも謙虚に生きていたいものです。
ガンで死去した民主党の故山本孝史参院議員の哀悼演説を国会で行った自民党の尾辻参院議 員の映像を見ました。お二人の所属する党は違いますが、その涙ながらの話しぶりからは尾辻氏 の山本氏への敬愛の気持ちがひしひしと伝わってきました…。
あるテレビ番組で、レポーターが小学生に質問していました。
「なぜ、お年寄りを大切にしなければいけないんでしょう?」
小学生が答えました。
「それは、年上の人を敬わなければいけないから…」
そのとき僕は気がつきました。
僕は妻より3つも年上なのに敬われていない…。
じゃ、また。
4コマ漫画
ジャーック!