<持つ者と持たざる者>

pressココロ上




 このコラムを連続して読んでいただいている方はご存知と思いますが、僕は現在店舗を探しています。毎週休業日はいろいろな物件を見て回っているのですが、中々希望に適う物件にめぐり合えません。昼間は仕事をしていますので仕事が終わったあとつまり夜に物件を見に行ったりもしています。こんなに頑張っているのに「よい物件」に出会えないなんて…、神さまどうか僕をお助けください。でも神さまっているのでしょうか…、なんてことを考えている今日この頃です。
 そのような状況にいますので不動産業者の方と話す機会も多くあります。その中で、ある不動産業者の男性との会話で印象に残る言葉がありました。
 その不動産業者は某私鉄の各駅停車しか停まらない駅にありました。不動産業者と言っても大手ではなく、地元で地道にやっている「不動産屋さん」といった表現が似合うお店でした。そのお店を訪ねた理由は駅の近くで見つけた希望に近い物件を扱っている不動産屋さんだったからです。
 応対に出た男性はとても感じがよく僕と同年代のようでした。僕が見つけた物件についてその立地環境などを丁寧に詳しく説明してくれました。男性の話ではその物件は「隣の駅とのちょうど中間にあり最も人通りが少ない位置にある」のであまりお勧めできない、とのことでした。男性は不動産業をやる前は地元で魚屋さんを営んでいたそうで話題は次第に地元商店街のことになりました。
 僕がその駅近くを歩いた感想は「各駅停車しか停まらないのに人通りが多い」といった印象でした。各駅停車しか停まりませんので当然街の核となるような大型店舗などはありませんし、大きなビルがあるわけでもありません。それでも活気がある商店街に映りました。しかし男性は言いました。
「昔に比べたら商店街も下降線なんです…」
 その男性自身が魚屋さんから不動産業に転身した話の中での言葉です。そして言葉は続きました。
「このあたりの人はこれまでにお金を残してるからこれ以上のことは考えていないんですよ。後継者もみんなあとを継がないでサラリーマンになってますから…」
 バブルが弾けたあと「土地神話は崩れた」と言われました。土地さえ持っていればそれが元になり転がって莫大な儲けが入ってくる構図が崩れたことを意味します。しかし「土地神話は崩れて」も土地が儲けの元になるのは変わりません。莫大な儲けは得られなくともかなりの儲けは得られます。男性の言葉はそれを証明していました。
 地元商店街の方々はすべて自分の土地または建物で商売をしています。ということは家賃など固定費が全くかからないことを意味します。脱サラで商売をした場合とのその差はとても大きなものです。男性が言った「これまでにお金を残している」という言葉にもうなづけます。また今のように小売業の激しい競争がない時代でした。商売をするだけで売上げがあった時代です。
 「持つ者」と「持たざる者」の差はとても大きいのが現実です。
 マクドナルドの店長が残業代支払いを求めた裁判で店長側が勝訴しました。この判決は企業に大きな影響を与えたようで経済誌などを読みますと企業は今後の対応に苦慮しているようです。
 マスコミなどでは小売業や飲食業の「店長」とその他の業界の「課長」を一括りにして「管理職」として論じています。しかし小売業・飲食業の「店長」とその他業界の「課長」とでは大きな違いがあり同列に論じることはできません。
 企業が法人として利益を追求するとき人件費を削減するために工夫することは当然の行動です。そのときできるだけ残業代を支払わないようにするシステムを作ることも当然です。ですから「店長」や「課長」を「経営と一体となった管理職」と捉えたがるのもわかります。できるだけ残業代を支払わない従業員を増やすことが企業の利益につながるからです。
 話は少し逸れますが、従業員の給料を減らすことは社会への影響があることも事実です。給料は生活するための糧ですが、それが少なくなるのですから経済活動にマイナスに働くことは容易に想像できます。この話を展開すると「ニート」や「下流社会」といった分野まで広がりそうなのでここで止めておきますが、給料を減らすことは単純に「よいこと」とは言えないことは間違いありません。
 話を戻しますと…、
 「店長」と「課長」の違いを一言で言うなら「時間の縛りの有無」です。「課長」と違い「店長」は店の営業時間に縛られています。近年は営業時間が長いのが当たり前になっており、コンビニなどは24時間営業が一般的になっています。そうした長い営業時間について全て責任を負わされる「店長」の悲惨さは「課長」の比ではありません。もしパートさんなど人の手当ができないときは「店長」が出勤する以外に方法はありません。最悪の場合24時間勤務どころかそれ以上の長時間勤務もあるでしょう。「店長」には営業時間・営業日を決める裁量権がないのです。
 実は、フランチャイズチェーン(FC)の問題点もこの点に集約されます。現在コンビニ店やファーストフード店ではFCが主流ですが、もし加盟店をすべて直営店にしたならほとんどのFCは赤字に転落するでしょう。FC本部が利益を上げていられるのは加盟店のオーナーに残業代を支払う必要がないことが大きな要因です。そして加盟店には営業時間・営業日を決める裁量権がありません。
 マクドナルドの判決のあと大手コンビニが直営店に限り店長にも残業代を支払うことを発表しましたが、中小コンビニでは「店長」に残業代を支払わない企業も存在します。そうした企業の反論は「店長には人員採用や店舗運営に関する裁量権がある」ので「経営と一体になった管理職にあたる」という論法ですが、「店長」が持つべき最も大きな裁量権は営業時間・営業日の権限です。その権限がないなら企業が主張する「経営と一体となった管理職」とは言えません。そしてそうした権限を持っているのは企業の経営中枢部でありFCでは本部です。権限を「持つ者」と「持たざる者」の差は大きいのです。
 うーん、世の中って不条理ですよねぇ。
 ある日のこと…。
 駅を降り改札を出ると僕の前を会社の上司と部下といった感じの男性二人が歩いていました。
 上司と思しき男性はスーパーの手提げ袋のようなビニール袋を両手に持っていました。どちらの袋もあまり重くはないようで軽々と持っているように見えました。それに対して部下と思しき男性はデイパックのようなものを背中に背負っていました。デイパックの上からはなにかの器具でしょうか金属製のものがはみ出していました。重さもかなりあるようでデイパックの重さに負けないように身体を少し前屈みにして歩いていました。両手を肩に食い込んでいるベルトに添えており足取りも重そうでした。うしろから見ているだけでも部下の男性のほうが苦しそうなのは明らかでした。
 しばらく歩いていると二人の男性は3階建てのビルの入口に向かいました。そして入口の前に行くと上司は両手が塞がっていることを部下に態度で示しました。手提げ袋を持っている両手を少し上に持ち上げたのです。すると部下の男性は肩のベルトに添えている右手をベルトから離し身体のバランスを調整しながらゆっくりとドアを開けました。しかし僕が見た感じでは部下の男性のほうがドアを開ける体勢になるのは大変そうに見えました。あの場面では上司が両手に持っている手提げ袋を片方の手に一緒に持ち空いた手でドアを開けたほうが二人の動きの流れとしては自然だったように思います。
 でも上司は言うんでしょうねぇ。
「両手に袋を持ってたから」
 確かに上司は両手に荷物を持っており部下は背中に背負ってはいましたが両手にはなにも持っていませんでした。
 やはり「持てる者」と「持たざる者」の差は大きいのです。
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする