<歴史は繰り返す>

pressココロ上




 僕が学生時代の頃ですから、かれこれ約30年前のことです。先輩と歩いていますと、目の前を5~6才くらいの男の子とそのお母さんらしき女性が僕たちを追い抜いて行きました。その追い抜きざまに男の子が歌っていた曲が耳に聞こえてきました。その曲は某カメラ専門店がテレビCMで流していた曲でした。今でも深夜にそのCM曲は流れていますので皆さんも聞いたことがある曲です。
 男の子は大きな声で気持ちよさそうに歌っていました。そして、お母さんの腕にはその専門店の紙袋が下げられていました。たぶん、男の子は自分の好きなゲーム関連機器をその専門店で買ったのではないでしょうか。そのことが彼の機嫌をよくさせ、そしてその専門店のCM曲を歌わせた、と僕は想像しました。
 企業名に「カメラ」とついていますが、当時からすでに取り扱っている商品はカメラだけではありませでした。テレビやAV機器、白物家電なども扱っていました。つまり、カメラを主に扱いながらも実質は家電量販店といえる店構えになっていました。
 男の子の歌を聞いて、先輩が笑いながら言いました。
「あのカメラ専門店はいいよなぁ。ああやって、無償で宣伝をしてくれる子供がいるんだから…」
 確かに、宣伝になっています。男の子には宣伝の意図などあろうはずはありませんが、男の子がやっていることは立派な広告宣伝です。その意味で言いますと、テレビCMがいかに重要かがわかります。
 当時、僕は大手デパートでアルバイトをする機会が多かったのですが、そのときすでにデパートにはカメラ売り場がなくなっていました。理由は、カメラ専門店が台頭していたからです。こうした専門店がデパートの各売り場を駆逐する傾向はその後も強まり現在のデパートの低迷につながっています。
 「いつごろから」か記憶が定かではありませんが、小売業はカテゴリーキラーでないと生き残れない、と言われるようになっていました。事実、その後はAV機器や家電製品は家電量販店で買うのが一般的になりましたし、衣料品も同様です。また、ホームセンターや薬局チェーンの伸張も目を見張るものがありました。いつしか、小売業は専門店化していきました。この流れは取り扱う品目が少なければ少ないほど成功する確率が高いことを示しています。
 この考えは正しいように思えます。取り扱う品目が少なければ少ないほど、スケールメリットを得られますので、仕入れ交渉を有利に進めることができます。また、ロスが少なくなるのもおわかりになると思います。モノを販売する仕事は扱い品目が少なければ少ないほど理想的です。
 僕は飲食業が長いですので飲食店について言いますと、ある有名なラーメン店はメニューが1種類しかありませんでした。また、青汁で有名なキューサイは現在でこそ扱い品目が化粧品から育毛剤までたくさんありますが、創業以来二十年以上青汁だけの単品経営を行っていました。企業の理想の姿と言っていいと思います。
 単品経営ではありませんが、カテゴリーキラーとして成功した企業で真っ先に思い浮かぶのはユニクロです。フリースを爆発的に売上げ、カジュアル服に特化した企業として大成功を収めています。しかし、覚えている方もいるでしょうが、ユニクロは成功したあとに野菜販売にも挑戦したことがあります。結局、軌道に乗らず数年で撤退していますが、僕の心に残ったのは、カテゴリーキラーとして成功していながら、違う業界に手を広げたことでした。
 僕も家電やパソコンなどを買うときに家電量販店を利用します。買うことはなくとも価格の目安として必ず1度は量販店をのぞきにいきます。その量販店で1~2年前から面白い現象が起きています。それは、電気製品以外の商品が売り場に並ぶようになったことです。僕が利用する家電量販店では売り場の1/4くらいが電気製品以外の商品となっています。雑貨から食品まで家電とは全く関連のない種類の商品が陳列されています。
 先週は、小売業界に関して興味深い報道がありました。三越伊勢丹ホールディングスが旧三越新宿店をビッグカメラに10年間一括賃貸する、という発表です。売上げを上げるべくいろいろと手を尽くしたようですが、最終的には振るわず建物を貸し出し家賃収入を得たほうが得策と判断した結果だと思われます。百貨店の凋落が言われて久しいですが、今回の発表に接しますと、やはり感慨深いものがあります。
 また、さらに面白く感じたのは、一括で賃貸契約を結んだビッグカメラが建物に入居するテナントを募集することです。まさに皮肉な現象です。大家さんが百貨店で、入居するのが専門店で、その専門店がほかの業種のテナントを募集する…。これでは専門店が百貨店化することになり、「結果的には百貨店が開業することと同じ」と感じるのは僕だけではないでしょう。
 小売業界の流れを見ていますと、百貨店やスーパーなどいろいろな種類の品目を扱うことによって消費者の支持を集めたワンストップショッピングの時代がありました。その後、商品を広く深く取り扱う専門店が支持を集め、ワンストップショッピングは時代遅れとなった感がありました。そして現在は、その専門店が「扱う品目を増やす」ようになっています。
 この流れがどこまで定着するかはまだ未知数ですが、専門店が徐々に専門店でなくなりつつある傾向は今後も続くように思います。特に、薬の専門店から出発した薬局チェーンやDIYのホームセンターなどを見ていますと、より強く感じます。
 いつの時代も「歴史は繰り返す」のでしょう。
 東日本震災が起きてから2ヶ月以上過ぎましたが、未だに放射能の危険が減るわけでもなく、また被災者の方々の困難や辛苦が解消される目処が見えてくるでもなく、被災者の方々は不安な日々を過ごしているでしょう。そんな状況にも関わらず、政治家は政局だけを見つめているように感じるのは僕だけではないでしょう。この光景は、かつての自民党政権時代となんら変わりません。
 「歴史は繰り返す」のが小売業だけではないのが残念でなりませぬ。
 ところで…。
 僕が学生時代、百貨店は一部の売り場が専門店に打ち負かされるようにはなりつつありましたが、まだ百貨店は流通業界の頂点に君臨していました。その証拠に、三越や伊勢丹、高島屋など有名百貨店に就職できるのは一流大学の卒業者に限られていました。僕はアルバイトの身分で働いていましたが、社員の人たちの出身大学を聞いて驚いた記憶があります。僕からするとエリートの集まりと映りました。実際、社員の人たちの意識下には一流企業に勤めているという自負が垣間見えていました。
 その百貨店が「元々は呉服店だった」と知って「へぇ~」などと思ったものですが、つまりは「いろいろなものを扱う百貨店」の前は「呉服の専門店」だったことになります。やはり、歴史は繰り返していたのですねぇ。
 このように考えますと、今現在売上げ日本一のヤマダ電気も100年後は、企業名をヤマデンなどと変えいろいろな商品を扱っている企業に変わっていることもありえます。そして、どこかの物知り顔のおじさんが若いお兄さんに向かって「この企業は元々は電気屋さんだったんだよ」などと話すのかぁ。
 じゃ、また。




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