<機が熟す>

pressココロ上




 先日、遅い晩御飯を食べながらテレビを見ていましたら、旧ソ連大統領のゴルバチョフ氏が出ていました。その番組は歴史を取り上げているバラエティ番組のようで、旧ソ連の改革を推し進めた人物としてゴルバチョフ氏が出演していました。
 僕がゴルバチョフ氏について考えるとき、「よくぞ、共産党のトップまで上り詰めたものだ」という思いが真っ先に浮かびます。ゴルバチョフ氏がトップへ上り詰めたあとの行動は、それまでの共産党の政策を真っ向から否定するものでした。そのような考えを持つ人物がトップに就任できたことが不思議だったからです。普通なら、そのような人物はトップに上り詰める前に、どこかで失脚するはずです。失脚を望む勢力が必ずなにかしら策略をするものです。そうした策略をかいくぐりトップに就くことができたのは、やはりゴルバチョフ氏に用意周到な作戦があったろうと想像します。
 ゴルバチョフ氏が改革を推し進めることができたのは、トップに就き権力を持ったからです。その権力を持つまで、自分の考えを口にすることなくじっと我慢していたことも眼目に値します。機が熟すまで辛抱することの大切さを教えてくれています。
 似たような構図を日本でも見ることができます。小泉首相です。小泉氏も首相になったあと、それまでの自民党を否定する政策や行動を次々ととりました。こうした動きも首相になったからこそできたことでした。その小泉氏が首相になれたのも、ゴルバチョフ氏同様に不思議です。
 小泉氏の場合は、首相になる前から反自民党的な考えや行動を表してはいましたが、それでも自民党という組織の中で抹殺されない程度のことであり、その証拠に森派の会長代行を務めていました。ですから、自民党のそれまで主流を占めていた人たちは、あそこまで小泉氏が反自民党的な行動をとるとは思っていなかったのではないでしょうか。主流派の人たちは小泉氏を首相にして初めて、小泉氏の本当の考えを知り後悔したように思います。そこには権力を持つまでは、一定の限界線を自らに課していた小泉氏流の用意周到な作戦があったように思います。
 改革に限らず、それまでと異なる方向へ舵を切るためには、権力を持つなり多数の賛同者を得るなりなにかしらの戦術は必ず必要です。
 ゴルバチョフ氏にしろ小泉氏にしろ、トップに上り詰める前に自分の考えをあからさまに行動に移していたなら、全く成果をあげることなく消えていたのではないでしょうか。歴史に「~たら」「~れば」は意味がありませんが、そんな気がします。
 両氏とも、それまでの主流派の人たちからしますとある意味危険人物ですが、その危険人物をトップに選んでしまったのはタイミングのように思います。ソ連でいいますと、社会主義経済という経済システムがどうにもならない状況に追い込まれていたことでしょうし、自民党でいいますと、自民党という組織が「年齢が経過することによる疲労」に陥っていたことです。つまり、どちらもちょうど「機が熟して」いたことが両氏がトップに上り詰めることができた大きな要因です。
 相撲の世界では、貴乃花親方が理事に立候補したことがマスコミを騒がせました。相撲という世界は、典型的な保守的社会といった印象を受けますが、その社会では理事に立候補する資格は「しきたり」で決められていたようです。そうした因習に一石を投じた貴乃花親方の行動でしたから先輩親方などから強烈な反発を受けました。しかし、旧態依然とした相撲界に異議を感じていた親方はわずかながらもいたようで当選しました。
 マスコミ報道によりますと、貴乃花親方は「相撲協会の改革」を掲げているようですが、果たして成し遂げることができるのか、僕は疑問です。たかが、といっては失礼ですが、「理事の一人」に過ぎない貴乃花親方の立場で改革ができるとはどうしても思えません。新人の理事の上にはたくさんの先輩理事やさらには絶対権力を持っている理事長がいます。そうした組織の中で新人理事に過ぎない貴乃花親方が実行できる改革はしれているはずです。
 貴乃花親方の心中はわかりませんが、もし本当に相撲協会を改革したいのなら、理事長に上り詰めるまで我慢すべきだったと思います。焦りすぎのように感じます。理事長に上り詰めるまでいろいろな経験、例えば貴乃花親方を貶めようとする勢力に対する対応の仕方や先輩理事に対する接し方、または真の味方の見つけ方などを体験する中で、理事長として改革ができる糧が養えるように思います。貴乃花親方が改革を実行するにはまだ「機は熟していない」感じがします。
 企業という組織は、平社員からはじまり一歩ずつ役職を上って幹部、さらにその上にたった一人だけがなれる社長が君臨している構造になっています。中には、特に優秀で一足飛びに2~3の役職を越えて幹部になれる人はいるかもしれません。しかし、一足飛びで社長には絶対なれません。少なくとも、社長になるには役員になっている必要があります。間違っても平社員が社長になることはありません。
 社長になる前に、いえいえ役員になる前に、いくら画期的な提案を行ってもその提案が幹部の人たちの考えや存在を否定する内容であるなら、日の目を見る前に握りつぶされてしまうでしょう。過去に、私的流用など幹部が腐っている企業で、改革を目指していた中堅社員が出世競争から排除された例はたくさんあります。本当に改革を目指すなら、そして改革を成し遂げたいなら社長になるまでじっと主流派に取りこまれている、もしくは取りこまれている“振り”をしている必要があります。そして、社長になって初めて、自分の目指す改革を行動に移せるのです。
 社長になって改革を実行に移したからといって、必ず成功するとは限りません。けれども、少なくとも社長になる前に実行するよりは確率が高くなるはずです。社長になった環境で実行してこそ、その改革が「正しかったのかどうか」がわかろうというものです。
 社長になる前に、いえいえ役員になる前までに、自分が理想と考える企業を作りたいなら脱サラするのも1つの方法です。やはりある程度の役職になるまでには、それなりの期間を要しますので、それまで待てないという人もいるでしょう。
 それでも、あまりに若いうちの独立は考え直したほうがよいでしょう。若い起業家は世間的には華々しく映りますが、決して成功する確率は高くはありません。マスコミでは成功した若い起業家を持ち上げる傾向がありますが、それは稀有な存在だからに過ぎません。その証拠に、ひとたび業績が落ちたり問題が起きますと「これでもか」と叩き始めます。
 独立を考えるとき、個人事業主ではなく法人化し、ある程度の規模の法人を最初から目指すなら年齢は大切です。つまり、法人化の独立はある程度の年齢に達してから実行すべきです。
 先ほども書きましたように、企業では社長になってから自分の理想とする改革が実行できるのと同じように、独立もビジネスマンとしてある程度実力が養われてから実行すべきです。組織内と違い、独立では失脚させようと画策する勢力は存在しませんが、あまりに若いうちの独立では、いろいろな経験をすることで得られる実力が培われていないからです。
 なにかを成し遂げようとするとき、そのときの年齢や状況などを見定めることはとても重要です。若い皆さん、機が熟すのを待ちましょう。
 ところで…。
 自民党の鳩山邦夫氏が離党しました。また、自民党ではベテラン、中堅を含めていろいろな人たちが執行部批判を公にしています。民主党では生方幸夫氏が役職を解任されましたが、その処遇に対して党内で賛否両論があるようです。
 民主党政権が誕生して半年が過ぎ、マスコミなどで検証が行われています。僕的には、今の状況が民主党の限界のように感じているのですが、皆さんはどのような感想を抱いているのでしょう。
 民主党が限界だからと言って民主党が政権についた意義がないか、というとそうは思いません。戦後長く続いた自民党政権を交代させたことだけでも大きな価値があると思います。共産国ではないのですから、一党独裁に近い政治形態が続くことは好ましくありません。
 そうした中、民主党、自民党ともに党内に新たな展開が起きそうな雰囲気がしています。政治の世界に権力闘争の側面があるのは否めませんが、権力闘争などではなく、損得や利害を越えた真に国のためになる政策を行う政党が現れることを願っています。現在の状況は新しい政党を作る転機に相応しい雰囲気ではないでしょうか。
 雰囲気はとても大切です。「機が熟す」は「気が熟す」とも言えます。
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする