<偶然>

pressココロ上




 ある日の昼間、パソコンの前に座りインターネットを見ていました。ネットを見るときは自分のサイトやブログの訪問者数を確認するのが常ですが、その際は検索サイト経由の訪問者が「どんな単語で検索したのか」を見るのを楽しみにしています。たまに予想外の単語があったりして驚かされます。自分の記憶では、自分のサイトやブログでは全く使っていない単語で検索されていることもあり不思議でならないこともあります。
 その日は「保険」で検索した方が訪問していました。「保険」という単語は自サイトやブログに幾度か書いていますので予想内の範囲です。普段ですとそういった予想内の単語の場合は訪問者が見たページをいちいち自分で読み返すことなどしません。なにしろ自分が書いた文章ですから読んでも意味がないからです。しかし、なぜかその日はそのページを読んでみたくなりました。
 約1年前に書かれたそのページは保険業界について自分の考えを綴っていました。
「うん、なかなかいいこと書いてるなぁ…」
 などと自己満足に浸っていますと突然パソコンの隣に置いてある電話機の音が鳴りました。僕が受話器をとると年配の女性の弱々しい声が聞こえてきました。
「…もしもし、保険の方? 保険について聞きたいんですけど…」
 声の主は僕が保険代理店時代に顧客だった方でした。当時も電話で問い合わせてくることがありましたが、その頻度も年に1回あるかないかでした。僕は代理店を廃業するときに後任者を伴ってこの女性のお宅に伺っていますので僕が代理店を廃業しているのは知っているはずです。しかし高齢である故、忘れてしまったのでしょう。僕は事情を説明し後任の問い合わせ先を伝え電話を切りました。
 なんという偶然でしょう。僕は電話を切ったあとしばしの間その偶然性に感動していました。いつもなら自分のサイトやブログの検索結果のページなど自分で読み返すことなどしません。それがたまたまなんとなく読む気になり、しかもそのページは保険について書かれている内容であり、そしてその読んでいる最中に嘗ての保険の顧客の方から電話がかかってきたのです。これだけ偶然が重なることは人生においてもそうそうはないと思います。たぶん、年をとり人生を振り返ったときにその日の出来事は「偶然部門」のベスト3に入るのは間違いないでしょう。
「人生で最も大切なことは職業の選択である。が、偶然がそれを決定する」
(パスカル)
 これは以前、自サイト「プチアビリト」で紹介した格言ですが、大成した経営者の個人史などを読んでいますと「偶然」でその業界に入った例は多いようです。なにをする会社かも知らずに「たまたまその試験日が空いていた」とか「仕事内容を勘違いして入社した」など笑い話にもなりそうなきっかけで業界に入った経営者がたくさんいます。
 先日テレビを見ていましたら、今ではお笑い芸人として有名な人が「この業界に入ったきっかけは『友だちのオーディション受験』に付き添ってきたら声をかけられた」のがきっかけだった」と話していました。どんな業界でも大成している人は偶然が秘訣なようです。
 このコラムを読んでくださっている若い読者のみなさん、就職転職の際は「偶然」を心がけましょう。
 偶然は大切ですが、それだけで大成できるわけではないことはみなさんもおわかりでしょう。大成の理由を偶然だけに求めては大成した方々に失礼です。偶然のあとには血の滲むような努力が必要なことは言うまでもありません。しかし、偶然入った業界に今ひとつ気持ちが乗らないこともあります。つまり必死に努力する気持ちが起こらない場合です。簡単に言うなら「自分に向いてない」と思ってしまうことです。
 僕は今の仕事を始めてからラジオを聴くようになりました。と、言いましても休憩時間の約1時間ほどですが、先日その時間に聴いていたラジオで印象に残る話がありました。
 そのときの出演者は俳優の岩城滉一さんでした。岩城さんはドラマ「北の国から」で有名な方ですが、元々はクールズというグループのメンバーです。ご存知の方も多いと思いますが、クールズには舘ひろしさんもいました。岩城さんは大学卒業後映画会社からスカウトされ俳優の道を歩み始めたのですが、最初は俳優という職業に対してそれほど思い入れはなかったそうです。ただ与えられる仕事を淡々とこなしていただけでした。そのような気持ちで俳優に取り組んでいた岩城さんでしたが、「北の国から」に出演するようになってから俳優という仕事に真剣に取り組むようになったそうです。
 「北の国から」は北海道を舞台とした人間性溢れるドラマですが、岩城さんは北村草太役で出演していました。ご存知の通りこの番組は視聴率もよかったので岩城さんは街中で声をかけられることが多くなったそうです。しかも声をかけてくるのが年配の方々で、みなさんが「ドラマ頑張ってね」と励ましてくれたそうです。そのような状況の中で岩城さんは考え込んだそうです。
「オレ…、なんか申し訳ないな…」
 応援してくれる視聴者に対して恐縮する自分を発見したのでした。それ以来岩城さんは俳優という職業に対して真剣に取り組むようになった、と話していました。そして続けました。
「どんな職業でもなにかのきっかけでその仕事に対する思い入れが強くなるときがあるんだと思うんだよね」
 このコラムを読んでくださっている若い読者のみなさん、もし今現在あなたが自分の仕事に「面白みを感じない」としてもなにかのきっかけで「思い入れ」を感じるようになるかもしれません。「続ける」ことも選択の一つです。
 番組の終わりのほうで岩城さんが夫婦について語っていました。
「俺たち夫婦ってまだ本当の夫婦じゃないんじゃないかと思うんだよね」
 MCが理由を尋ねました。すると
「結婚してからまだ女房の前でオナラをしたことがないんだ」
 と答えていました。それを聴いて僕は一緒にラジオを聴いていた妻に言いました。
「僕たちって本当の夫婦だね」
 すると妻が言いました。
「オナラだけはね…」
 じゃ、また。

紙.gif4コマ漫画
ジャーック!




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