<バランス>

pressココロ上




 本屋さんに行きビジネスコーナーに並んでいる本を見ていて、いつも思うことがあります。基本的にビジネス書の著者は男性のことが多いのですが、女性の著者も幾人かいます。今流行りのコンサルタント系の方から現役社長または元社長、それから接客マナーの専門家やセールスの世界で有名な方、そしてちょっと変わったところでは夜の世界の女性などいろいろな人がビジネス書を書いています。そうした女性たちの本には共通点があるのですが、それは「美しい人」が多いことです。
 中には、「美しい人」とはちょっと離れた方がいないでもありませんが、そうした方は元社長であったりといったビジネスでの経歴に実績がある方ですので、美人でなくとも説得力があります。真の意味でのビジネス書と言えそうです。
 反対に、ビジネスの実績がまだそれほどでもない、言い方を変えるなら「若い」ということですが、そういう年齢の方が書いた本も目立つように陳列されています。「目立つ」とは、先ほども書きましたように美しい顔立ちですので、もちろん本の表紙には顔がアップされていますし、その表紙が一目でわかるように平台に陳列されています。
 「若い」と言いましても、やはりそこはビジネスの社会ですから、二十歳過ぎの女性ではありません。会社でいいますと中堅どころとなる30才半ばから40才過ぎあたりの年齢です。ある程度、読者に信頼感を与えるには最低でもそのくらいの年齢は必要です。女性経験が豊富な壮年男優が「女性が最も美しいのは30代から40代」と語っていたことと考え合わせますと、女性として最も輝いている時期と言えるかもしれません。
 もちろん、顔立ちだけでなく体型も整っていますので、モデルになっても通用するほどのルックスということになります。僕は、女性が書いた本を見るとき「そうした傾向がある」といつも思うのです。
 芸能界やモデルの世界では当然美人が有利ですが、ビジネス書のこうした傾向は、ビジネスの世界でも美人であることが有力な武器になることを示しています。ビジネス書は多くの読者が男性ですから、僕が想像するところ、出版社も「この傾向」を意識して編集しているでしょう。一昨年あたりから経済経営分野で活躍している勝間和代氏(この方も美人の部類に入りますが)が「結局、女はキレイが勝ち」という本を出版していますが、世の中には男と女がいるのですから、ビジネス社会でも能力だけでなく美人が有利であるという面は否めないように思います。僕も美人は好きですし…。
 そんな著者のひとりに小室淑恵氏という方がいます。小室氏が書いた本は「ワーク・ライフバランス」という題名ですが、時間を有効に使って無駄な時間をなくし、仕事と生活を両立させようと提唱している方です。
 小室氏の主張を簡単に言うなら「就業時間内に仕事を終え、残業などしないで私生活も充実させよう」というもののようです。つまり「仕事とプライベートの両立」です。その小室氏は言います。時間の管理を工夫するだけで残業はなくせる、そして仕事だけでなくプライベートを充実させることもできる、またそうすることが仕事にいい影響を与える、と。
 東京の文京区の区長が育児休暇を取ることを表明して話題を集めました。自らが育児休暇を取得することによって、男性も「仕事だけに没頭するのではなく家庭の時間も大切にする」という考えを広めようとしているようです。その一環としての育児休暇取得でしょう。確かに、上司が育児休暇を取るなら、部下も取りやすくなります。このような上司を持った部下は幸せです。
 先週の久米さんのラジオに病児保育を展開している企業の代表が出演していました。その代表も今年の秋口に育児休暇を取ることを社員に宣言しているそうです。当然、代表が育児休暇を取りますと、各現場では社員が自ら判断をする必要に迫られます。代表の弁によりますと、そうすることによって社員の能力を高め、有能な社員を育成するのに役立つそうです。
 仕事とプライベートの両立を提唱している小室氏にはいろいろなところから講演以来があるそうです。この提唱が社会から求められている証拠です。確かに「働き蜂」だけで人生を終わってしまってはもったいないですし、プライベートも充実できたほうが人間らしい生活といえます。ほとんどのビジネスマンもその考えには賛成でしょう。余程の仕事好きでない限り、1日のほとんどを仕事だけに費やす人生を送りたいとは思わないはずです。
 しかし、現実は中々思うようには行かないのが常で、多くの企業、特に中小企業では残業どころかサービス残業までして働いているのが現実です。日本の企業の9割以上が中小企業ですから、つまりほとんどの企業がワーク・ライフバランスを実践できていないことになります。
 結論を言いますと、僕は区長や代表の行動に疑問を持っています。もちろん、ワーク・ライフバランスの考えに異論はありませんが、現実的ではありません。
 まず、区長の場合を考えますと、そもそも立候補したときに「育児休暇を取る」ことを表明していたのかどうか、は重要です。「育児休暇を取る」ことを表明したうえで当選していたのなら問題はありませんが、もし表明していなかったなら問題があります。表明の有無で区民の投票行動も変わっていたかもしれないからです。
 また、基本的に区長という公務員の身分は業績が悪いからといって職場が倒産することも、解雇されることもありません。そういう身分の人が率先して「育児休暇を取る」ことに違和感を持ちます。中小企業においてサービス残業が行われているのは、それをしなければ倒産または業績が悪化するからです。決して好き好んでやっているわけではありません。
 次に、代表の場合は、民間企業ですので業績に悪影響を与えないならなんの問題もないように思えます。しかし、現場で働いている社員の方たちに対する影響はどうでしょう。
 保育業はサービス業ですから、人海戦術の極みのような職場です。そうした職場で人ひとりが休暇を取ることがどれほど周りに影響を与えるか僕には想像がつきます。このような職場で働いている人たちの一番の悩みは人間関係です。
 僕は昔スーパーで働いていましたが、スーパーは保育業と同じように人海戦術の職場ですし、女性の職場でもあります。普通、スーパーでは各人に休日希望日を自己申告してもらい、それを元に上司が勤務表を組みます。このときにうまい具合に全員の休日希望日が重ならなければいいのですが、そうしたことは稀です。大概において、誰かが譲ったり我慢したりしなければなりません。そういうとき、どうしても一部の人にしわ寄せがいきがちです。人間関係の悩みはこのようなときに表面化します。たぶん、女性が働いている職場ではどこでも同じでしょう。このような環境の職場で公平に休日を決めるのには大変な気苦労が伴います。
 このように、普通の休日でも簡単には決められない、もしくは取れない現場がある中で、その幹部や上層部の人たちが安易に長期の休暇を取るのは公平ではないように感じます。かつて経営の鬼と言われた元経団連会長の土光敏男氏は「出世するほどに働け」と主張していました。事実、氏は社長在任時、誰よりも早く出社し誰よりも遅く退社していたそうです。地位が上がるほど時間に関係なく働くのが、本来のビジネスマンのあり方ではないでしょうか。
 一部の幹部や上層部だけがワーク・ライフバランスを実践しているのでは意味がありません。同様に、社会においても一部の上流階級や特権階級だけがワーク・ライフバランスを実践していても、それは本当の意味でのワーク・ライフバランスではありません。もし、本当にワーク・ライフバランスを提唱するなら、末端の現場で働いている人たちが実践できるような職場環境を整えたあとに幹部連が実践するのが本当のバランスです。
 ところで…。
 普天間米軍基地問題は、とうとう福島社民党党首の罷免という展開になってしまいました。それにしても、鳩山首相の言葉の軽さ、そしてバランスに対する認識の欠如はなにをかいわんやです。今ごろになって、「米軍兵力の亜細亜地域における重要性がわかった」などという発言は基地問題のバランスを「全く理解していなかった」と言っても過言ではありません。
 これまで、沖縄に米軍基地を押しつけてこられたのは、日米安保と沖縄住民の感情を微妙にコントロールしながらバランスを保つ努力してきたからです。まさに綱渡りの状態でした。そのバランスを選挙に勝ちたいがために簡単に崩した挙句、その後の対応も瑣末なもので落としどころが全く見えません。バランスを保つためにはなにが要点であるかを見抜くことが最も大切です。
 どんなことにおいても、どこに要点があるかを把握することはとても重要です。
 ある日、あることについて妻に説明していたときです。いくら僕が説明しても妻は理解できないらしく、妻も苛立ってきているようでした。僕にしましても、自分の言うことが理解されないことに腹が立ち、思わず強い口調で言ってしまいました。
「馬鹿タレ!」
 すると、妻も頭にきたらしく、すぐに言い返しました。
「なんで、『タレ』をつけるんだよ!」
 ねぇ、皆さん。ふつう、こういうときは「タレ」に怒るんじゃなくて、「馬鹿」のほうに怒るんじゃないのかなぁ。要点がズレてるんだよなぁ…。
 じゃ、また。




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