<対等>

pressココロ上




 先々週のことですが、コンビニ業界最大手のセブンイレブンが公正取引委員会から「排除措置命令」を受けました。詳しく説明しますと、加盟店のお弁当値引き販売に対して本部が制限をしていたことが、「優越的地位を乱用して見切り販売を不当に制限している独禁法違反の疑い」があると判断したわけです。
 本部のこうした加盟店に対する制限はほかのコンビニでも行われていることは広く噂されていましたが、今までは大きく報道されることは少なかったように思います。その意味で、今回の公取の判断は画期的なことと言えるのではないでしょうか。
 報道によりますと、値引き販売をすることによって加盟店の利益が数十万円増える店舗もあるそうですから加盟店にとっては大きな一歩です。FCシステムの本部と加盟店の基本的な関係は主従関係と言われても仕方のない関係です。本部の言いなりになるしかない加盟店ですので今までにもそして現在でも裁判を起こす店主もいます。しかし、裁判で加盟店側が勝訴した例は聞いたことがなく、それはつまり本部が如何に強い立場であるかを示しているようにも見えます。
 そんな状況の中、今回の公取の判断は今後のFCビジネスに変化を促す可能性もあります。もし、今までの裁判で加盟店が勝訴していたならコンビニを中心としたFCビジネスは現在とは違った形になっていたかもしれません。やはり、現在のFCシステムにおける本部と加盟店の関係は第三者の立場から見て対等とは見えません。過激な言葉を使うなら「いびつな関係」と言ってもよいのではないでしょうか。本来、本部と加盟店はお互いに力を合わせて業務を行うべきもので、それが「いびつな関係」であるならFCシステムはいつ破綻してもおかしくないように思います。
 日本でFCビジネスを最初に広めたのはセブンイレブンと言ってもよいと思いますが、そのセブンイレブンはFCビジネスを米国から学びました。現在、ヨーカドーの会長をしています鈴木敏文氏が部長時代に米国に渡り勉強してきたのがはじまりです。
 その後、ライセンスを与えたほうの米国の会社が業績不振に陥り、1991年に日本のセブンイレブンが買収しています。つまり子会社が親会社を買収したことになります。このように書きますと、日本のセブンイレブンのほうが米国のセブンイレブンより経営能力が優れているように見えますが、一概には言えません。
 理由は、日本と米国ではFCビジネスのシステムが異なっているからです。一言で言うなら、米国のFCシステムは本部と加盟店の関係が対等であることです。関係が「対等」であることは本部が好き勝手に指図できないことであり、それだけ経営能力を求められることにもなります。例えるなら、なんの文句も言わない従業員を使うよりいろいろと注文をつける従業員を使うほうが難しいのと同じです。日本のFCシステムは本部にとって経営がやりやすいシステムと言ってもよいでしょう。なにしろ加盟店が文句を言えないシステムになっているのですから…。
 僕は自サイトの本コーナーで「誰も教えてくれないフランチャイズ本部の立ち上げ方」という本を紹介していますが、脱サラをするなら加盟店でなく本部をやらなければ意味がないと思っています。加盟店主という立場は、単に身分保証がなく固定費のかからない中間管理職でしかありません。会社に属している中間管理職なら、有給休暇があり厚生年金があり仕事中にケガをしたなら補償が受けられます。こうした福利厚生の費用は全部ではありませんが会社が負担してくれます。それに比べて、日本のFCシステムは本部がこうした負担をすることなく人材を活用できるのですからこれほど有利な経営環境はありません。僕から見ますと、日本のセブンイレブンが米国のセブンイレブンを買収できるのも当然のように思えます。
 本屋さんに行きますと、鈴木敏文氏を賞賛する本がいくつか並んでいますが、その理由はセブンイレブンを高収益企業に育てたことによります。しかし、個人的には疑問を感じています。それは、鈴木氏がヨーカドーの社長会長になってからヨーカドーの業績がそれほど伸びていないからです。本当に経営者として優秀であるならヨーカドーの業績も伸ばせるはずで、それができていない現時点では鈴木氏を名経営者と言うのには僕は抵抗感があります。僕がこのように思うのは、僕が基本的にFCで高業績を上げている企業を評価していないことも関係していますが…。
 それはともかく、FCシステムの象徴であるコンビニ業界に対して今回の公取が与えた判断はとても大きな意義があります。今後、FCシステムは変化していくでしょう。
 このように外からの圧力によってFCシステムが変化する可能性がありますが、それとともに内部からの圧力もあります。それは加盟店主のなり手が減少していることです。加盟店側の不利さを大手マスコミで報じられることはあまりありませんが、ネットでは数多く紹介されています。
 こうしたことにより、最近ではFC本部は加盟店集めに四苦八苦しているようで、今後はFC本部も加盟店に対する姿勢を変えざるを得ないはずです。なんと言っても、FCシステムは加盟店がいなければ成り立たないのですから。
 今週はFC本部に苦言を呈する内容ばかりになってしまいましたが、僕はFCシステムや本部を悪者としてだけ捉えているわけではありません。FCにもそれなりの存在価値があります。例えば、本当に有意義な価値のあるノウハウを確立したときそれを普及させるにはFCシステムは最適です。設備投資や物流などの資金を調達できないばかりに日の目をみないベンチャー企業もあるでしょう。銀行などは容易に資金を貸してくれませんから、そういうときはFCシステムで業容を大きくするのは理想的な姿です。しかし、リスクを加盟店に押しつけ本部ができるだけリスクを負わないようにするためだけのFCシステムは問題があると考えています。
 やはり先々週でしたか、経済誌にマクドナルドの記事が載っていました。外食産業が低迷している中、マックだけは業績を伸ばしているようです。しかし、記事の中で気になる内容があり、それはFC店舗を増やしていることでした。そして社長が「この方針を拡大する」と語っていました。理由は、「リスクを負わないため」というものでした。このような姿勢でFC店舗を増やし、例え高収益を上げることができたとしても僕には価値がないように思います。企業の基本は、リスクをほかに押しつけることによって収益を上げるのではなく、あくまで消費者に支持され売上げを上げることによって収益を上げることだと考えるからです。
 そもそも、自らのリスクを移転させリスクを低減させたつもりになっていても最終的にはリスクが跳ね返ってくるのは、昨年の米国のリーマン破綻が先例を示してくれています。
 いろいろ書いてきましたが、僕が今週言いたかったのは、FCシステムは本部と加盟店が対等な関係になってはじめて健全な経営形態になれるということです。脱サラをFCで考えている皆さん、是非とも加盟店と対等な関係を築いている本部を選んでください。
 ところで…。
 一度できあがってしまった主従関係を対等な関係に修正するのは並大抵のことではありません。それは主の立場であった者がその優越的な権利を失うことだからです。またプライドもあるでしょう。そうした諸々の既得権益を手放すのにはそれ相当の勇気と決断力が必要です。そのことがどれほど難しいかは、妻を見ているとわかります。僕も対等な関係になりた~い。
 じゃ、また。




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