<免責>

pressココロ上




 知り合いの工務店の人とお話をしていましたら、思わぬところで東日本震災の影響を知りました。家の建て替えをしていた人の話です。
 普通、家を建て替える工事をしている間は仮の住まいに引っ越すのが普通です。もちろん、その仮住まいの家賃も発生しますから建て替え依頼主にしてみますと工事期間は短ければ短いほど助かります。しかし、震災の影響で工事が止まってしまうケースが多々あるそうでした。理由は、家を建てる際に必要となるいろいろな部品・部材などが不足していたからです。
 僕はこの話を聞いて、工事が止まった場合の仮住まいなどの費用は誰が負担するのか、責任を負うものなのか、を考えました。
 「常識的」と言っていいのかわかりませんが、一般の感覚では工事を請け負った業者が責任を負うのが本来のあり方のように思います。依頼主と契約した期間内に工事を終え家を渡したのちにお金をもらうのが仕事だと思うからです。たぶん、契約はそのような形式または内容になっているのではないでしょうか。
 しかし、工務店の方の話では、今回のような震災などでは建築業者は責任を負う必要がないそうです。通常、契約書には「自然災害」などによる工事遅延・中断は免責事項に含まれているそうです。そのように言われて思い当たることがあります。
 僕は以前、損害保険の代理店を営んでいましたが、自動車保険や火災保険など各種保険には必ず「免責事項」がありました。そして、そのほとんどに「自然災害」が入っていました。つまり、地震や津波で車や自宅が被害に遭っても保険金は支払われません。このように保険には「免責事項」としてきちんと契約書に記載されていますから問題はありません。しかし、先ほどの家の建て替え工事などに関してはあっさりと免責として認めるのには抵抗がなくもありません。
 自動車保険や火災保険などは対象となるモノに直接保険をかけますが、建て替え工事においては直接的ではありません。具体的に言うならば、東北地方の震災により様々な理由が生じて部品などが手に入らないことがあるかもしれません。様々な理由とは、部品を製造している工場が東北にあったり、また被害にあった東北地方の復興のために部品・部材を東北地方に優先させることなどです。確かにこれらの理由は尤もな理由ですが、しかし、部品・部材を調達する方法はほかにもあるように思います。そうした工夫や努力を考慮に入れることなくあっさりと免責とするのにやはり納得できないものがあります。
 話は少し逸れますが、僕は店の解体工事をお願いしたときに業者の方といろいろな話をしました。僕は解体の業者を探すとき、ネットを利用しました。「店舗 解体」で検索した結果の中から業者を選定しました。僕は4年前にも解体工事を経験していますが、そのときはいろいろな知り合いに声をかけ業者を紹介してもらいました。記憶が定かではありませんが、当時はネットで業者を探すという発想がありませんでした。そのときに比べますと、ネットの存在はとても大きな力となっています。科学の進歩はいろいろな場面で役立っています。おっと、話が逸れすぎてしまいました。話を戻します…。
 その業者には解体工事をお願いしましたが、その業者の本職は「解体」ではなく「建築」でした。建築が本職ですが、仕事を増やすために「解体」も請け負っていたのが実際でした。その業者さんから興味深い話を聞きました。
 十年前ほどから、古くなった家を一度解体して新しく建てるのはなく、古くなった家の一部を残しつつ新築同様に蘇らせる改修が流行っています。その理由にはいろいろあるようですが、その1つに仮住まいの費用の発生を避ける意味もあることを話していました。僕はそれまで中途半端に改修するよりは全て解体して作り直したほうが効率的だと考えていましたが、この理由を聞いて「なるほど」と思った次第です。
 それはともかく、建築工事にはトラブルを避けるために細かな取り決めがあるのが普通のようでした。こうした現実を知ったうえで、やはり、先ほどの「部品・部材が調達できない」ことによる工事遅延・中断を「免責」理由にするのはしっくりこないものがあります。
 幾度かこのコラムで紹介していますが、火災を起こした場合、「失火法」という法律がありますので他人に対する賠償責任は発生しません。つまり、「重大な過失」がある場合を除いて、出火しても責任は問われない免責となります。
 先週は、震災によって被害にあった家の住宅ローンに関する報道がありました。住宅ローンが残っている家屋が倒壊した場合、家屋はないのにローンだけが残ることになってしまいます。仮に、賃貸に入居するにしても新たに購入するにしても倒壊した家の分のローンは返済を続けなければいけません。これは被害者にとってかなりの負担です。報道では、そうしたローンについて軽減処置を施すことが紹介されていました。
 僕は、以前本コーナーで「倒壊―大震災で住宅ローンはどうなったか (ちくま文庫)
」という本を紹介していますが、この本は阪神淡路大震災のときに家がなくなったあとに住宅ローンだけが残ったいろいろなケースを紹介しています。
 この本を読み、ネットなどでの情報を合わせた僕の感想および感触を述べます。
 本を読みますと、当時残っていた住宅ローンは家屋がなくなったあとも返済を続けているようです。しかし、これが真実かどうかは「僕にはわからない」というのが正直な感想です。
 一応、表向きは「今でもローンを払い続けている」と報じられていますが、いろいろな情報に接した感触では、「なくなった家屋のローン」は免除されているように感じました。しかし、これをあからさまにすることは住宅ローンの根本を崩すことになりますので、絶対に認めることはできません。もし、認めてしまうなら、住宅ローンを組んでいない人たちのとの間に不公平が生じ、社会問題となってしまいます。そうした問題を表面化させないためにもあからさまにはできませんが、なにかしらの軽減処置をとっているのは間違いないのではないでしょうか。たぶん、今回の震災も同様の処置になるように推測しています。
 今回の震災においても、不公平は生じるかもしれませんが、僕は同じような対処が現実的だと思っています。やはり、なににおいても「責任を負わない」で済む環境は社会や組織を無秩序なものにします。責任の所在は明確にしておく必要があります。それでもそれぞれのケースにおいては融通を利かすのが現実的です。その意味において今回も建前と本音は使い分けていいのではないでしょうか。
 ところで…。
 いくら建前と本音を使い分けるという意味で「責任を負わない」で済む対処を認める、としても、やはり大金持ちにまで「残ったローン免除」を認めるのは違和感があります。では、その線引きをどこにするかというのが問題です。例えば、収入の多寡で線引きをするのか。またはローンの残高で線引きをするのか。とても難しいものがありますが、僕はある方法を思いつきました。それは建物の広さで線引きをするのが最良の方法です。なぜか?
「免責は面積で…」
 じゃ、また。




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする