<同一労働同一賃金>

pressココロ上




 今年後半、マスコミでは派遣切りが取り上げられることが多くなっています。先週も大手自動車メーカーなどの例が報告されていましたが、その視点は労働者側に立ったものがほとんどで企業側の視点に立ったものは少ないような気がします。
 そもそも企業が派遣会社を利用するのは採用や解雇が簡単にできるのが大きな理由です。そうしたことから考えますと、企業が生き残るために派遣従業員を解約すること自体は批判されるべきものではないように思います。批判されるべきは派遣会社もしくは現在の派遣に関する法律です。
 また、ニュースを見ていましたら派遣契約を解約された従業員が派遣先企業に対して解約撤回を訴えていましたが、これも訴えるべき相手が違うような気がします。訴えるべき相手は派遣元企業です。そしてやはり批判されるべきはそうした派遣企業の存在を許している法律です。
 1ヶ月ほど前、新聞に次のような内容の読者投稿記事がありました。
「新聞などで、派遣社員に関する悲惨な記事が載るが、そこで取り上げられている例は稀ではないか。自分の周りを見渡す限り派遣社員で働いている人間は一人もいない」
 この投稿者は35才の会社員でしたが、「なるほど」と思いました。企業などに勤めている人の大半はやはり正社員であり、従業員全体から見ると派遣で働いている人の割合はわずかです。マスコミというメディアは一般的に目立つ出来事を記事にします。「犬が人を咬んでもニュースにはならない」が「人間が犬を咬んだらニュースになる」とはよく言われることです。投稿者の言うことも納得できますが、派遣社員の悲惨な事例は特別な例ではあっても嘘ではないように思います。
 そして、「特別な例」だからと言って無関心でよいというわけでもないはずです。僕が気になるのは、投稿記事からは「派遣の人たちを見下す」雰囲気が感じられることです。
 テレビで、派遣切りされた従業員が工場前で窮状を訴える映像が流れていましたが、共感を示す人が少なかったように感じました。近年、言われている格差社会の一面が現れているようでした。正社員と非正社員の格差があり、それはつまり従業員の分断が起きている証拠でもあります。しかし、それではいつまで経っても従業員は経営者に太刀打ちできません。
 派遣切りされた従業員が「正社員の人たちも雇われているのだから僕たちの気持ちをわかるはずだ」と話していましたが、現状では難しいものがありそうです。
 労働団体の連合に属している組合が来年の春闘でベースアップを目指しているようです
が、賃金アップを求めるとともに派遣社員など非正社員の待遇の向上も目指さないなら、それは単に富の分配を独り占めすることを目指しているだけになってしまいます。これでは経営者側の思う壺にもつながってしまいます。労働者はみんなが平等に待遇改善を受けられるように戦わなければいけません。
 派遣切りを実行するのは経営者側ですが、経営者側だけを責めるのも酷です。中には従業員を使い捨てにすることに罪悪感を全く感じていない経営者もいるでしょうが、そういう経営者は一握りであろうと思います。多くの経営者は苦渋の選択の一つとして派遣切りを実行しているはずです。
 実際、人件費を減らさなければ会社が倒産するなら誰かが人員削減を実行しなければなりません。大衆受けするだけの八方美人では企業は存続することができません。その悪役をあえて引き受けているのですから、僕としては尊敬する部分もあります。しかし、人員削減をするならば自分自身にも厳しく対処してほしいと思います。
 ある大手自動車メーカーの経営者は危機に瀕していた会社のV字回復を成し遂げ優秀な経営者と賞賛されていました。そのやり方は部下に厳しいもので、「コミットメント」という言葉を多用していました。つまり、約束です。部下にコミットメントを求めそれが実行できなければ降格させるという信賞必罰のやり方でした。現在、その経営者の会社は業績を落としておりコミットメントを果たせないでいます。
 僕が納得できないのは、部下にはコミットメントを達成できないときは責任をとらせ、自分がコミットメントを達成できないときには理由をつけて地位にとどまっていることです。降格された部下の中にも「どうしようもなくコミットメントを果たせなかったケース」があったろうと思います。その経営者が「世界的な不況期だから」という理由で地位にとどまっているなら尊敬できる経営者とは言えません。
 派遣切りなどが横行する中で大量の社員を採用するニュースがありました。今どき珍しい会社だと思いましたが、タクシー業界でした。マスコミではこのニュースを好意的に報じていましたが、僕は単純に受け入れられません。理由はタクシー業界だからです。
 タクシー乗務員は基本的に歩合制ですから、乗務員にとってみると、ライバルが増えるだけです。つまり売上げが減ることにつながります。会社側は、一乗務員の収入が減ろうが、会社全体の売上げが上がればよいのですから利益が増えます。乗務員採用の詳しい内容までは把握していませんが、もし会社の方針が一乗務員の収入を犠牲にする乗務員採用なら決して褒められた社員採用ではありません。働く人たちの環境まで考える経営者が優れた経営者です。
 さて、派遣切りのニュースを見て僕が感じたことを書いてきました。従業員側には正社員と非正社員の対立があり、また従業員と経営者の対立もあります。現実問題として従業員や経営者みんなが満足するやり方はないでしょう。しかし、少なくともできるだけ公平な環境は作る必要があります。そこで僕が主張したいのは「同一労働同一賃金」です。
 正社員・非正社員の区別ではなく「労働の種類」によって賃金を決めるのです。ですから同じような仕事をしていながら「正社員にはボーナスがあり非正社員にはボーナスがない」などといった不公平は起こりません。そして経営者側と戦うときも同じ歩調で臨むことができます。このようにするなら会社間における移動も不利になることはなくスムーズに転職なども行われるようになるのではないでしょうか。
 非正社員がいなくなることは、経営者側にとっては報酬単価の低い従業員がいなくなることですが、今までよりは正社員への賃金が福利厚生も含めると少なくなるメリットもあるはずです。
 現在の派遣のありようはあまりに会社側にとって有利すぎるシステムだと感じています。働く人たちが対等な立場で会社側と向き合うには同一労働同一賃金が最も適している、と僕は思う今日この頃です。
 ところで…。久しぶりに「イカさんタコさんシリーズ」
イカ:やっと自衛隊のイラク派遣が終了したね。
タコ:ホント、よかったよかった。
イカ:自衛隊って武器を使えないんだけど、なにしてたの?
タコ:後方支援だよ。
イカ:後方支援って具体的にはなに?
タコ:物を運んだり、インフラを整備したりいろいろ。
イカ:ふ~ん。
タコ:いわゆる物資救援という奴だな。
イカ:あー、ブッシュ救援か。
 じゃ、また。




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