<プラスとマイナス>

pressココロ上




 民主党の代表選挙も菅首相の続投が決まり、閣僚も決まりました。閣僚の顔ぶれを見て、僕が期待を感じたのは片山総務相です。ご存知の方も多いでしょうが、この方は元鳥取県知事で、その前は自治省の官僚で、私心がなく人間的にも素晴らしい方で能力も高く、ホントにいい人だと思っています。皆さん、期待しましょう。
 小沢さんシンパの人たちにとっては不満でしょうが、僕はとりあえず、この結果に満足しています。小沢氏の主張はどう見ても財源があやふやですし、そもそも小沢氏は前面に出て活躍するのは不得手のように僕は思っています。たぶん、本人もそれを自覚していると思いますが、今回は流れの中で出馬せざるを得なくなったのが実状ではないでしょうか。
 さて、今後民主党政権は財政赤字や円高など経済問題から普天間米軍基地のような外交問題などいろいろな問題に取り組まなければなりせん。その一つに官僚との関係構築といった問題があります。政権交代以降、官僚との関係が円滑だったとは言えません。
 昔から政治家が訴えていた問題点として官僚の「天下り問題」があります。自民党政権のときから言われていますのでいささか古めいた感じもしますが、「天下り問題」は国民の政治に対する不信感のひとつであることは間違いありません。また、政治家は「官僚たたき」をすることによってマスコミや国民からの評価が上がると考えていますので、その側面とも合致します。もちろん、「天下り禁止」は天下り先となる無駄な行政法人をなくすことにもつながりますので財政的にも意義があります。
 そのほかに、政治家が主張する政策に「公務員削減」があります。この政策も自民党時代から言われていましたが、遅々として進んでいませんでした。民間企業が生き残りのために涙を飲みながらリストラを敢行している中、公務員だけがリストラと無縁であるのは社会正義の観点からも公平ではありません。税金という国家の収入が減っている現状では、「公務員削減」も理になかった政策です。
 これらの政策に対して、マスコミもいろいろな取材を元に支持してきました。先に書きましたように、これらの政策はずっと以前からの課題ですが、一向に実現されていないのが実状です。その証拠に、先の参院選でも掲げられていましたが、選挙のたびに公約やマニフェストに掲げられています。
 しかし、「天下り禁止」と「公務員削減」という2つの政策は元来、矛盾を含んでいます。そして、その矛盾は事前にわかっていることでもありました。「天下り」を別の角度から見るなら「退職をしてもらう」ことですから、それを禁止するなら人員が減らなくなるのは当然です。天下りを禁止し人員削減も行なうことはかなり無理があることがわかります。
 唯一、両方を可能にするのは新規採用を控えることですが、この方策でも問題が起きます。それは、新規採用を控えることが新社会人の就職先を一つ減らすことになるからです。また、この方策は別の問題も引き起こします。新規採用を控えるのですから、その年代の人員が極端に減少することになり、それは、組織の人員構成がいびつになることにつながります。つまるところ、将来その世代が組織の中心になって活躍しなければいけないときに人材不足が起きてしまいます。
 このように見てきますと、両方を達成するには非情に徹するしか方法がないことがわかります。リストラされる人たちがどんなに苦しもうが辛い状況になろうが、それは自己責任として見放すことしかありません。公務員ですから退職を強要することはできませんが、例えば、公務員の職場なり身分を民営化することも一つの方法です。しかし、現実問題として、労組などの反対で容易ではありません。民営化することは即ち、身分が不安定になることだからですが、しかし、その不安定な身分で頑張って働いている人は民間企業にたくさんいます。それを思うとき、政府が公務員に対して非情な方策を採ることも仕方ない選択のように思います。当然、公務員の方々からは非難されるでしょうが、悲しいかな、実社会では全員から好感を得ようとする八方美人ではものごとは前に進みません。
 このように「天下り禁止」という一つの政策をとってみてもプラス面とマイナス面があります。しかし、世の中にはそのような状況はたくさんあります。
 例えば、高齢化が進み、政府は高齢者も働けるような環境づくりを進めています。これは、まだまだ働きたい高齢者にとってはプラス要因ですが、若い人たちにはマイナス要因となります。新聞などを読みますと、高齢者が企業で働きつづけることが新規卒業者の就先先の減少につながっているそうです。一昔前までは、ある年齢に達したベテラン社員は退職し新入社員と入れ替わっていました。そうした流れが起きない環境になっています。
 例えば、派遣労働者の待遇を改めることは派遣で働く人たちにはプラス要因ですが、企業や正社員にとっては収益や収入が減少することですからマイナス要因です。企業や正社員は自らの不利益を派遣労働者たちに押しつけることによって利益を得てきました。そうした労働構造を改めるには、例え非難されようともマイナスを被る人たちを説得することが必要です。
 例えば、沖縄に米軍基地の75%が集中していることは、沖縄以外の住民にとってはプラスですが、沖縄住民にとってはマイナスです。鳩山政権時の「県外移設」という言葉が沖縄住民の反発心に油を注ぐ結果となりました。15年かけて少しずつ進展させてきた普天間問題はまた最初の段階に戻ってしまいました。それでも日米安保を維持し、国を守るためにはマイナスを被っている沖縄の人たちに納得してもらえるまで辛抱強く説得するしか方法はありません。
 これまでの例からわかるように、一つの方策には必ずプラス面とマイナス面があります。関係者全員がプラス面を享受することなど不可能です。それがわかっていながら、プラス面だけを強調するのは解決を遠のけさせるだけであり、マイナス面を被る人たちの心をかたくなにするだけです。
 僕はマスコミの報道の仕方に不満があります。ある政策について報道するとき、あるときはプラス要因だけを取り上げ、あたかもプラス面しかないように報道しながら、いざ政策が実行に移される段になると、今度はマイナス要因を強調して報道します。これこそ八方美人的発想で、こうした報道は徒に政策実現を阻害するものでしかありません。こうした行為は責任を負わない立場にいるからこそできることで、無責任のそしりを受けても当然のように思います。
 政策に限らずものごとには、プラス面があるなら必ずマイナス面もあります。マイナス面についても最初から伝え、そしてマイナス面を認めつつ、それでも尚プラス面を支持する報道のやり方が正しい姿勢です。マスコミは自分たちが支持する政策を明確に表明することは責務です。
 プラス面とマイナス面があることは、民主主義如いては多数決とも関係があります。民主主義は多数決によりものごとが決定されますが、そのときにマイナス面を被る人たちは常に少数派です。多数決を決行することは即ち「少数派をないがしろにすること」と裏表であることを認識していることはとても重要です。そうした気持ちがあって初めて多数決は意義が生まれます。マイナス面を被る人たちに一定の譲歩をすることは民主主義が成り立つ基盤です。ときには、少数派の人たちには「ひどい仕打ち」と感じることもあるでしょう。しかし、多数派の人たちが少数派の人たちの気持ちを常に忘れないように行動するなら少しずつですが、前に進むことができます。
 プラスとマイナスを合わせるなら、元々のプラスより少なくなるのは当然です。しかし、民主主義はそのようにして「少しずつ前に進むもの」と覚悟する気持ちを持つことも大切です。
 ところで…
 先週、代表選挙のほかに僕が注目したのは、元厚生労働省村木局長の裁判で無罪判決が出たことです。僕的には裁判の結果のほうが大きい出来事で、検察が上訴しないことを願っています。
 普通、誰も他人の自由を奪うことなどできません。もし、知らない人に自分の自由を束縛されることがあったなら、これほどショックで悔しいことはありません。それをできるのは警察であり検察です。それ以外の人がそのようなことをしたなら、それは犯罪です。それをなんの罪も受けずにできるのが警察・検察です。これはある意味、とても恐いことで、それを経験したのが村木氏でした。ニュースの映像で見た村木氏の笑顔を見て僕もうれしくなりました。
 それにしても納得できません。ここ最近の冤罪事件から考えますと、検察はもう少し慎重さがあって然るべきです。ニュースから感じる検察の取り調べ方法は「強引さ」が目立ちすぎます。報道を見る限り、「検察ストーリーありき」のような取調べのように見えますが、もしこれが事実であるなら、検察官の方々は「その強引さ」になんの疑問も感じなかったのでしょうか。このようなやり方では国民の信頼を失うばかりです。
 足利事件での冤罪が確定したあとに、テレビカメラに囲まれる中で菅家さんに深深と頭を下げた検察菅の姿はなんだったのでしょうか。単なるパフォーマンスに過ぎなかったのではないか、と邪推してしまいます。冤罪に対して反省する気持ちなど、全くなかったかのような村木氏の取り調べでした。もし、心の底から真剣に謝罪する気持ちがあったなら、今回の村木氏のような、あと一歩で冤罪になるような取調べなどしないはずです。僕は今、警察・検察に不信感が強くなっています。
 世の中から「悪人がいなくなることがない」現実の中で、警察・検察の果たす役割には大きなものがあります。その役割を果たすために国家は警察・検察に強大な力を与えているはずです。しかし、あまりに強大な力は自らを傲慢にもするようです。そうでなければ、無理やり検察ストーリーに合わせるような調書の取り方などしないでしょう。
 政治家や官僚、財界人などのような大きな力を持った悪人を捕まえるには、警察や検察が同等かもしくはそれ以上の力を持つことは必要です。しかし、その力にはプラスとマイナスがあります。プラス面は大きな力を持った政財界の人たちに負けないことですし、マイナス面は驕りが生まれることです。プラスとマイナスを合わせたとき、マイナスが大きい状態を赤字と言います。赤字の企業は倒産するしか道はありません。
 じゃ、また。




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