<スピンアウト>

pressココロ上




 最近、僕が気になっている企業があります。花王です。新聞などでは「エコナに発がん性物質が含まれている」とか、消費者団体から「トクホの認定取り消しを求められた」とか報じられています。僕は花王の中興の祖と言われている丸田芳郎氏を尊敬しているのですが、花王には企業としての「志の高さ」を感じていました。ただ「儲ければよい」といった金儲け主義とは一線を画した「社会的責任に重きを置いた」企業だと思っていました。その「志の高さ」は丸田さん以降の常盤文克氏や後藤卓也氏にも見られました。その花王にしては今回の件はあまりにふがいない対応です。報道を見る限り全て後手後手に回っているように感じます。昔の花王であったならもっと素早い的確な対応をして消費者の不安感を払拭していたでしょう。下手をすると今回の件は、花王の存続を脅かすほどの問題に発展するかもしれません。是非とも丸田さんの理念を思い出し真摯な対応をしてほしいものです。
 企業に限らず組織というものは、その始まりには高邁な志があったとしても時が過ぎるのに伴いその志が薄れていくものです。そしていつしか「組織が存続すること」が目的になり自らの損得だけを考えるようになっていきます。その最たる例が官僚機構ではないでしょうか。
 たぶん、元々の官僚は私心を捨て公序を重んじ国家が発展することを願っていたはずです。ドラマにもなった「官僚たちの夏」の主人公のような人ばかりだったと想像します。それがいつしか組織の存続が目的になってしまい、官僚は保身ばかりを考えるようになってしまったように思います。それを物語るように官僚の汚職事件があとを絶ちません。
 昔から「悪貨は良貨を駆逐する」と言いますが、これは悪貨になる前は良貨であることの裏返しでもあります。官僚の中にも国家のためという高い志を持った純粋な人もいるはずです。しかし組織そのものが悪貨なら純粋な官僚は組織内で軽んじられてしまいます。つまり出世はできないということです。いくら官僚が高い志を持っていようともそれを実行できる立場にいなければ絵空事になってしまいます。そして無力感にさいなまれるでしょう。そして純粋であればあるほど高い志を持った官僚は組織をスピンアウトするようです。
 退職した官僚がその後に辿る進路として天下りが有名ですが、天下りは結局は組織の意向に沿うものですのでスピンアウトとは趣が違います。スピンアウトとは「自らの意志」が伴っていなければなりません。
 官僚をスピンアウトした人で思い出すのが「お金儲けは悪いことですか?」と世間に問いかけた村上世彰氏です。村上氏は元通産省の官僚ですが、官僚でいるよりも民間のほうが自由にお金儲けができると考えたようです。村上氏の考えの是非はともかく官僚をスピンアウトした行動力は評価してもよいのではないでしょうか。
 村上氏のように民間で「お金儲けをしよう」という目的で事業家になる以外にスピンアウトする例としては政治家に転出する人もいます。このような人は政治家として外から官僚を改革しようという意志があるようです。実際、このような政治家は数多くいます。
 民主党政権になり、行政刷新会議という組織ができました。この組織は予算の無駄をなくすのが目的のようですが、そのメンバーに僕は興味を抱きました。その中に加藤秀樹氏の名前があったからです。加藤氏は大蔵官僚をスピンアウトした人です。
 今から10年以上前、加藤氏は経済誌にコラムを持っていました。そのときの肩書きは「構想日本」という団体の代表でした。当時から加藤氏は予算や行政の無駄について提言をしており、その内容は的を得たものでした。僕はそのコラムを読み毎回納得していたものです。加藤氏の言動を見ていますと、純粋な志を持った官僚の姿が思い浮かびます。その加藤氏をメンバーに入れたのですから民主党の本気度がわかろうというものです。
 今でも行政の無駄が叫ばれていますが、僕が社会に関心を持つようになった20年以上前から行財政改革は叫ばれていました。それこそ天下りの温床となっている独立行政法人などは当時から無駄の象徴と捉えられていました。しかし、一向に改善されないまま今日に至っています。先週書きましたように、自民党政権時代は選挙公約で行財政改革を訴えながら選挙が終わると結局は少しばかりの取り繕いで終わる結果となっていました。そのような状況の中、加藤氏は具体的な提言を主張し続けていたのです。その加藤氏が行政刷新会議のメンバーに入ったのですから民主党には期待してよいのではないでしょうか。
 組織においては、正論を訴える人がその正論ゆえに疎んじられ窓際に追いやれることはよくあることです。このようなときスピンアウトするのも1つの方法です。組織が悪貨ばかりであったならいくら正論を訴えようが実現することは不可能です。そのようなときはスピンアウトして外から改革するしか方法がないかもしれません。僕は、加藤氏はそういう意図でスピンアウトしたのではないか、と想像しています。
 先週、JR西日本の福知山線脱線事件において社長が不正と思われても仕方ない行動を取っていたことが明らかになりました。このような組織では正論が通るはずがありません。このような組織を立て直すにはスピンアウトする以外に正論を訴える方法はないように思います。
 読者の皆さんも、もし属している企業が悪貨であると判断したときはスピンアウトしたほうがよいかもしれません。悪貨が跋扈する企業に属していることは、将来なにかのきっかけで組織が不正を働いたとき片棒を担いだことになってしまいます。また、そのような企業は将来的に消滅する可能性もあります。そのような企業はスピンアウトするに限ります。
 ただ、スピンアウトするには勇気が必要です。それまでの安定した立場を捨てることになるからです。また、スピンアウトしたならそれまでより忙しくなることも覚悟する必要があります。なぜって…、いつもスピンしてなくちゃならないんですから。
 ところで…。
 僕は民主党を褒めてばかりいますが、決して民主党支持者というわけではありません。まだ月日が経っていないのですから長い目で見守るのが筋だと思っているからです。また、期待している部分もあります。
 しかし、先週の鳩山政権の動きを見ていますと少しばかり不安を持ちはじめました。95兆円という大規模な予算編成やそのための赤字国債発行、閣僚間の意見の対立など政権が揺らいでいるように見えてしまいます。空中崩壊するのではないか…。そんな気分さえしてしまいます。
 やはり野党として批判だけをしていればよかった立場と、与党として政権を担う立場ではその責任の重さが違うようです。今の状態でこの先進みますと、最終的には前政権とあまり大差ない結果に終わる可能性もなくはありません。もしそうなってしまうなら民主党も自民党もほとんど違いがないことになっちゃい…、あっ、自民党の正式名称って、自由「民主党」だったんだ…。
 じゃ、また。




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