<情報料>

pressココロ上




 僕は20代にタクシー乗務員の経験がありますが、特に「運転が好き」とか「運転が得意」だったという理由からではありません。単純に給料が高かったからです。今から20年以上前の話ですが、当時の大卒の初任給が13万~14万円くらいのとき、求人広告にタクシー乗務員の給料「33万円以上可」と書いてありました。その頃すでに「お店を持ちたい」と考えていましたのでお金を貯める必要があったのです。それには、多少仕事がキツクとも高収入の仕事に就こう思っていました。
 ただし、求人広告に「高収入」と書いてありましても、それが真実かどうかは不安でした。しかし、たまたま通りがかったタクシー運転手の方に尋ねましたら、「まんざら嘘でもなさそうだ」という感触は得ていました。
 結論を言いますと、「半分真実で半分大げさ」といったところでしょうか。理由は、仕事のコツを発見してからは「求人広告に書いてあるとおり」稼げましたが、それまでは30万円はおろかそれよりかなり下回った収入しか得られなかったからです。
 もちろん、僕の個人的な資質もありました。僕はタクシー乗務員をやるまで道路は全く知りませんでしたし地理もチンプンカンプンでした。このような状態では稼げるわけはありません。その頃は運だけが頼りでしたので売上げの波が激しかったのを覚えています。
 求人広告には、「会社の負担で二種免許取得、合格するまで日給支給」」とも書いてありました。これについては僕は自慢できます。僕が入社したタクシー会社は二種免許を取得させる教習所と契約をしており、そこで約2週間練習をしたあと試験に臨むシステムでした。僕が入所したときは10人ほどの新人さんがいましたが、その中で1回目の試験で合格したのは僕一人だけだったのです。だから自慢できるのです。実際、合格したあと会社に行き人事課の課長さんに「優秀だね」と褒められたときはとてもうれしかったです。
 僕以外の、1回目の試験に落ちた人はどうしたかと言いますと、ほとんどの人が2回目、最悪でも3回目には合格していましたのでさほど偉くもないのですが…。
 それはともかく、教習所は無料でしたし、通っていた期間もちゃんと日給はもらえましたのでその点においては求人広告に嘘はないことになります。
 さて、先ほども書きましたのように、売上げを上げるコツを発見してからは求人広告のとおり稼げたわけですが、そのときの僕の収入が標準的かと言えばそうではありません。僕は毎月トップ10に入る成績でしたので可能な収入でした。
 トップ10に入れたのは「コツを発見した」こともさることながら、それ以外にほかの人たちより実働時間を長くしていたことも理由です。先輩たちは、一日の労働時間の間に適度に休憩時間を作っていましたが、若かった僕は食事時間以外はただひたすらタクシーを走らせていました。
 当初、僕は先輩たちが休憩時間を取っていることを知りませんでした。それを知ったのは、会社側が「燃費のよい乗務員」を発表するようになってからです。休憩を取る人は走行距離は増えずにガソリンだけを消費しますので自然と「燃費は悪く」なります。それに比べ僕はほとんど走っているのですから「燃費がよい従業員」になって当たり前です。僕は毎月ほとんど1位でした。
 話を戻しますと、僕の収入は成績上位ゆえに稼げた数字ですが、一般的な乗務員の収入はいかほどかと言いますと、僕の新人時代の収入の2~3割アップの数字です。ということは、求人広告の内容が「真実ではない」ということになります。会社の中で、求人広告の記載どおりに稼げる人は、全体の1割程度だったのではないでしょうか。
 僕のこの話は今から20年以上前のことですので、現在とはかなり様子が違っているように思います。皆さんは、最近の折込求人案内や求人情報誌でのタクシー乗務員募集の記事を読んだことがありますでしょうか。最近、出ている数字は「40万円以上可」が一般的です。中には「45万円以上可」というのもありますが、平均すると「40万円」くらいだろうと思われます。
 ベテランのタクシー乗務員の方がよく言う台詞に「昔はもう少し稼げたのに…」がありますが、実際最近のタクシー乗務員の収入は低下している模様です。その最大の理由は、規制緩和でタクシー台数が増えたことです。また、一部では価格の自由化もありましたので、そうなりますと会社の経営方針の差がそのまま乗務員の収入の差になるようになっています。このように競争原理が働くようになった環境でタクシー乗務員の収入は減っているはずです。そんな中で「40万円以上可」はやはり額面どおり受け取れません。
 そうなりますと、求人情報に瑕疵があることになるのですが、それが大きな問題になることがありません。僕は、そこに不満を感じています。多くの人は折込求人案内や求人情報誌で仕事を探すわけですから、そこに真実が書かれていないなら読者が不利益を被ることになってしまいます。
 基本的に、求人案内のメディアは広告主寄りの立ち位置です。なぜならお金を出してくれるからです。それに対して読者は一銭も支払わないのですから、読者より広告主を大切にする傾向があります。しかし、それではメディアとしての責任を果たしていないように思います。現実問題として、応募者は広告内容を見て応募の是非を判断するわけですから記事内容が正確でないなら交通費の無駄な出費や無駄な時間を費やすことになってしまいます。
 最近の不景気により求人広告会社も厳しい環境に置かれていることが予想されますが、そうなりますとますます広告主寄りの記事になりがちです。しかし、どれほど苦しい業績であろうと読者を結果的にでも欺くことにならないようお願いしたいと思います。
 もし、あまりにも広告主寄りの立場に立ってしまうなら、結局は読者の信用を失い求人広告という媒体自体が消滅することもあり得ます。つまり自分で自分の首を締めることになるのですから、メディアとしての責任をきちんと果たすのが一番です。
 実は、メディアの危うさは求人広告に限りません。その他のメディア、つまりマスコミと言ってもよいのでしょうが、情報の受け手に対してあまりにも無責任のような気がします。例えば、間違った情報を流したとしてもそれに対する責任の取り方が甘いような気がします。特に、テレビやラジオなど視聴者からお金を取らない業界に顕著です。この点は、求人広告と同じです。
 マスコミが第四の権力と言われて久しいですが、僕はそのマスコミを監視するシステムがないことに不満です。ほかの3つの権力は三権分立により形式上は監視ができるシステムになっていますが、第四の権力だけはないのが不納得です。
 仮に、マスコミが報じた情報に間違いがあったとき、視聴者に対して金銭的な補償を与えるようにするなら、マスコミは間違いなく現在より緊張感を持って情報を発するはずです。これは一概に突飛な発想ではありません。
 一昨年、松下電器は石油ファンヒーターの欠陥事故に関連して莫大な費用をかけてその対応に当たりました。この対応は一般社会から賞賛されましたが、製造業では自分たちが作った製品に対して全責任を追うのは基本的な考えです。同じように考えるなら、マスコミも自分たちが報じた情報に責任を負う必要があると思うのです。
 …でも、現実的じゃないかなぁ。まぁ、皆さん、とりあえずは情報料がタダの情報には充分気をつけましょう。
 ところで…。
 本文でタクシーの話をしましたが、僕は先輩たちより長時間働いて高収入を得ていたわけです。それに対して先輩たちは僕ほど走行距離が多くなくともそこそこは稼いでいました。その理由は無線配車にあります。僕のような新人は無線車に乗せてもらえませんでしたが、無線車に乗ると「ラクして」収入を上げることができます。無線配車で乗せたお客さんは上客の確率が高く、うまく行くと2~3名の乗客で僕の一日の売上げと同じになることもあります。
 そうなりますと、当然無線の取り合いが起こるわけですが、無線を拾うのもテクニックの1つとなります。ベテランの方たちは無線を拾いやすい場所というのをそれぞれ持っており、、深夜ひたすらそこで待機して無線が出るのを待っているものです。
 当時は、現在と違い乗務員の位置が会社にわかりませんので、会社側に自分のいる場所を偽ることができました。普通は、無線を拾ったなら、お客様のところに「なん分で到着できるか」を会社に伝えます。あまり時間がかかると会社側から断られることもあります。ですから、乗務員は無線を拾ったら、実際より短めに報告する傾向があります。多少離れた場所にいてもすっ飛ばして行こうとします。せっかく拾った無線ですからむざむざ手放すのはやはり勿体無いのです。
 しかし、中にはすごい先輩がいて、
「昨日、千葉まで行った帰りに偶然無線拾っちゃってさ…。10分って言ってもらっちゃったよ」
 なんと、千葉で無線を受けて霞ヶ関まですっ飛んだのでした。すごいですよね。
 じゃ、また。




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