<見せかけ>

pressココロ上




 経済誌・日経ビジネスには「敗軍の将」という記事がありましたが、最近はあまり見かけなくなっていました。やはり、毎週「敗軍の将」を取り上げるのは無理があるようです。いくら市場競争が激しい日本経済でも経済誌の記事に相応しい「敗軍の将」が毎週生まれるとは思えません。しかし、経済誌は毎週出ますので、そうなりますと無理やり敗軍の将を探し出さなければいけないことになってしまいます。ですから、限界があっても当然でした。
 そんなわけでしばらく「敗軍の将」の記事が掲載されていなかったのですが、6月の終わりの号に久しぶりに「敗軍の将」が登場しました。その将とは安田佳生氏です。この名前だけで安田氏の素性がすぐに思い浮かぶ方はビジネス通かもしくは読書通の方です。安田氏は基本的には起業家ですが、起業家としてよりもビジネス書の著者といったほうが通りがいいかもしれません。ベストセラー本「千円札は拾うな」と聞いてピンとくる方は多いでしょう。ほかには「検索はするな!」とか「嘘つきは社長の始まり」など題名が記憶に残る本を出していました。本の売上げは「題名がある程度決める」の法則を実践していた方でした。
 これまでのコラムで幾度か書いていますように「起業家の7~8割はIBMかリクルートの出身者」といわれますが、そんな仄聞に漏れず安田氏もリクルートの元社員です。リクルートで優秀なセールスマンとして結果を出したあと、1990年にワイキューブという人材コンサルタント会社を創業しました。安田氏の経営手法は奇抜でしたので、たびたびマスコミに取り上げられていました。そのときの安田氏の姿は若手の成功起業家といった趣でしたが、今回民事再生法を申請することになってしまいました。
 「敗軍…」の記事を読みますと、安田氏は経営内容を正直に告白しています。マスコミで取り上げられていましたが、内実はとても苦しかったようです。特に、資金繰りはいつも綱渡りの連続で眠れない夜を過ごしたことが幾度もあったそうです。経営とはそれほど辛く苦しいものなのですね。
 僕はこの告白記事を読みながら、「ナニワ金融道」で有名な青木雄二氏を思い出していました。青木氏は自らの経験から中小企業の悲哀を語っていますが、中小企業のほとんどの社長が資金繰りに苦しんでいるそうです。安田氏の経緯はまさしく青木氏の指摘していたとおりの経営者人生でした。
 僕が安田氏に注目したのは、「千円札は拾うな」の本を知ったときでした。奇抜な題名とその経歴に興味を惹かれたからです。その後、安田氏が自らの経営法についてマスコミに出て語っている姿を注意深く見ていました。そして、その姿に危なかしさを感じていました。僕は、その姿にハイパーネットの板倉雄一郎氏を重ねていました。
 安田氏は従業員を大切にするために社内にバーやビリヤードなどの施設を設けていました。この施策は、経営者として至極真っ当に見えます。利益を出すために従業員を冷遇する企業が多い中で厚生施設を充実させることは従業員のモチベーションを高めていたはずです。ですが、そうした施策が表面的な対応にしか映りませんでした。言い方を変えるなら、マスコミ受けするためにだけの施策のようにも見えました。記事の中で、安田氏はそこまでは語っていませんでしたが、第三者の僕からするとそのように思えて仕方なかったのです。
 実は、現在、あとひとり同じように見えている経営者がいるのですが、僕はその経営者に注目しています。従業員を大切にすることは重要ですが、それを叶えるに足る業績が裏づけとなっていなければ、単なるマスコミ受けを狙った浮ついた施策でしかありません。
 安田氏はこれまでに幾つかのビジネス書を書いています。それらにはビジネスマンに役に立つと思われる指南がありましたが、民事再生法の申請は結果的にそれらの指南が正しくなかったことを証明することになります。
 しかし、僕はこれはあくまで「結果論でしかない」と思っています。安田氏は残念ながら失敗したわけですが、それも挑戦したからこその結果です。ですから、間違ってもなにも挑戦していない第三者が安田氏を批判非難することはするべきではありませんし、その資格もありません。挑戦したその姿勢は賞賛されるべきものです。
 挑戦する姿勢は賞賛されるべきですが、挑戦している最中に主張していたり指南していた内容を第三者は全て信じることは控えなければいけません。まだ、結果が出ていないのですから無条件に受け入れるのは危険です。
 僕のサイトもそうですが、現代はいろいろな人が自らの考えや主張を社会に披露できる社会になっています。ネットの普及はそのような社会的流れを後押ししています。ですから、世の中にはいろいろな人が様々な主張や指南を展開していますが、そんな中、なにを信じてよいか迷う人も多いのではないでしょうか。
 たくさんの主張や指摘、言い換えるなら情報と言ってもいいですが、それら情報が溢れていることが問題ともなります。どれが正しいのかわからなくなっています。
 このように情報が錯綜している中、本当に中立で参考になり役に立つ情報を選択するのは難しいものがあります。情報を集める人たちは、その情報に疎いのですから、なにが正しくなにが中立でなのかの判断のしようがありません。とりあえず、言えることは僕のサイトを見ていれば間違いない、ということです。(笑)
 つまらない冗談はさておき、僕はネットで情報を集めるときに注意していることがあります。それは検索結果にあまりに多く出過ぎるサイトです。例えば、表面的には閲覧者を助ける意図のサイトのように見せかけておきながら、実態は「助ける」よりも「利益を狙っている」サイトがあります。表面上は人助けのように見せかけているだけに質が悪いと言ってもよいでしょう。読者の方々はくれぐれもそのようなサイトに騙されないように気をつけましょう。
 僕のサイトは本の販売やアフィリエイトでの収入を目論んではいますが、根本には初心者や専門外の方々に「参考になる」「役に立つ」ことを理念としています。ですから、それほど儲けを意識しているわけではありませんので、検索の上位に表示されることを意識しているわけではありません。ですが、「儲けを意識しているサイト」は検索で上位に表示されることに執着しています。ですから、検索結果の上位が全てそのサイトのどこかのページが表示されるように画策されています。そのようなサイトは信用しないほうがよいでしょう。そこまで検索対策を施しているのは間違いなく「儲け」を意識しているからにほかなりません。そのようなサイトが「参考になり」「役に立つ」内容が書いてあるわけがありません。
 ところで…。
 僕は仕事柄、外にいます。ですから、同じように外で働いている人と話す機会が多くなります。先日は、昼食を公園でとっていましたら、たまたま交通誘導の男性と話す機会に恵まれました。
 年齢は僕より少し上くらいのようでしたが、もうお孫さんがいるそうでした。相好を崩して「孫のためにこの仕事してんだようねぇ」と話している姿が印象に残っています。しかし、最近は不景気のようで、仕事が入る日数が激減したそうでした。「先週なんて、二日しか働いてないんだよねぇ」と曇り顔で話していました。しかし、求人案内には頻繁に交通誘導員の募集が掲載されています。僕はそのことについて尋ねました。
「ああ、それは大きい会社の話で、俺のいる会社みたいに小さいのはダメなんだよね」
 社会的格差はいつも不公平です。
 社会的格差で思い出したのは全日空のストです。このニュースを聞いた最初、僕は「今の時代にストなんてのは全日空の組合も時代遅れだな」と思っていました。どちらかというと批判的に見ていました。
 ところが、ストの背景を知るにつれ、同情の気持ちも浮かんできました。結局、ストは回避されましたが、ストを通告したのは子会社の組合です。理由は簡単で、全日空の親会社との待遇があまりに格差がありすぎるからでした。
 このような背景を知りますと、真っ先に考えるのは親会社の組合の対応です。今回の報道から考えますと、親会社の組合は子会社の組合の待遇にまで配慮していないのは明らかです。僕はこういう姿勢の組合を見ていますと、憤りを感じます。全日空の親会者の組合は本当の意味での組合ではありません。組合と言うからには労働者全員に平等に目配りをした活動をするのが本来の姿勢です。それを思うとき、全日空の親会社の組合は、まさしく「見せかけ」と言えるものです。
 じゃ、また。




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